龍殺しと顔のない盗賊団①

 鍛冶屋と情報屋を兼業しているドルドンの元へと新たな客達が入って来る。


「邪魔だ。そこをどけ、カス共。」


 三人はフォルトナ達を押し退けドルトンの前へと躍り出た。


「ジジイ。天弓アーケン古龍鉱ドレイクとやらの情報をくれ。」


「ほう。どこから聞いた?」


「どうでも良いだろ。俺は龍の討伐団を率いるドラゴンスレイヤーのカーティスだ。天弓アーケン古龍鉱ドレイクとやらが本当にあるなら、その武器は俺にこそ必要だ。」


 彼等は最近頭角を現して来た龍の討伐団。団長のカーティスと団長の強さに憧れ集まった構成員が30名。世界帝国公認のギルドや非加盟国にあるユニオンとは違い、完全に独立した組織になっている。


「良いだろう。20万リブラだ。ここにそれを持って来れるなら最高の武器も作ってやるよ。」


「ほらよっ。早く情報をくれ。」

 

「他に客がいるが今話しても良いのか?」


「ジジイ。その情報は相当危険だと聞いている。つまり知ったとしても三下共には無理な話だ。早く話せ。」


「これは神話級の話だが古龍ドレイクティアマトと古龍ドレイクガラティアの眠る場所は同じだされておる。元々その鉱山にあったオリハルコンが、何千年もの間に膨大な量の魔力を帯び続けた。それが天弓アーケン古龍鉱ドレイクだ。だが、その七色に輝く鉱石は古龍が眠る場所に存在する為、誰も取れないのだ。」


「ほう。で場所は?」


「リトルエデン。死の鉱山。」  

 

「は?」


「そうなるじゃろうな。なんせそこに行くまでも、リリン達の群生地である森を抜けなければならん。」

 

「糞情報じゃねーか。金返せ。」


 リリンの脅威は単体ではなくその種族ごとだ。これを相手にするには討伐戦ではなく戦争に近い規模の数が必要になる。そして龍の討伐団は結成されたばかりの新進気鋭の組織。つまり活躍が期待されるのはまだこれからになる。組織を強くしてから、死の鉱山に向かえば可能性はあるが、現在の段階で行けば組織は全滅する。かといって龍の盗賊団精鋭のチェスター、バイロン、カーラを入れた四人で向かうには数が少なすぎる。


 カーティスが拳を握りしめ今にも殴り掛かりそうでいるとドルドンがそれを宥める。 

  

「まあまあ。そう怒るな。特別にもうひとつだけ良い情報を教えてやる。今日か明日。遅くても三日以内。この街で深夜に顔の無い盗賊団が出る。団員達は全てが賞金首。わんさか稼げるぞ。」


カーティスはそれで折れ、ドルドンに背を向けた。情報を求めたのは自分で、その情報に嘘はない。自分の方が悪い事は重々承知なのである。とはいえ怒りは収まらずその矛先はフォルトナに向けられた。

 

「おい糞ガキ。お前等は絶対に邪魔すんなよ。邪魔したら殺すぞ。」


だがフォルトナも黙ってはいない。フォルトナは既にその情報を買い、カーティスはついでに教えて貰った。

 

「生憎、そっちの情報は俺達も買ったんだ。」


「口の聞き方に気を付けろよ小僧。お前は今、死の世界に片足を突っ込んでいる。」


「今まで、顔すらも分からずに捕まってもいない事を考えると、探す人数が多くなっても問題は無いだろ。くじを当てるような仕事になる。」


カーティスは、少し考え、そして納得した。自分達程の人数がいれば容易だが、フォルトナ達のような少数で街の捜査をするには限界がある。それこそフォルトナが言うようにくじを当てるような確率だ。

 

「ふん。だが、まあそうだな。どうせお前等みたいな雑魚にはとうてい無理な話だ。命拾いしたなガキ。あばよ。」

 

 龍の討伐団が去るとドルドンが少しだけ口角を上げる。


「リリンが怖くて、何がドラゴンスレイヤーじゃ。」 


 ドルドンの言葉にフォルトナが解せない顔をした。ドルドンの言葉にはずっと少しずつ違和感がある。

 

「ドラゴンはピンからキリまでいる。だがどちらにせよ。リリン種の数とはそもそも質が違うから、比較にはならないと思うぞ。ドラゴンに強くてもリリンに強いとは限らない。」


「ほう。ならアイツはそこまでの奴じゃと思うのか?」

 

「どうだろうな。それよりドルドン。後で天弓アーケン古龍鉱ドレイクを持ってくる。それで最高の武器を作ってくれ。」

 

「……儂を損させおって。」


「ダブルセリングをした奴に文句を言われたくないな。見つけられたら俺の取り分が減るだろう。」

 

「たしかにお前は稼げたかもしれんが、そもそも、お前の支払い分と儂の儲けでは額が全然違うじゃろ。」


「プロの発言とは思えないぞ。」


そこで、今まで不愛想だったドルドンが笑い出した。フォルトナはそれに嫌な予感を感じる。

  

「ふふふ。はははははっ。世知識や判断力は合格だな。どこぞのドラゴンスレイヤーとは違い、この国の王子の方は見どころがある。気に入ったぞ。次の情報の資金も天弓アーケン古龍鉱ドレイクも必ず持ってこい。」


「……またな。ドルドン。」


店の外でフォルトナが青い顔をしている。フォルトナに負の感情はないが、唯一、自分を上回る策略や裏切りには前世の失敗をつい連想させるのだ。 

 

「ひとことも王子とは言ってな……セバスチャンとアルバートか。そして、あいつは情報で商売をしている。……俺達は会話の中で試されていた? 情報屋の商売につなげる為の情報を得ようとして。……まさか、ドラゴンスレイヤーが来てからだけでなく、俺がどこから来たのか。王子として義賊の犯罪を取り締まるか。王族がティオール商会についてどう思っているか。索敵能力の有る無し。全ての会話に何か別の意味があったのか? それでもドルドンは全てが偽りのない情報だった。」


「旦那様。それは流石に考え過ぎかと。」


「いや、今後、俺達は騙されない事だけでなく、会話には十分に気を付けなければならない。無防備過ぎだった。なんせ俺は……」


「それもそうですね。」

  

「きっと大丈夫よ。相手にはフォルトナの能力はないんだし。それを・・・失敗したのは、まだ小さい頃だけだったでしょ。」


 フォルトナの幼少期を知るアルバートやオリバー。それにフォルトナの意識の中にいたデックナイトや記憶の旅をして来たメイブもその・・意味を知っている。


「女王よ。だが、毎回、生死を彷徨ったのだぞ。」

 

「……そうね。気をつけましょう。この街では私の行動が問題となった。全てはフォルトナの判断に任せて私は命令を守る事に集中するわ。」 

 

 すると、クーシ―が一同の前に出て吼えた。

 

「ワン。」

 

 クー・シーが吼えた後に、ケットシーが前に出て誇らしげに胸を張る。


「何も問題はありません。既にクー・シーが、鍛冶屋の店主から、こちらに不都合な情報だけを忘れさせました。それはフォルトナ殿が王子であるという認識そのものです。その情報に繋がるヒントも今頃は全てがぼやけているでしょう。それで情報屋は全ての情報が無意味になります。我々は女王の配下。つまり、これは女王の力の一端なのです。フォルトナ殿、我が女王をお褒め下さい。」

 

「そういえば、ただのペットだと思い鑑定はしていなかったな。……【忘却】だと。まてまて。この能力はとんでもない代物だぞ。それに猫の方も。……メイブ、それに犬猫。本当にお手柄だ。犬は、これからも自己判断で対処を頼む。」


「私は何もしてないけど、ありがとう。」

 

「おや。先の班編成では、我々の能力を加味したわけではないのですか?」


「だからすぐに変更しただろう。その段階では、この街が危険だとは思わなかった。……だが、お前等を侮っていたのは俺の落ち度だ。許して欲しい。」

 

「では今後、女王にきつくあたるのはおやめください。」


 ケットシーは先程、メイブが怒られていた事にショックを受けていた。だが、何も言えなかった。ケットシーも少しはフォルトナの情報を聞いていたからだ。


「ケットちゃん。私は気にしていないわ。あれはフォルトナが私に教えてくれたのよ。巨悪に騙されない為には敵を見極める力がいる。でも私達にそれは出来ない。持たざる者は持つ者を信じて非情になりきらなきゃいけない。こっちが騙されたらそこで皆が終わりなの。私はあれで迷いがふっ切れた。」


 だが、フォルトナはケットシーとクーシーの重要性をもう理解していた。この二匹は自分の復讐に役立つ。


「メイブ。猫が言った件は善処する。これからも必要とあらば言いたい事は言わせて貰うが、今までメイブやこいつらの気持ちを考えていなかったのも事実だ。悪かった。俺には悲しみなどの感情が欠落しているから、やり過ぎてしまう節がある。」

  

「お分かりいただけたのなら幸いです。我々も知っているからこそ黙っておりました。」


 

 ニエだけはさっぱり意味が分からないので、気にせずに自分の主張をした。


「主っ! お腹、すいた。」

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