15年前の真実②
ドラゴンスレイヤー、カーティスの拳から放たれた魔法は、フォルトナにぶつかり霧散する。フォルトナに魔法攻撃はきかない。
「待てっ。この状況を見ればわかるだろ? 俺達は盗賊を捕縛した側だ。」
フォルトナはカーティスの誤解を解こうと否定するが、カーティスは再び殴りかかる。
「いいや、お前は盗賊の頭だ。義賊だかなんだか知らないが、お前等のやってる事はただの悪なんだよ。糞ガキがっ。」
「? だから違うって――。」
「あ? 聞こえねえぞ。悪人。俺はお前等盗賊を根絶やしにして報酬を貰う。ただそれだけの事だ。」
「……ああ。そうかよ。そうなんだな。だったら俺は悪で良い。お前の正義で悪を裁いてみろよヒーロー。」
「開き直りやがったなクソガキが。俺は、言う事を聞かないガキも、お前みたいな言い訳をする汚らしい悪も大嫌いなんだ。お前等やっちまえ。」
カーティスの仲間の魔法師二人がフォルトナに魔法を放とうと呪文を唱える。それを見てメイブ達が動こうとすると、フォルトナがそれを制した。
「たった三人だ。お前達は戦いに参加しないで良い。こういう馬鹿は俺一人で分からせる必要がある。」
「本当に許せん。汚い盗人のくせに生意気なガキ。だったら望み通りミンチにしてやるよ。お前等も全力でやれっ。」
カーティスと魔法師達の魔法が次々とフォルトナに放たれていく。カーティスも仲間の攻撃が当たらないように中距離から魔法攻撃を繰り返した。だが何度魔法を当ててもフォルトナは倒れない。
――数分後
MPが減ったカーティスは、魔法を止めフォルトナに注目する。立ったまま気絶でもしているのかと確認しようとした。しかし、正面からの攻撃だけが止まった段階でフォルトナは話始めた。
「小物の自称ドラゴンスレイヤー。出会った時から自己中心的で。器が小さく煽り耐性も低いし、言葉の節々に人を従わせたいという権力志向が隠れている。正義が何だって? その裏にある原動力は賞金を稼ぐというただの欲望だろ。」
「だまれぇーーー!!」
痺れを切らしたカーティスが、フォルトナに近づき殴り倒す。だが、フォルトナは言葉を続けた。
「雑魚ばかりと徒党を組んで、お山の大将の気分は楽しいかよ?」
カーティスは、フォルトナに馬乗りの状態で殴り続ける。
「だまれっ。だまれっ。だまれっ。クソガキが殺してやる。こんなにも脆弱で、なぜ、強者に歯向かう? くそっ。くそっ。死ねっ。」
「ぷっ。何が強者だよ。ドラゴンを倒した? どうせ、大人数でワイバーン辺りを討伐しただけだろ?」
「うるさいっ! 死ね、死ねっ。……そうだ。お前が死んだら、あそこのダークエルフを俺の奴隷に落としてやるよ。その時は俺の愛玩奴隷として、たっぷりと可愛がってやるからな。」
前世のフォルトナの異能【堅忍不抜】は今は【絶対防御】に進化している。その効果は魔法攻撃無効と物理ダメージ20%カットだ。そこに今のフォルトナのステータスも加味すると、魔法拳士カーティスの攻撃はあまり効いていなかった。
そして、フォルトナに怒りの感情は生まれても即座に消える。ただし、それは前世で悪魔に異能を移植される前の記憶と、異能の効果が切れた時は別である。今回の場合は後者だった。カーティス達が潜入した時に、まだ隠れていた段階から【絶対防御】を使い続け、五分間、全ての【絶対防御】を使い切ったタイミングでのカーティスの脅しだった。フォルトナはカーティスを払いのけ立ち上がる。
「奴隷に落とす? 俺が一番嫌いなものは、この世界の奴隷制度そのものだ。だから俺にその言葉は禁句だぞ。楽に死ねると思うなよワイバーンスレイヤー。【戦神眼
フォルトナの剣がカーティスのボディーにぶち当たる。
「ぐは? ん……なんだよ。全然、大した事ねーじゃねーか。」
「【
「ぐあはぁっ。い……ぃでぇ~~。」
フォルトナには、異能でのステータス面の強化はない。しかし、攻撃威力の強化は、使いこなす事が出来れば前世でも折り紙付きの威力だった。弱点を作り出し、そこに高威力攻撃を最強のタイミングでぶち当てる。
「
進化したフォルトナの攻撃は更に上のコンボにまで到達していた。ステータスは前世のロイスにまで、まだ遠く及ばないが、異能の質は、前世のロイスをも超えている。カーティスはフォルトナの迫力と異様な強さに恐れをなす。
「ぐはぁっー。……頼む。もうやめてくれっ! もう分かった。俺じゃ勝てねえ。降参だ。だから助けてくれ。」
「シラフで他人を奴隷に落とそうとする奴が、自分の身を守る為には命乞いするのか? 駄目だ。まだHPが残ってる。【
「ひっ~。いでぇ~~。ただの嘘だよ。そんな事はするつもりはなかったんだ。」
カーティスの無様な姿にフォルトナは剣を止めた。カーティスの部下の魔法師達は既に逃げ出している。
「雑魚がドラゴンスレイヤーを名乗るのは、もうやめた方が良い。次に俺の大切なものを奪おうとしたら殺すからな。」
フォルトナがカーティスから背を向けると、カーティスが懐から短剣を取り出しフォルトナに振り下ろす。
「死ねっ~~。」
「嘘だな。お前の脅しは紛れもなく本気だった。ペナルティーを
ぺナルティーを少しだけ受けたカーティスは、体がはじけそうな程に強烈な痛みで地面にのたうちまわる。数秒後やっと痛みが治まった。
どこからともなく、パチパチパチという拍手の音が聞こえてくる。
「やっぱり兄貴は強いね~。……会いたかったよ。そして信じていた。」
カーティスが言葉の出所に目をやると、そこに現れたのはカーティスでも知るような有名人だった。
「……悪魔公爵様っ!」
驚くカーティスと、全てを諦め頭を掻くフォルトナ。
「あ。なんだ。ばれたのか。……やはりそうなるよな。お前だもんな。」
カーティスは争っていた事も忘れてフォルトナに注意する。それ程に悪魔公爵は危険な男なのだ。
「おい。いくらお前が強いとしても……その口の聞き方はまずいぞ。……あれは悪魔公爵様。この国の宰相で№2。……それよりも、もっとやばいのは、それが世界にたったひとりのユニオンの三ツ星一等冒険者様だって事だ。」
だが、そのカーティスの言葉に悪魔公爵は激怒していた。
「おいっ。貴様っ。兄貴にやられておいて、何を偉そうに忠告までしているんだ。殺すぞっ? 俺なんかよりも兄貴を敬えっ。その方は偉大な世界の――」
「ストーップ。そこまでだエリック。それは秘密だ! お前なんで脅迫なんかしてんだよ。前は優しい奴だったじゃないか。」
「ごめん兄貴。感動の再会に水を注されて、ついイラついちゃったよ。それにずっと心配してて、俺達は兄貴を想う気持ちが昂ってる状態なんだ。ぅ……本当に……本当に無事で良かった。」
エリックという名の悪魔公爵はフォルトナを抱きしめ泣いていた。
カーティスはフォルトナを抱きしめる悪魔公爵を見てやっと事態に気付く。それまではフォルトナの若い見た目に兄貴という言葉が結びつかなかった。カーティスは悪魔公爵の兄貴分に喧嘩を売ってしまっていた事実に戦慄を覚えていた。そんな存在であればカーティス程度には勝てるわけがない。しかも、あろうことかフォルトナを犯人に仕立て上げて殺そうとまでしていたのだ。絶対に殺されると顔が青ざめ、祈るように謝罪の言葉を続けていた。
「すみません……すみません……すみません……すみま――」
カーティスはあまりのショックに気絶する。
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