第7話 ボス戦
(速い…ステータス以上に速い)
私は、高速で私の攻撃を躱すキングウルフの速度に、翻弄されていた。
形勢不利というよりは、攻撃がまったく当たらないという状態。
やたら警戒心が強くて守りに徹されると攻撃が当たらない。
「ガルルルル…」
威嚇するだけか…まあ、下手に攻撃してくるようなら返り討ちにできる自信がある。
その可能性を考慮して襲ってこないんだとしたら…コイツは相当賢い。
そして、私の攻撃の隙を見てカウンターを仕掛けるつもりなんだろう。
それまで逃げ続ける気か…
「シャアア…(ちょこまかと逃げやがって…)」
私は苛立ちを顕にしてキングウルフを威圧する。
スキルを併用した威圧だから、それなりに効果はあるだろうけど…戦闘に影響が出るほどではないね。
私は、威圧があまり効いていない事を確認すると、一気にキングウルフとの距離を詰める。
そして、思いっきり剣を振り上げて前足を狙う。
すると、キングウルフは皮一枚で剣を躱すと、待っていましたと言わんばかりに噛み付こうとしてくる。
……ソレが、私の狙いだとも知らずに。
「シャアアア(燃えろ)」
私は剣を振っていなかった方の手を前に突き出し、そこから炎を出す。
火魔法を習得したおかげで使えるようになった炎を使った攻撃。
私はそれを使って真正面からキングウルフの喉を焼く。
「ッアアアアアア!?」
高温の炎によって喉まで焼かれたキングウルフは、すぐに止まって口を閉じ、無理矢理横に飛ぶ。
その際、美しい毛並みに炎が付き、激しく燃え盛った。
「シャアアア(ようやく隙を見せたな?)」
口の中や喉を焼かれた痛みで転げ回るキングウルフが見せた隙。
それを私が見逃すはずがない。
私は剣をしっかりと握ると、キングウルフに向かって駆け出す。
そして、無防備に晒されている喉目掛けて剣を突き刺した。
「シャアアア!」
喉に突き刺さった剣を力いっぱい振り上げ、キングウルフの頸を掻っ切る。
斬られた頸からはだくだくと血が溢れ出し、人間よりも遥かに優れた嗅覚が、鼻につくような血の臭いを感じ取る。
「グ、グルルル…」
口の中を燃やされたかと思えば、突然頸を斬られて困惑するキングウルフ。
それでも私から距離を取り、なんとか威嚇をしてきた。
……が、もう遅い。
後は守りに徹するだけで勝手に失血死する。
コイツは警戒心が強すぎて面白くなかった。
だから、面白くない方法で殺す。
「シャアアア(一方的に焼く)」
高温の炎の球を飛ばしてキングウルフを攻撃する。
キングウルフはその魔法を容易く躱してみせるが、避けた先で血を吐いた。
その隙を狙って三発の炎の球を撃って攻撃すると、
「ガアアッ!?」
キングウルフは炎の球の爆発によって面白いほど吹き飛び、ボールのようにバウンドした。
…これは面白いかも。
「ガアァ……グルルルル」
まるで、生まれたての子鹿のように脚を震わせながら起き上がったキングウルフは、これまでにないくらい殺意の籠もった目で私を睨みつける。
そして、捨て身の攻撃に出た。
「ガアアアアアアアア!!!」
雄叫びを上げ、攻撃されることを厭わない直線的な動き。
これは、あの炎の球じゃ止められないね。
ダメージ覚悟で動いている以上、きっと何されても止まらないね。
……なら、真っ向から迎え撃つ。
私は、剣を構えると地面を踏みしめてキングウルフを待つ。
その瞬間、なんだか世界がゆっくり見えるようになった。
何かした覚えはない。
スキルを使ったつもりもない。
……もしかしたら、新しいスキルを習得したのかもしれない。
この感じは……思考加速か?
ラノベだとあるあるなスキルだけど…実際に使えるようになるとこんな感じなのか。
…これ、結構チートじゃない?
実際の速度自体は変わらないんだけど、これだけゆっくりに見えると、しっかりと隙を探せる。
それに、隙を見つけた上でどうやって攻撃したら良いかのシュミレーションもできてしまう。
うん、チートだね。
一秒にも満たない時間の中で、様々な事を考える。
そして、思考加速の恩恵を受けながらキングウルフの攻撃を紙一重で躱すと、顎の下に入り込み、スライディングしながら腹を搔っ捌いた。
そして、すぐに起き上がってキングウルフから距離を取る。
「グゥ…ガアァァ…」
キングウルフは私を見つめると、苦しそうな声を出す。
そして、何かを察したかのように安らかな表情になると、どっしりと構えて私の目を見る。
「シャアアア…(さようなら。狼の王)」
私がそう呟いた直後、キングウルフの体がグラリと揺れ、地に伏した。
【名前無し
ドラゴニュート Lv3/80
スキル 鑑定 槍術 再生 怪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法 魔力鎧 竜鱗 思考加速 】
倒した……想像以上に呆気なかった。
もっと苦戦するかと思ったけど、少しきっかけを作れば一瞬だったね。
やっぱり、フェイントや罠は大切。
戦闘で負けないためには、力と技術と知恵が必要って事を、再認識するいい機会になったよ、キングウルフ君。
君の死は私が有効活用するからね。
私は、非常食用にキングウルフの死体を空間収納へ入れると、奥の扉へやってくる。
その扉は、私が近付くと同時に少しずつ開き始め、扉の前に立つ頃には完全に開いていた。
迷わず奥へと進むと、そこには赤い大きな宝石のはめ込まれた扉と、青い大きな宝石のはめ込まれた扉があった。
キングって付いてるくらいだからダンジョンはあそこで終わってるのかと思ったけど…まだ続きがありそうだね。
あれはただの中ボスだったのね。
にしても、二つにルート分岐するタイプのダンジョンとは珍しい。
……どっちに行こうかな?
私は二つの扉を前に、腕を組んでどちらに行くか迷っていた。
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