15年前の真実③

 顔の無い盗賊団は、ジューンとランディスとユダ以外は、悪魔公爵エリックが連れて来た国の兵士達に引き渡した。エリックの知り合いという事でフォルトナは即金で50万リブラを受けとる。


 そして、フォルトナと全てを知るメイブ。エリックの三人だけで宿の一室を借り話をする事になった。

 

「俺も顔の無い盗賊団を追っていたんだ。俺の異能は兄貴の魂の眷属として契約している。当然索敵能力も優れているから、わざわざ俺がこの街に出向いたんだよ。そしたらさー。……兄貴ぃ~。ぅわーん。」


「いい加減泣くをやめろ。しかし、お前がこの国の宰相とはな。当時から天才だったんだから、それもおかしくはないか。それと、これは言うなよ。お前も鑑定持ちだから分かっているだろうけど、顔の無い盗賊団はユダの異能だけが成せる技だ。盗賊団の団員達の顔を認識出来ないようにしていたんだ。そしてユダを含む見逃して貰った三人は、俺が前世で不幸にした元ティオール商会の従業員だ。実行犯の中では三人がリーダー格だが盗賊団の頭ではない。今後は、俺が面倒を見ようと思う。」

  

「やっぱり兄貴は優しいな。」

 

 エリックの異能は、【継承】。ロイスの魂から様々な恩恵を受けている。前世では【天眼】と【堅忍不抜】。生まれ変わってからは、より強い力を得た。ただし力が強すぎて、戦闘時のエリックは魔族のような姿に変わってしまう。それを見た者からエリックは悪魔公爵という二つ名が広まった。

 

 フォルトナは、前世であった事と転生してからの事を全てエリックに話した。


「世界皇帝ロベリア ルシルフェル。真の大魔王。絶対に許せない。」


「それは俺も一緒だ。」

 

「復讐の前に仲間達に兄貴の復活を話さないと。みんなには俺の異能の話と兄貴が生きている可能性をずっと前に話してある。それから俺達五人は兄貴が生きている事を信じて、兄貴を生きがいにしてそれぞれ頑張ったんだ。男連中は、みんな兄貴が過去に持っていた称号を目指して、それを手に入れたんだよ。」


「なあ。今は俺の方が年下なんだから、兄貴って言うのをやめてくれないか? 呼び方はフォルトナで良い。あと、あいつらに話すのも、もう少し待ってくれ。話す前に……一度戦ってみたい。」

 

「あはは。兄……フォルトナらしいよ。そうだ。フォルトナは今はこの国の王子なんだから王様に会おうよ。」


「俺が王を嫌っている事は、知っているだろう。」


「王様は悪い人じゃないって知っているでしょ。王様の異能が何をしていたか。」


「なんだ。……その事も知っていたのか。……その通りだ。前世の俺の急激なレベルアップは、アネモネと一緒の時からウィリアムの異能のおかげだった。ティオール商会があんな事になってからは、更にウィリアムのサポートが上がっていた。きっと贖罪のつもりだったのだろう。しかし、俺にとっては、そのお陰でアネモネに再会出来た。その恩があったからこそ、この国を俺から遠ざけたんだ。」


「だろうね。それはなんとなく気付いていたよ。兄貴が死んだとされた後、世界は亜人大陸とこのスリーダン王国を除いて、等しく世界帝国に支配された。フォルトナは知らないだろうけど、この15年で世界には平和と言う名の恐怖政治が人々を苦しめている。人族ではスリーダン王国だけがその危機から逃れる事が出来た。貴族は今でも兄貴が死ぬ前に王を脅しに来たと言っているけれど、俺や王様の見解はそれとは違う。兄貴はこの国が巻き込まれないよう忠告をしに来たんだ。国力を高めなければならない必然性を提起した。」

 

「何か嫌な予感がしていたんだ。ウィリアムの異能を信頼していたからこそ、スリーダン王国は独自に強くならなければいけないと考えた。」


「やっぱりね。だったら尚更、会わなくちゃだよ。本当はお互いが思いあう関係なんだから、何も障害はない。フォルトナには国王の力が必要だ。」

  

「いいや。前世ではウィリアムの異能に助けられ続けた。これ以上、こっちだけ、いいように利用するのは違う。」


「フォルトナ、何を言っているの? 国王は家族が誰もいないんだ。たった一人の孫に頼られて、それを嫌だと思うわけないじゃないか。むしろ喜び過ぎて寿命が延びる程だと思うよ。約20年間。王はそれだけ孤独に生きて来た。今の国王にとってフォルトナはかわいい孫なんだよ。いつだって甘えて良いし、顔を見せてあげて欲しい。それにフォルトナが欲しい情報は、国で俺達も一緒に管理した方が良いよ。」

 

  スリーダン国王の異能【育成】は前世のロイスの急激なレベル上昇の根本にあった。ウィリアム王がいなければロイスが英雄になる事もなかったと言える。ウィリアムが作った30人のランキングに選ばれた者を順位毎に獲得経験値の倍率を上げる異能。

 

 ウィリアムの異能は、直接対面し異能の力を授けた者とその者とパーティーを組んだ者も対象にする。最初は配下のアネモネがウィリアムの異能の力を得た。その後パーティーを組んだロイスを確認し、ロイスにはランキング10位の獲得経験値3.1倍がずっと付いていた。そしてウィリアムの臣下が勝手にティオール商会を潰した事を、心の底から悔やんでいて、それからは独自にロイスの身を案じていた。

 それからは贖罪の気持ちで、ロイスが死ぬ時までずっと育成ランキング1位をロイスに書き換えていた。

 

 

 最後にロイスがスリーダン王国で国王にあったのは、恨みを晴らす為ではない。スリーダン王国が他の国から孤立する事を知らせ、ウィリアム王の力を信じ、国力を上げる事を忠告する事が目的だった。


 それに王だけを心配したのではなく、スリーダン王国にはロイスと関わった事のある人間がとても多い。結果として、スリーダン王国だけが、人族の中で世界と戦う事の出来る唯一の独立国家になっていた。

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