15年前の真実①
――深夜2時
街に薄く張り巡らされたフォルトナの索敵能力は怪しく動く集団の反応を感知した。
宿を飛び出し、街に向かったメンバーは戦闘の得意なフォルトナ、デックナイト、メイブ、ケットシー、クーシーの五人。既に寝ているニエは戦闘が出来てもお留守番だった。
フォルトナは索敵をしながら、すぐに集団に追いつく。しかし、証拠がないので貴族の家に潜入するまではただ後をつけていた。
数分後、いよいよ、盗賊達が貴族の屋敷に潜入した。盗賊のメンバーは25人。一見すると数が多いがフォルトナの鑑定により、特にレベルの高い者は存在しなかった。ただし、前世のロイスの基準なので、Lv60前後は世界でもまあまあ強い方である。能力の低さに呆れつつもフォルトナがそこで集団に声を掛ける。
「盗賊共。盗みに入る前に俺達と戦闘でもしようか。」
「仕方ないな。お前等、やっちまえ。」
集団のリーダーが盗賊達に命令する。その顔を見たフォルトナが一瞬凍りついた。しかし、フォルトナがフリーズしたと同時に、襲い掛かろうとした盗賊達の集団もフリーズしていた。
「あれ? 俺って何をやってるんだっけ?」
「お前等、いったい何をしているんだ?」
「なんだ。呪文を忘れてしまった。ん? ていうか、何で呪文を?」
クーシ―の忘却スキルは恐ろしい。戦闘時にスキルや魔法を忘れさせるだけでなく、その前後の記憶すらも忘れさせる事が可能だ。フォルトナ達はあっという間に無効化された25人を叩きのめすと次々に捕縛していった。
フォルトナはリーダーらしき三人の盗賊達の前に立った。
「ユダ。そういえばお前の異能だったな。顔の無い盗賊団。その正体は認識を阻害する能力だったか。」
「お前は誰だ? なぜ、それが分かった?」
「……ただの鑑定だよ。ユダなぜ盗賊になる道を選んだ? ジューンにランディス。お前等までなぜ?」
「まるで俺達を知っているかのような口ぶりだな。だが、鑑定では分かるまいよ。確かに俺達はさまざまな理由でずっと前に盗賊にまで落ちた。だが今はそれこそ正義の為に動いているんだ。この国の未来を思うなら見逃してくれないか?」
「正義はどこにある?」
「国民を飢えから救う為の正義だ。」
「それをするのはお前達の役目ではない。国がやるべき事だ。」
「この国で暮らしていて現状が分からないのか? 国民達は飢えに苦しみ毎年のように餓死者が出る。国に出来ないから俺達がやっているんだ。」
「ここで話し合いをしていても、おそらくは平行線のままだな。お前等は……なぜ、盗賊に落ちた? その理由が知りたい。ユダ。その結果、お前達を助けてやる事も考えられる。」
「忘れもしないよ。俺達は21年前の1月21日。突然、職を失ったんだ。スリーダン王国が世界から孤立するちょうど6年前の話だ。今のこのスリーダン王国の国民よりも俺達は飢えてしまった。」
――フォルトナの前世の記憶
ティオール商会には若く優秀な社員のユダが働いていた。ユダが特徴的なのは、能力よりも気配りが出来て優しい性格の方にあった。誰かが問題を抱えていたり落ち込んだりしていたら優しくフォローをする。誰かが揉めていたらいち早く気付き仲裁する。それはフォルトナが元気のない時も同じで、だからこそ、フォルトナは社員の中で一番ユダが好きだった。
「坊ちゃん。今日もまた修行ですか? 精が出ますねー。」
「強くなる事は楽しいぞ。ユダ。逆に商売なんてつまらなくないか?」
「面白いとかつまらないではないのですよ。生活の為に稼がなければ、かわいい娘を育てる事は出来ません。本当にティオール商会には感謝しているんですよ。」
「ユダ。何を言う。ティオール商会が発展したのは、お前が平民達をよくまとめているからだと、父上の方こそ感謝をしているのだぞ。」
「……光栄です。坊ちゃんは優しいですね。より一層お役に立てるよう精進させて頂きます。」
だが、その直後、ロイスは王女フローラを憎み、王宮で暴れてしまった。ロイスの行動がウィリアム王を怒らせ、その怒りを受けて、貴族がティオール商会を潰した。それもロイスが悪事を暴き退学にした貴族。ブリエンヌ侯爵家とスカルポン侯爵家によるロイスへの報復に近い。かくしてティオール商会の会長のバイスは殺され、ティオール商会の社員達は職を失った。
――ティオール商会が潰れて、ユダやその部下達が盗賊に落ちたというならば、それはロイスの責任だった。貴族だったヴァルキリア家やルカのマリアーノ家さえも衰退したのだ。ユダ達も相当な苦労をしてきただろうとフォルトナは考える。
フォルトナはティオール商会の従業員の中では、ユダが1番好きだった。だがアネモネを救う為に必死でティオール商会の従業員達には何もしなかったのだ。
それはアネモネを見つけてからも同じで、ただ心配する事は心の隅に流されてしまった。忘れていたのだ。
だが目の前のユダを見て今フォルトナは思う。なぜ自分の責任で潰れたティオール商会。その社員達を前世で救えなかったのか。世界の英雄ともてはやされていたロイスは、自分の責任を忘れ、自分の家族にも近いティオール商会の従業員達を一人も救えていなかった。
ユダとジューンとランディスを見て、今は申し訳ない気持ちになる。前世でも迷惑を掛けた事があり、ユダに対してはその感情が再現される。
ふと、あれだけ可愛がっていたユダの娘はどうなったのだろう。フォルトナの脳裏に疑問が浮かぶ。
「お前等に家族はいないのか? 家族がいれば盗賊なんかをやっていて、心配するんじゃないのか?」
「俺達は働いていた商会が潰れ、路頭に迷ったのです。……大切な家族達もみんなそれで死んだのです。……ぅっ……。」
ユダの涙を見てフォルトナは自分の責任を重く受け止める。少なくともこの三人だけは、このまま、盗賊として国に突き出す事は考えられなかった。
「ユダ。ジューン。ランディス。お前達だけは助けよう。三人は俺の配下になるならこれを見逃してやる。」
「いいえ。結構です。私達は全員で捕まります。仲間を見捨て自分達だけ助かろうとは思えません。年貢の納め時なんです。」
フォルトナはユダがそう言うであろう事は知っていた。ユダは仲間を大切にする。絶対に見捨てない。昔からそういう男なのだ。
「悪いが全員助けるのは無理だ。それには俺の稼ぎが足りないし、どこの誰か知らない者を雇うにもリスクを伴う。だが、ユダが決断するだけで、少なくともジューンとランディスは助かるのだぞ?」
「……。」
「ユダ。お前等の上司は誰だ? もしくは、それが協力者ならばここで言え。お前等が国民達に配っていた食料が、この国で仄冥症候群を発生させた理由かも知れない。」
「……なんですって? 俺達が配った食料が。そんなものに利用されたのか? いいや。そんな事は有り得ない。だって俺達は……本当に助けようと。」
「俺の部下になって、三人だけでもこの捜査に加わってくれないか? 何よりもお前等の正義の為に。死にたいなら、自分の犯した罪を調査してからだって遅くないだろう。」
「分かりました。調査が終わるまでは協力します。ジューン。ランディス。それで良いか?」
「はい。」「分かりました。」
しかし、状況はそんな簡単にはいかなかった。そこにドラゴンスレイヤーが現れたのだ。
「おい。誰が誰の配下だって? クソガキ。顔の無い盗賊団。どうやら、お前が黒幕だったみたいだな。顔の無い盗賊団の手配書は
カーティスがフォルトナに殴り掛かると、同時に拳から巨大な魔力が放たれた。
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