スリーダン王国②
世界地図の北にあるテスモポロスから航海を始めて、西の大陸まで南下をすると
大陸の北に山脈のあるスリーダン王国に入るには、西大陸の東側、北東にある港から入るのがちょうどよい。
西大陸の中でも北部から大陸の半分弱をしめる巨大なスリーダン王国だが王都は、国内中央の北西寄りにある。
そして、フォルトナは街についた途端に、方針を変更する。
人が少な過ぎる事に違和感を覚えたのだ。
「さっきの話は無しだ。全員で行動する。なるべく早く西に進み王都へ。メイブはこの街や今のスリーダン王国の情報を聞きながら歩みを進めろ。なるべく距離を取り不用意に近づく事は絶対にするな。」
「フォルトナ。怖い顔をして、いったいどうしたの?」
「いいか。前にも言ったが何があっても絶対に俺の命令を優先しろ。」
「……はい。」
物乞いが、近づこうとするとメイブの後ろにいたフォルトナが剣で威嚇する。
「近づくな。」
「旅のお方、お金か食べ物を恵んで下さい。」
「メイブ叩き斬れ。」
「フォルトナ何を言ってい――。」
デックが、物乞いの胴体を真っ二つにした。
「デック!」
「女王よ。忘れたか? フォルトナの命令は絶対だ。そして我は女王の剣でもある。」
メイブの顔が、青ざめる。
守らなければいけないという命令が常軌を逸している。
メイブは混乱した。
無残に散った命に、悲しみで胸が押しつぶされそうになった。
だが、ぐっと堪えて、何も言わなかった。
フォルトナのスリーダン国に対する恨みはあまりにも深すぎると、改めて実感した。
そして、メイブにはそれを止められず、デックでさえフォルトナの命令に背かない。
あんなにもフォルトナを愛する気持ちが、無理かも知れないという不安でいっぱいになる。
フォルトナを愛する気持ちと、フォルトナの非道を止められない悲しみがメイブの中で共存していた。
メイブが辺りを見渡すと、他に人気はない。
一行は西にしばらく進んで行くと、今度はお婆さんが歩いている。
メイブは急いでお婆さんにこの街の事を尋ねていた。
フォルトナが反応する前に、お婆さんから有益な情報を貰い無害であるとも証明したかった。
「おばあさん。どうしてこの街は人が少ないんですか?」
「この港町、いや国中が税金の取り立てに苦しんでいるからだよ。餓死する者が後を絶たない。昔は良い国だったんだけどね。世界から見捨てられた結果がこれだよ。」
フォルトナの反応はない。メイブはお婆さんから追加の情報を得る事にした。
「お婆さんのおうちは大丈夫なんですか?」
「うちは男手が多いからなんとかね。それにこの街も中心街にはまだ生き残りが多いのさ。」
「情報をありがとうございます。」
メイブはお婆さんにお礼をいうと、ビクビクしながらお婆さんが進めるよう両手で誘導する。
何もない事を確認すると、メイブは胸を撫で下ろした。
メイブ達は、更に西にへと進んで行く。
お婆さんの言う通り、中心に近づくにつれて人通りがポツポツと多くなってきた。
メイブは、国民達の現状を、フォルトナに悲しみが伝わるよう、あえてスキルを使って説明する。
「かわいそうに。普通の平民は生活が出来ない程に税金が高いみたいね。」
「当然、軍事費に充てているのだろう。この国は世界から孤立しているんだぞ。」
しかし、そんな事でフォルトナの恨みが消える気配がない。フォルトナの淡々と話す口調がそれを物語っていた。
「私の住んでいた南大陸も、世界帝国には入っていないわよ。」
「あそこは、亜人という強者が暮らす場所だ。孤立した人間族の国が15年も残っている事自体が奇跡なんだよ。」
アルバートがメイブとフォルトナの会話に入って来る。
「旦那様。このまま王都まで一気に進むつもりですか?」
「アルバート何かやりたい事でもあるのか?」
「昔、この街の情報屋と接点がありました。それに逃亡する時もこの街を経由したのです。」
「なら、そこに向かおう。一般人に聞くより情報屋の情報の方が信頼できる。」
「畏まりました。」
先頭がアルバートに代わり、しばらく街を歩いていると、道の端にいた二人組の子供達がメイブに向かって近づいて来る。
「お姉ちゃん。何日もご飯を食べていないの。」
「メイブ。叩き斬れっ。」
これにメイブは、ついに耐えられなくなった。
メイブは罪もない子供を殺させる事だけは我慢出来ない。
「フォルトナ! いい加減にして、相手は子供なのよ。」
メイブがフォルトナの方を向いて大声を出すと、びっくりした子供がメイブの手を取る。
子供はメイブの手にかじりついた。
「いたっ。」
咄嗟にフォルトナがルカの剣で子供を斬り殺した。
もうひとりの子供がニエを襲おうとするが、それより先にフォルトナの命令を聞いて動いていたデックが斬り伏せる。
「何っ? いったい何なの?」
「メイブ。今すぐ俺の前から消え失せろ。お前は俺の仲間失格だ。俺の命令は絶対。それが守れるなら同行を許可すると言ったはずだ。」
「でも、だからって酷いよ。子供達をこんな簡単に殺すなんて。」
「消え失せろっ。」
メイブはフォルトナを愛している。だからフォルトナには残虐な行為をして欲しくないと思っていた。それでも悪しき行いをするなら自分がフォルトナを変えようという使命感を感じていた。だが、フォルトナの憎悪と暴力は自分にも向けられていた。消え失せろという非情な言葉がメイブの心を斬り裂いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます