第3話 下へ
「シュルルル(おはようございま〜す)」
袋小路でそのまま雑魚寝した私は、伸びをして固くなった体をほぐす。
転生してから多分三日くらい経ってるんじゃないかな?
ずっとダンジョンの中だと、空が見えないから時間の経過が分からない。
でも、凄く眠たくなる事が3回あったから、多分転生してから三日くらい経ってるでしょ?
「シュルルル…シュル?(さーて、今日はどこに……ん?)」
三日間のダンジョン探索で、色々と見て回っていた私は、ついにあるものを見つけた。
それは、下へと降りる階段。
ダンジョンに転生したからには、やっぱり自分の生まれたダンジョンを攻略しないとね。
んで、ダンジョンを潜るごとにレベルアップして強くなって、待望の人間の姿に。
そして、ダンジョンを攻略した事で人間界では屈指の実力者として英雄に……なんて、妄想をしてみたり?
まあ、英雄願望とか無いし、人助けとか興味無いからそういう事にはならないだろうけど。
【名前無し
リザードマン Lv22/30
スキル 鑑定 槍術 】
三日間の探索で私のレベルは22レベルまで上がっていた。
流石にここまで来れば下の階へ行っても大丈夫でしょ?
多分行けるはず。
ダンジョンといえば、下へ行くほどモンスターが強くなり、凶悪なトラップが増えるのが基本だ。
なので、私はある程度レベルを上げてから下の階へ行きたかった。
そして、今の私のレベルは22。
これだけレベルが上がれば、一つ階層を降りたくらいでは苦戦したりはしないだろう。
「シュルル(よし、行くか)」
私は意を決して階段を降りる。
何気にダンジョンへ来て初めて感じる緊張感に、手汗が滲むような錯覚を感じる。
やがて、階段をすべて降りると、そこにはさっきまでとなんら変わらない風景が広がっていた。
「シュルルル(風景が変わらないタイプのダンジョンか)」
階層が一つ変わるごとに風景が変わるダンジョンもたまにある。
もしくは、5〜10のといった感覚で風景が変わるダンジョンも多い。
ここが何階層か知らないけど、それなりに低そうではある。
じゃなかったらリザードマンみたいな、つよつよモンスターがうじゃうじゃ居るヤバイダンジョンになる。
そんな恐ろしいダンジョンではないと信じたい。
そんな事を考えていると、見覚えのある狼が私の前を横切った。
【名前無し
グリーンハイウルフ Lv9/10
スキル 風魔法 剛牙 】
へえ?
流石に階層を一つ降りただけはある。
そんなに強さは変わらないけど、レベルが高い。
あと一つで上限レベルに到達するね。
上限レベルまで来ると、やっぱり進化するのかなぁ?
まっ、そんな未来はコイツには訪れないけど。
「キャッ――」
「シュルルル(不意打ちは正義)」
所詮この世は弱肉強食。
例えどんな手を使ってでも、食われないためには強く在らないといけない。
悪いね一般通過グリーンハイウルフ君。
君には私の成長の糧になってもらおう。
安心して、死体はそのうち何かしらのモンスターが食べて餌にするか、勝手にダンジョンに吸収されるから。
君の死は決して無駄じゃない。
…まっ、私に不意打ちで殺された事実には変わりはないけど。
「シュルルル(この調子でどんどん攻略を進めよう)」
幸いな事に、私の予想通りこれだけのレベルがあれば問題なく一つ階層を降りられる事が判明した。
さっきのグリーンハイウルフの強さを考えると、もう一つぐらい階層を降りても問題はないだろう。
そうと決まれば、早速次の階層へ行こう。
格下をいたぶる趣味はないのでね。
私は、特にこの階層に興味を持つことなく、攻略を進める。
何度もモンスターを倒しながら進み続け、おそらく半日ほどで次の階層への階段を発見した。
ここに降りる階段を見つけるのにこの前は三日もかかったあたり、運要素がかなり強いね。
まあ、迷路なんて言ってしまえばある種の運ゲーだ。
どの道を通ればゴールに辿り着けるか分からないんだから、虱潰しに歩き続けてあたりの道を引き当てるしかない。
「シュルルル(今回は運が良かったなぁ)」
そんな事を呟きながら私は階段を降りる。
流石に二度目になると緊張感もだいぶ薄れ、普通に降りる事ができた。
そして、やって来た三階層。
私が最初に見つけたのはハイオークでした。
【名前無し
ハイオーク Lv23/30
スキル 怪力 性欲 】
ここには来て同格のモンスター。
三階層へ降りるまでにレベルが1上がって私もうレベル23になってるけど…それはあっちも一緒。
しかも、相手は力を強化するスキルを持ってる。
力比べは分が悪いな……槍術でどこまで牽制できるか……
それに、攻撃も食らえない。
怪力のスキルを持った同レベルのハイオークの攻撃なんて強いに決まってる。
私は、ハイオークの持つ純粋なパワーを警戒しながら槍を構える。
すると、今回はハイオークの方から仕掛けてきた。
「ブモオオオオ!!!」
ハイオークは雄叫びを上げると、持っている棍棒を握りしめ、こちらへ走ってくる。
流石は同レベル。
走る速度は今まで出会ってきたどのモンスターよりも速く、あっという間に距離を詰められる。
「ブモオオオオ!!!」
私との距離を詰めたハイオークは棍棒を振り上げて、大振りな攻撃をしてくる。
私はそれを簡単に見切ると、スッと横に飛んで躱し、槍をハイオークの首に突き刺す。
「ブモッ!?」
おおよそ人型ならある程度体の構造が似ているはず。
私は、人間でいうと頸動脈に当る部分を切り裂き、大量の出血を強制する。
わざわざ急所を深々と突いて殺したり、首を搔き切る必要はない。
確実に急所を狙い、最低限の攻撃で確かなダメージを与える。
コレが戦闘に勝利する上で非常に重要な事だ。
ゲームのように、ただひたすら攻撃をしてHRを削れば良いって訳じゃないのよ。
現実では、頭を使ってスマートに勝たないと。
「ブ、ブモオオオオ!!!」
「っ!?」
後は守りに徹すれば良いという慢心が、小さな隙きを生み出してしまった。
攻撃を受け、その凶暴性を増したハイオークは、私の見せた小さな隙きを見逃さず、棍棒を横凪に振って攻撃してくる。
私は、ソレによるダメージを少しでも防ごうと、槍で受け止めるが、当然力比べではハイオークの方が有利。
ハイオークの怪力に押し切られ、私は後方へ吹き飛ばされる。
しかし、道の中央で戦っていた事も相まって、壁にぶつかってダメージを…なんてことにはならなかった。
ただし、攻撃を受け止めた事で手が痺れているが…これよすぐに戻る。
また、後方へ吹き飛ばされた事でハイオークとの距離を作ることができた。
槍と棍棒では、槍のほうがリーチがある。
攻撃を受けて不利になるどころか、私の有利な状況へなりかけている。
「シュルルルル…シュルル(本当はそこまでやるつもりはなかったけど…何もしない訳にはいかない)」
私は槍を構え直し、自分から距離を詰める。
そして、槍を使う上で最適の距離までやって来ると、ハイオークの目を狙って強烈な突きをお見舞いする。
「ブモオオ!?」
突然、片目を潰されたハイオークは、混乱して体が硬直している。
私はその隙きを見逃さず、槍をしっかりと握ると前へ押す。
同レベルのハイオークともなると、脳天を貫通するのはほぼ無理だろう。
ならばどうやって直接脳を攻撃するか?
一つは目玉を突いてそこから脳まで到達させる。
一つは口から突き上げて脳まで到達させる方法。
一つは普通に真正面から額の骨をかち割って脳まで到達させる。
この中でどれが一番やりやすいかというと…一番最初の目玉から脳を狙う方法。
しっかりと狙ってさえいれば、後は突出すだけでいい。
それだけで脳にダメージを与えられる。
骨が砕ける音が聞こえると同時に槍が深く入り、ハイオークは体を震わせて痙攣する。
そして、しばらく震えたあとそのまま事切れた。
ハイオーク一体にここまで接戦か……これは、レベリングが必要かもね。
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