第4話 進化
「シュルッ!」
「ワッ!?」
三階層へ降りてきて、おそらく二日経った。
相変わらず出てくるモンスターの強さは私と同程度。
私はレベルが上がって少しずつ強くなっているものの、イマイチ決め手にかける。
とまあ、それはさっきまでの話。
今は違う。
【名前無し
リザードマン Lv30/30
スキル 鑑定 槍術 】
ここに来てようやくレベルが上限へ達した。
やっぱり、強くなるほどレベルは上がりにくくなるらしい。
前は三日で21レベル。
一日あたり7上がっていたけど、この二日は8レベル。
一日あたり4しか上がらなかった。
レベルが上がるのと同時に、下の階へ降りなければ効率が下がるのは明白。
しかし、今の私が更に下へ降りるのはリスキー過ぎる。
そう考えていた矢先の上限レベル到達だ。
【上限レベルに到達しました。進化しますか?】
ほらね?
進化すれば、下の階へだって行けるはず。
果たして、四階層にはどんなモンスターが居ることやら。
じゃあ、進化しますか。
【名前無しの進化を開始します】
お?始まっ――あ、あああぁぁぁぁああ!?
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
進化が始まった途端、今までに感じたことのないような激痛に襲われた。
例えるなら、体の奥まで浸透する強力な酸のプールに沈められたような痛み。
表面だけでなく、内側の細胞にまで届く灼熱の痛み。
こんなの…新手の拷問じゃないか……
こ…この痛みを…再現できるようになれば……拷問も楽に……
私は、痛みに悶ながらも、どうにかして同じ感覚を他の人達に味合わせたいと考える。
幸い、魔法という技術が存在する事は知っている。
不意打ちからの情け容赦のない追撃ですぐにモンスターを倒してしまうことが多かった私では、魔法がどんなモノか理解する機会が無かったけど…理解できれば、同じ苦痛を他の人間に……ん?
「シュルルル?シュルル?(終わった?進化できたの?)」
色々と考えているうちに、いつの間にか進化が終わっていた。
…意外と早かったね。
もっと長続きするものかと思ったけど…違うんだ。
【名前無し
ハイリザードマン Lv1/40
スキル 鑑定 槍術 再生 】
おお!ハイが付いて上位種になってる!
しかも、再生のスキルも手に入れちゃった。
攻撃こそ最大の防御の精神で一方的に殺ってきたからほとんどダメージを受けたことないけど…回復能力を手に入れられたのは嬉しいね。
ダンジョンでは、いつ怪我するか分からないし。
「シュルルル」
……上位種になっても声は変わらないのね。
でも、心なしか音が変わったような気がする。
アレかな?群れで活動するときは上位種かそうじゃないかを声で判断するとか?
それに、若干体が黒っぽくなった。
今まで自分の体について触れたこと無かったけど…体色はくすんだ緑で、リザードマンというだけあって全身が鱗で覆われてる。
また、ダンジョンの天井の高さが4メートルくらいだとすると、私は2メートル行くかいかないかくらい身長がある。
そして、一番の特徴といえば……二足歩行するトカゲって事だよね。
自分の顔見たことないけど、多分キモい。
そしてグロい。
見る人が見たら、発狂通り越して失神しそうな見た目してるんだろうねぇ…
……やっぱりゴブリンの方がマシじゃね?
ゴブリンに転生する系のラノベって、大体主人公落ち込んでるけど、同じモンスターに転生するならゴブリンなんてかわいいものでしょ?
クソデカイ蛙とか、クソデカイ蛇とか、クソデカイ虫に転生するのと比べれば、ゴブリンなんて超ラッキーでしょ?
まだ人型なんだもの。
……私も人型だけどさ。
「シュルルル…(なんで進化したばっかりなのに、自分の種族に文句言ってるんだろう?)」
たまに起こる、急に我に返る現象で冷静になった私は、リザードマンという種族に文句を言うのをやめて、体を動かしてみる。
ふむふむ…確かに、今までよりも体が軽くなった気がする。
試すのに丁度いいモンスターは…おっ?
【名前無し
グリーンエリートウルフ Lv5/20
スキル 風魔法 剛牙 眼圧 】
やあ狼くん。
君も上位種になったんだね。
進化するのはさぞかし大変だっただろう。
ゆっくり休んだら?あの世で。
私は、槍を持ってジワジワとグリーンエリートウルフとの距離を詰める。
すると、
「ウゥ〜…!」
「っ!?」
急にクソ犬が私の事を睨んできやがった。
しかも、どういうわけか体が硬直して動かない。
……眼圧の効果か。
私が眼圧によって怯んだ隙きに、クソ犬は牙をむき出しにして飛びかかってきた。
「ワウッ!!」
「シュルッ!?(痛っ!?)」
眼圧で体が硬直して動けなかった私は、初めてグリーンウルフ系の攻撃を受けた。
当然、噛みつき攻撃をしてきたわけなんだけど、コイツは生物の急所というものを知っているのか、迷わず首に噛みついてきやがった。
剛牙というスキルの影響もあるのか、硬い鱗で覆われているはずの私の首に、クソ犬の牙が突き刺さる。
しかし、流石はハイリザードマン。
「シュルルル…(痛えなクソ犬…)」
「!?」
いくらスキルで噛みつき攻撃が強化されていようとも、鱗を破壊するだけで精一杯。
鱗の奥にある皮に少し刺さる程度のダメージしか受けなかった。
反撃のため、クソ犬の尻尾を思いっきり握りしめると、力いっぱい引っ張って首から引き剥がす。
そして…
「キャウン!?」
そのままの勢いで地面に叩きつけ、腹に槍を突き刺す。
そのままクソ犬の腹をカッ捌いて戦闘終了。
ここに来て初めてダメージらしいダメージを与えてきたクソ犬は、見事に凄惨な最後を辿った。
「シュルルルル…シュルル(狼が綿飴を持ってるみたいだった…思ってた以上に強くなってる)」
剛牙のスキルを持っているのに鱗を貫く程度で終わり、大型犬並の体格を持つ狼を簡単に振り回す。
想像以上に進化というのは強くなるものなのかもしれない。
これなら、どんどん先に進めるね。
ちょっと前に下へ降りる階段は見つけてるし、そこに行くか…
進化でかなり強くなった事を理解した私は、次の階層へ降りる事にした。
四階層へ降りてみたものの、特に景色に変化はなく、モンスターの状況もレベルが上がった程度。
とても脅威になりそうな奴等はいなかった。
……かと言って、油断すると痛い目を見る。
「シュルルル…(やっぱり群れは厄介だね…)」
私は、傷だらけになった体が、再生のスキルで治されていく姿を見て数の暴力の恐ろしさを痛感する。
モンスターの強さはそこまでだけど、問題は奴らが群れているということ。
流石に二体、三体を同時に相手するのは難しく、無傷というわけにはいかなかった。
あの比較的簡単に倒せる狼でさえ、それなりに傷を負うハメになったのだから。
【名前無し
ハイリザードマン Lv3/40
スキル 鑑定 槍術 再生 】
もう少し慎重に戦うということも考えた方がいいかも知れない。
いくら進化した私が強かろうと多勢に無勢。
この、まだモンスターがそこまで強くない段階でそれを知れて良かった。
私は、傷が完治するのを確認すると、ゆっくり立ち上がって次の獲物を探しに歩いた。
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