第6話 しばらくして…

ハイリザードマンへ進化してからおそらく一ヶ月。

私は、度重なるレベルアップと進化を経て、かなり強くなった。

そして、一ヶ月でダンジョンを結構攻略し、転生した場所を一階層とした場合、今居る場所は二十階層。

そして、その最奥に私は居る。


「シュルルル…(ついにここまで来たか…)」


私の目の前には、明らかにボス部屋らしき扉があり、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。


【名前無し

 グレーターリザードマン Lv60/60

 スキル 鑑定 槍術 再生 怪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法 魔力鎧      】


種族はハイからエリート、そしてその上のグレーターまで上がってきた。

今の私なら、裏拳一発で狼くんを粉砕できる気がするくらいには力が強く、狼くんが噛みついて来ても逆に牙が折れるくらい硬い。

そして、スキルもかなり増えた。

剣術のスキルを持っているのは、私は強くなるのに対し、相棒の槍は変化無しだった為に、モンスターとの戦闘中に壊れてしまったため、仕方なくたまたま見つけた宝箱に入っていた剣で代用したのが始まり。

それ以来槍を見つけることができず、ずっと剣で戦ってきた結果、剣術のスキルを習得し、今では槍よりも剣の方が体に馴染んでいるまである。


まあ、剣術についてはそこまで触れなくても良いだろう。

問題はこのスキル、空間収納だ。

これは、宝箱の中に入っていた謎の水晶、『スキルオーブ』で手に入れたモノだ。

スキルがある以上、スキルオーブもあるかと思ってたけど…まさか、本当にあったとはね。

今のところ、スキルオーブは二つ見つけていて、一つが空間収納。

もう一つは、魔力操作というスキルを手に入れた。

空間収納の効果は言わなくても分かるとして…この魔力操作というスキル、実は必須級の超重要スキルだ。

コレがあると、魔力を体に纏わせて身体能力を上昇させるという事ができるようになる。

身体強化ってやつだね。

身体強化ができるって事はステータス以上の力が発揮できる訳で、目に見える数字に縛られない強さを手に入れられる。

魔力鎧というスキルも、魔力操作で鱗の防御力を上げていたおかげで手に入れたスキルだし、新しい魔力関連のスキルを手に入れる為にも、このスキルは超重要。

コレが簡単に手に入った私は、凄く運がいいと思う。


他にも、謎の紙切れから火魔法が手に入ったり、今は使ってないけど魔導具らしきモノもいくつか持ってる。

武器?使ってないのが空間収納の中に溜まってるよ?


「シュルルルル?シュルル(ここから進化すると、どんなスキルが手に入るんだろう?)」


私は、近くにモンスターが居ないことを確認すると、進化を始める。


【進化候補が複数存在します】

・リザードマンジェネラル

・リザードマンソーダー

・ドラゴニュート


……ん?

えーっとつまり?この中から一つ選べって事?

…そんなの一つしかないじゃん。

ドラゴニュート一択でしょ?

だって、ジェネラルはこのまま順当に上位種になるってことでしょ?

ソーダーは、多分剣を扱う事に特化した亜種。

んで、ドラゴニュートは特殊種族。

或いは、本来別の種族への進化する特殊進化。

こんなの、ドラゴニュート以外にどれを選ぶわけ?

実質選択肢なしだよ。

私は、ドラゴニュートに進化する!


【進化候補が選択されました。名前無しの進化を開始します】


アナウンスのような声が頭の中に響いた直後、進化の激痛に襲われる。


くぅ……これ…いつになってもキツイ……

この痛みだけは…全然……慣れないわ……


一ヶ月戦い続けていれば、流石に何度も怪我をする。

既に攻撃される痛みは慣れてるし、相当深い傷を負ってもそう簡単には隙きを晒したりはしない。

でも、この進化の際に発生する激痛だけはどうしても慣れない。

……まだ、四回目だけど。


痛みで気を失わないよう、必死に気合で耐え続ける。

そして、永遠にも感じられる僅かな時間を過ごし、進化は完了した。


「シャアアア…(終わったか…)」


私は、痛みに耐えようと硬直した体をほぐしながらステータスを確認する。


【名前無し 

 ドラゴニュート Lv1/80

 スキル 鑑定 槍術 再生 怪力 威圧 剣術 空間収納 探知 魔力操作 火魔法

魔力鎧 竜鱗     】


上限レベルは80か…かなり増えたね。

で、獲得したスキルは竜鱗と……竜鱗ってなんだ?

こういう時は、鑑定でスキルを調べてみる。


【竜鱗 : 竜種、或いは竜に関連する種族が持つ特殊な鱗。非常に頑丈かつ強固で、魔力を撹乱する性質を持つ】


……は?

ま、まあ、頑丈で硬いってところはいいとして、魔力の撹乱?

魔力を撹乱するって事は…魔法の効果が薄れるってこと?

いや、それだけじゃない。

魔力関連の能力が軒並み弱体化する。

……普通にチートでは?

でも、私の魔力まで撹乱されるなら、かなり厄介なスキルでもあるけど…どうだ?


検証のため魔力鎧を発動してみる。

魔力鎧は、全身に防御効果を持つ魔力を纏う事で、ある程度の攻撃を防ぎ、防ぎきれなかったとしても威力を減衰するというスキルだ。

ただし、発動中は常に魔力を消費し、攻撃を受けるとその分魔力を消耗するので、常時発動はできない。

そんな、魔力を纏うという今の検証にうってつけなスキルを使ってみると、意外な事が分かった。


撹乱…されないね。

自分の魔力は撹乱対象にならないとか?

…そもそも、この撹乱効果自体が私の魔力を元に発生してる?

私以外の魔力を受け付けないようにする能力なのかな?


竜鱗に関してはまだまだ知りたいことが山ほどあるけど、まあとりあえず私が魔力を使うのに問題ないのなら、気にする必要はない。

詳しい事はまた後で考えよう。


軽く剣を振ってどの程度身体能力が上がったのか確認すると、私は目の前にある大きな扉を押す。


「シャア?シャアアア(あれ?いない?)」


扉を開けるとそこにはボスが居て、侵入者がやってくるのを待ちわびているイメージがあったけど…入ってから出てくるパターンか。


進化で多少揺れていた魔力を正常な状態に戻すと、臆することなく部屋の中へ入る。

私が部屋に入って、扉から少し離れたあたりでひとりでに扉が閉まり、部屋の中央に巨大な魔法陣が現れる。

その魔法陣の中からトラックほどの大きさはありそうな、獣が現れた。


「シャアアアア…シャアア(なるほど…ボスは狼か)」


現れたボスは狼のような見た目をしているが、サイズが狼のそれじゃない。

トラックと同じくらい大きい狼とか見たことないし。


『グルルルルル…』


魔法陣が消え、狼が戦闘態勢に入ったのか私に向かって威嚇をしてくる。


威圧系のスキルを使わない威嚇なんて効果無いのに…

まあ、狼が襲ってくる前に威嚇をするのはラノベじゃよくある展開だし、そういうものか。


私も剣を構えて戦闘態勢をとり、情報収集のため鑑定を使う。


【名前無し

 キングウルフ Lv30

 王牙 俊足 鋭爪        】


スキルは少ない。

でも、キングウルフという種族がどの程度の強さなのか想像できないし、私が知っている狼系モンスター最強はグレーターキラーウルフ。

攻撃力と俊敏性がえげつない代わりに、防御性能が終わってるモンスター。

まあ、ボスがそんな紙装甲のはずがない。

となると、バランスの取れた構成かつ、キングって付いてる事からグレーターよりも上といったところか。

バランスの取れたグレーターキラーウルフ程度と見積もって戦うか。


私は、ある程度の予想をたて、キングウルフの出方を伺う。

すると、私が待っていることを察したキングウルフが、超スピードで接近してくる。

そして、右足が振りあげられ、私の体を袈裟斬りにする軌道で飛んでくる。


しかし、私はその攻撃に対して容易く反応してみせる。

半歩下がった後、体を軽く反らしてギリギリで攻撃を躱すと、キングウルフは目の色を変えて後ろに下がる。


確信した。

コイツは強い。

グレーターキラーウルフよりも。

進化前ならあの一撃で致命傷を負っていたかもね。

そして、今でも油断すれば死にかねない。

それほど、このキングウルフというモンスターは強い。

流石はボスだ。

王の名に恥じない実力を持ってるよ。


……でも、私のほうが強い。


今度は私の方から接近し、高速で剣を振り上げる。

キングウルフは、その攻撃を後ろに飛んで躱す。

しかし、躱しきれずに外皮が少し切れる。


「シャアアアアアア…(狼の王…簡単には死んでくれないね)」


初めて出会う、相当な実力を持つ知能ある存在。

コイツは死の間際にどんな姿を見せてくれるんだろう?

無様なのか、堂々たるものなのか、はたまた呆気ないのか。

なんだっていい。

早くコイツが死ぬ瞬間を見たい。

命が絶える瞬間を眼に焼き付けたい。


「シャアアアァァ…(さあ…殺させて?)」


私は、一刻も早くキングウルフの死に様を見るべく、剣を構え、懐へ飛び込んだ。

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