ドルトンの情報と王宮①
早朝の宿ではユダ、ジューン、ランディスがフォルトナと話をする。執事達は気を遣って食堂に出ていた。フォルトナが悪魔公爵の兄貴分とあって、盗賊だった三人は抵抗する気もおきなかった。話は、顔の無い盗賊団の実態についてだが、ユダ達は義賊として盗賊団の表の顔だった。盗賊団は義賊を抱えてはいるが、他の主要なメンバー達はむしろ義賊とは関係のないただの名前の無い盗賊団との話だった。
「なるほどな。本体は名前の無い盗賊団で、全てを知る者は、名前の無い盗賊団の頭のみという事なのか。」
「ええ。私達、義賊の活動をする実働部隊の役割は、貴族達から金を盗み食料を平民達に配る事だけですからね。私は認識を阻害する異能を買われ、ジューンとランディスは戦闘の腕を認められました。」
「旦那様に対してはまったく抵抗出来ませんでしたがね。」
「貴族の私兵には旦那様くらい強い奴はいないでしょう。いれば国の騎士か冒険者になっています。今までは一方的な戦いだったもんな。」
「そうだな。だが、国を相手にしていれば、いずれ俺達は死んでいただろう。今回先に出会ったのが旦那様でなかったら、ドラゴンスレイヤーか悪魔公爵様に殺されていた。捕まったあいつらは不憫だが、それを恨むのは筋違いになる。」
三人はフォルトナに感謝し、それぞれが頭を下げる。
「やっと、呑み込んでくれたか。それならば、もう足を洗うんだ。食い扶持は新しい仕事の対価に俺が支払う。」
「良いんですかね。俺達がまともに生きられるんですか?」
「安心しろ。お前達の事は決して悪いようにはしない。」
「「「ありがとうございます。」」」
――長い話し合いが終わると、フォルトナの一行はドルドンの鍛冶屋に情報を集めに向かっていた。道中でフォルトナは、またも気になる話題を聞いていた。それは単なる町人同士の雑談だったのだが、フォルトナの異能はその話を聞き逃さなかった。
「最近、王都では演劇が上演されているんだって。観に行った事はある?」
「いや、王都は行ったことがなくて、権力が集中するだろうし怖いところだと思っていたわ。それにそんな劇を見る程のお金はないし。あるなら食費に使っているわよ。」
「確かに貴族様と関われば怖いかもしれないわね。でも、演劇に関しては私たちでも楽しめる方法があるんだよ。例えば、お金ではなく衣装や小道具を手作りすることで鑑賞出来たり、スタッフの一員として食事が出来る。公演前には舞台袖で劇団員さんたちを応援することもできるんだ。それに、公演が終わったあとには舞台に上がって役者さん達と触れ合うこともできるのよ。」
「なるほど、それなら参加してみようかな。ありがとう、教えてくれて。」
「行くなら一緒に行こうよ。王都の匂いは、とても澄んでいて、この街とは全然違うみたいなのよ。」
フォルトナは、雑談を聞いたあとで後ろを歩くユダに訊ねる。
「ユダ。王都にいる劇団の事は知っているか? それもエグリゴリ関連なのではないか?」
「さあ。私達は世俗から離れていましたからね。盗んだお金を盗賊団に納め、代わりに食料を渡されていました。それを国民達に配っていたのです。」
「それならやはり繋がるかも知れないぞ。義賊は平民に食料を配り、劇団の場合は平民を劇に参加させ報酬に食事を与える。それにエグリゴリが国を貶める存在だとしたら、劇団の方がより民意を操りやすい。」
フォルトナは言葉を選んでいた。その食事が仄冥症候群を作りだす可能性がある事は、今のユダ達にはまだ刺激が強すぎると思ったのだ。
「その劇団にも民の救済という尊い目的があるのですね。それが綺麗なお金でというのなら我々よりも崇高な存在です。」
「あくまでもエグリゴリと繋がっている可能性があるという話だ。知らないのならそれで構わない。」
鍛冶屋に着くと、先にエリックと馬車が待っていた。フォルトナはエリックにユダ達を任せると、仲間達と共に鍛冶屋に入って行く。店の入口からまっすぐ、ドルトンのいる作業場に直行した。
「ほらよドルドン。100万リブラだ。それで魔人マリードの詳しい情報と、リトルエデンとチェンジリングの情報を教えてくれるか?」
ドルトンはその金を見て驚いている。
「賞金首を討伐したにしても、報酬を貰うなり早すぎるだろ。いったい、どうやったんだ?」
「50万リブラだけは即金で貰ったんだ。残りの報酬をあてにして知り合いに借りた。」
「大金をポンと貸せるくらい資金力のある者が知り合いにいるのか。……まあ良い。100万リブラなら詳しく話してやる。名前は? まだ聞いておらんだろ?」
「フォルトナだ。良い情報を期待しているぞ。」
「そうかフォルトナ。まずは、魔人マリードの話だな。マリードは聖天六歌仙の魔導卿。魔法師専門の魔族と魔物を引き連れた魔導軍を持つ魔法では世界最強の部隊だ。現在マリードは魔導軍を引き連れトワイライト領内の領主邸にいる。どうやらナンバーズという人間達を探しているらしい。そして、マリードには娘が一人いる。領主邸で一緒にいるはずだ。」
「ふははははっ。それは良い情報だ。」
――同種としか子孫を残せないマリードが、子供を産んだか。――
フォルトナは魔人マリードにどんな復讐をしようかずっと考えていた。マリードに大切なものが存在するなら、マリードを苦しめる為に、これ以上ない情報だ。
「何を笑っている? 魔族と魔物の軍隊を恐ろしいと思わぬのか? 世界を救った時よりも、絶大な威力の魔法攻撃をするらしいぞ。本気の一撃は国をも滅ぼすという話だ。」
「別に。知りたいが戦うわけではないよ。マリードの情報はそれで終わりか? 終わりなら、リトルエデンとミカンが被害にあったというチェンジリングの情報を教えてくれ。出来ればミカン捜しに役立つ情報が良い。」
「分かった。チェンジリングは数年前に妖精が赤子を探し子供を取り替えたという事件だ。ただし、妖精達は最近、人間ではなく、エルフの女性を頻繁に攫っているという情報がある。おそらくは、攫った人間が間違いでエルフが本物だという事だろうな。」
「そうか……流石にミカンの情報には辿りつかないよな?」
「フォルトナ。儂の情報を舐めるなよ。現在、妖精の国とはリトルエデンが繋がっているらしい。リトルエデンには人間の中に妖精の戦士を名乗る者がいるらしいぞ。チェンジリングで妖精に攫われた人間が、妖精側の戦士になったとしてもおかしくはないわな。妖精の戦士を辿れば、攫われた人間にもたどり着く可能性は高いんじゃないか?」
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