龍殺しと顔の無い盗賊団③

――宿屋シルシル食堂

 

 ヘザーの息子カイリ10歳の場合。

 

「お兄さん。ご飯とお菓子ありがと。」


 フォルトナはカイリの頭を撫でて、優しい笑みを浮かべている。全く社交性を持っていなかった今までとは違い、フォルトナは前世の記憶を取り戻し社交的にも振る舞えるようになった。そして、今はカイリにリラックスをして貰い本音を聞き出す事が重要になる。

 

「ああ。良いぞ。ではカイリ。盗賊の事で思っている事を教えてくれるか?」


「盗賊団怖いの。だって、人を殺すんだよ。街の人が嫌いな貴族が死んだって喜んでた。あと、お母さん達が盗賊様の話をする時が少し怖い。」


 フォルトナはやはりカイリの言葉が聞けて正解だったと感じていた。平民を救い感謝される義賊と人殺しの集団では真逆の意見だ。

 

「どんな風に?」


「神様のようにいつも拝んでる。」


「そうか。ありがとな。では次に『エグリゴリ』や『国に巣食う悪魔』について、どれか知っている事や感じている事はあるか?」


「『エグリゴリ』も盗賊と同じだよ。皆が神様みたいに祈ってる。けど、そっちは僕もお祈りしてるよ。神様なんでしょ? 」


 この異世界で宗教は重要な存在になっている。歴史や魔法や信託など実際にいる事が確定している世界で神は絶対の価値観なのだ。


「天使は神様ではないと思うぞ。では最後に『仄冥症候群』について何か知っているか?」

 

「うーん。……あ。そうだ。僕、気付いちゃったんだけど、病気は貴族は掛からないと思うよ。」  

 



――フォルトナの部屋


 フォルトナの部屋には犬と猫以外の全員が集まっている。犬と猫は本人達の申し出により宿には止まらず、見張りを兼ねて外で適当に過ごしている。


「まず、盗賊と『エグリゴリ』が繋がっている可能性があるな。大人達の反応が似通っている。」


「フォルトナ。記憶の旅で私が見たもの。世界皇帝ロベリアと同じ者がスリーダン王国に巣食っている事にならないのかな? だとしたら、『エグリゴリ』は敵の敵って事にならない? そうすると、盗賊団を討伐しちゃって良いのかな?」


「俺達には金も必要だ。それに安易に味方だと断定はできないな。大人には義賊だと崇められているが、子供の話では人殺し集団なんだぞ。善と悪の判断は、とりあえず捕まえてから考えれば良い。俺は今、女将のあの反応に、顔の無い盗賊団はキナ臭いとしか思わない。まるで洗脳じゃないか。」


アルバートがフォルトナの意見に賛成する。

 

「たしかに、女将のあの態度は異様に感じました。あれそのものが、我々の信仰する宗教と同じですね。そうなると女神デーメーテール様に対して不敬です。」 


オリバーもうんうんと頷いている。アルバート達の女神信仰に若干話がそれたのでフォルトナは軌道修正する。

 

「女神は置いておいて。絶対な悪はロベリアだ。それに対して世界の構図はロベリア率いる世界帝国VSスリーダン王国&亜人大陸って所なんだろう。スリーダン王国と南の大陸は国交があるらしいからな。そうなると、スリーダン王国と亜人に敵対している組織は、全てロベリアに通じているのではないかと怪しいんだ。」


 メイブはそれを聞いてもまだ、悪魔というワードに強烈な抵抗を感じている。メイブが悪魔の存在を知ったロイスとルシフェルの最初の出会いをどうしても思い浮かべてしまうのだ。一方でフォルトナはその部分の記憶が消されている。

  

「でも、悪魔って聞いちゃうと、どうしてもロベリアを思い出しちゃうんだよね。」

 

「そうだな。メイブも俺の記憶を見て来たんだよな。だとしたら仄冥症候群についても、俺と同じように想像がつくんじゃないのか? ロベリアが食べた他人の異能の中で、前回どうなる・・・・のかを確認していなかった異能がある。」

 

「まさか。仄冥症候群もロベリアが?」


「ああ。北と南。帝国と繋がりのない地域だけが被害を出してないのはおかしいだろ。俺は、なんとなく、その方法も分かった。ロベリアは【暴食】で取り込んだ異能を劣化させる。俺の前世の記憶で想像すると、ロベリアの持つ異能なら『仄冥症候群』が作れる可能性があるんだ。」


「死で完成する人と見分けがつかないモンスターが、世界中で生まれて、それが世界皇帝の能力で出来ると考えたらとても恐ろしいわね。誰もそれを阻む者がいない。」

 

「ああ。だからまずいんだ。早く倒さなけば、近い将来全て人類が魔物に変わってもおかしくはない。しかし、なぜ、この国で貴族にだけは掛らないんだ? 解決策もあるという事なのか?」


「旦那様。私の予想に過ぎませんが、その理由は想像出来ます。」


「なんだ。アルバート。」


「今回の話の中で、貴族は奪われるのに対して、平民だけが手にするものがありますよね。」


「……なるほど。それでほぼ決まりだな。俺が考えていた仄冥症候群の作り方は、その方法で世界中に広められて、今もその計画が進められている。」

  

「それは何? どうやって作って、どうやって広めるの?」

 

「万が一の為に情報を共有する必要はない。判断をする俺だけが知っていれば事足りるからな。ただし、これで顔の無い盗賊団の捕縛は、優先順位でいう所の一番上になった。」

 

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