宿敵との再会②

 フォルトナは、無邪気な子供の容姿に狂気の笑みを浮かべる。憎むべき復讐の対象が、今自分の目の前にいる。

 


「お前が、世界皇帝だと? なるほどな。……今度はフローラが欲しかったわけか。」



「ん? なんだ。お前は? 全員、逃げ出したんじゃなかったのか。」



「今、お前が喰らったのは、俺の母親だ。」



「だから、どうした? この世の全ては朕の物。朕が所有物をどうしようと誰も咎める事は出来ない。」



 フォルトナは、ロベリアの返事に、左の口角を吊り上げて、不気味に笑う。


「それは嘘だな。実際にはそうではない。百歩譲って、お前の世界が管理するものまでを、お前のものだとしよう。だが、世界には独立した国家や種族などがあり、その他、人間が管理していない全ての生物や物質もある。それらは、お前の所有物などではない。」


 


 フォルトナの言葉に、今度はロベリアが膝をついて苦しみだす。フォルトナの【邪眼】によるペナルティーが発動したのだ。それはロベリアの肉体を内側から破壊していく。だが、現在のロベリアのステータスは尋常じゃない。【邪眼】のペナルティーに辛うじて、肉体は形を留めている。



「……ぐはっ。貴様、いったい何をした?……忌々しい奴め。貴様など、朕の魔法で粉々に引き裂いてくれる。世界は全て偉大なる朕のもの。その事実は変わらん。しかし、一度だけチャンスをやる。今、逃げるなら追いはせん。」



「それも嘘だな。お前は今、魔法が使えない。さっきの食事の影響だろう。そして、例え逃げても回復したらすぐに追うつもりだ。」



 ロベリアは、その場に倒れる。その顔は苦痛で醜く歪んでいる。



「ぐはっ。……はぁはぁはぁ。……やっ……やめてくれっ……貴様、いったい何の攻撃をしているんだ?」


「ぎゃはははは。」


フォルトナの笑い声が辺りに響く。 この上ない喜びと快感でフォルトナの心が満たされる。しかし、すぐに過去の憎悪と悲しみでいっぱいになる。

 







 ――ルカは、違和感に気付き辺りを見回していた。そこにフォルトナがいない。この時ばかりは、ルカは自分の無能さを嘆いていた。フローラは息子を心配したからこそ、囮になる事を選んだのだ。肝心かんじんのフォルトナを現場に置き去りにするなど話にならない。


  考えれば、すぐに分かる事だったとルカは反省する。自分の母親を見捨てて逃げられるわけがない。フォルトナの手を引っ張ってでも一緒に連れてくるべきだったのだ。フローラが命がけで守ろうとしたのは、自分達ではなくフォルトナ。ルカだけでなくアルバートやオリバーも、あまりの恐怖で、フォルトナも一緒に逃ているのは当たり前だと錯覚してしまっていた。


 


 


 ルカは、無言で、すぐに一人だけで引き返していた。


 


 


 


 

 ――ロベリアには、前世のフォルトナから【暴食グラトニー】によって獲得した【堅忍不抜】がある。【暴食グラトニー】使用後に発生する完全無防備な状態を回復すれば、魔法による攻撃は一切通じないと確信している。ただし、フォルトナの持つこの異能【邪眼】は、相手がついた嘘を喰らい、それを動力に相手にペナルティを課すもの。そこに少しでもMPを消費すれば、性質は魔法に転ずるが、あくまでも異能による特殊攻撃に位置づけされる。ロベリアがこれを防ぐには、直ちに嘘を封印するしかない。


「ふははは。滑稽だな。この世の全ては自分の物だとふんぞり返っていた化け物が、今は惨めに地に伏している。それで、世界皇帝様は俺の力がこの程度だと思うか?例えば、魔物を仕留める為に、最初から全力で戦う冒険者は、世界の人口の何%だと思う?」


「そんなのは簡単だ。世界の冒険者のうち56%は最初から全力で戦う。これは私が調べさせたギルドの統計。……まて、まさかお前は、本気を出していないと言うのか?……ひっ……頼む…………やめてくれ……。」


 フォルトナは、知識をひけらかしたくなる性分のロベリアの発言を予想していた。昔も全ての事はロベリアが考え、自分はそれを決定するだけだった。そして、それは的中する。ロベリアは自分の知識を言葉にしていた。


「嘘だな。統計はあくまでも統計だ。それが正解ではないし、お前の指す統計は、自分が管理する地区だけに偏るだろ。それにお前、さっきから何を怯えたフリをしているんだ?隙を見て攻撃する為に演技をしているよな?さっきの食事のリキャストタイムはまだ続いているのか?」

 

  激痛に苦しむロベリアが、力を振り絞りフォルトナを見上げる。


「ぐあぁ~~。…………はぁはぁはぁ………………ぐあっ。……貴様……危険……キケン……なやつ…………だが…………やっと俺の時間。……何?【天眼】で見えないだと。だが、もういい……もうお前は終わりだ。……シネッ。」


「それも嘘だな。例えば、その天眼とやらは自分の物ではなく、劣化でもして名前が変わっているんじゃないか?」


 今のフォルトナの異能【全眼】は【天眼】から女神ハルモニアと【邪眼】の影響により進化したもの。嘘を見抜く力によって偽装などは通用しない。過去にロベリアに偽装された時とは性能がまるで違っていた。しかも、それがなくても先程までは死人や魔や呪を祓う性質の【破邪】の勇者が一緒だった。ロベリアが使う偽装は、【破邪】で祓える性質だった。


 ロベリアの目は霞み、意識は朦朧としている。それでも激痛に耐えながらなんとか立ち上がる。

 

「ぐあ~~~。ちきしょうがっ。死ねっ。滅してやる。滅滅滅滅っ。小僧。苦しみ、藻掻き、そして死んでしまえ。」

 


 世界皇帝は、異能【暴食】使用後、1分間、全ての異能や魔法が使えない。完全無防備な状態になる。フォルトナの言ったように、だからこその怯える演技だった。

 そして、その一分がやっと終了し、――後は絶対の力で敵を殲滅するだけ――だった。

 世界皇帝が両手を振り上げると、その周りに発せられる夥しい程の魔力。それは、前世で大魔王が使った全体魔法攻撃、【暴食】で得たその劣化版。


 この恐るべき攻撃に、ただ事ではないと感じている男がいた。男はフォルトナの体に飛び込み、フォルトナの体を包み込む。フォルトナは、自分を包む聖なる光とその暖かさから、生前のフローラの事を思い出していた。



「ふっ。死んだか。くそっ。危ない所だった。聖天六歌仙の一人でも連れてくるべきであったな。……勘が戻るまでは、外出は控えるべきか。」


 ロベリアは、再三攻撃を受け、霞む目で、そこに倒れている体の輪郭を確認すると、すぐに自分の城に【空間転移テレポート】した。一度目の【天眼】で見えなかったので、それで確認はしていない。十分すぎる程の攻撃をしたために、生きているとも思えなかった。



 フォルトナは、自分に覆いかぶさるルカを仰向あおむけに寝かせると、ルカが小さく言葉を漏らす。

 

「…フォルトナ…」


「お前…まだ息があるのか? 待ってろ今、回復薬を出すか……」


「……無理だ。もうじき本当に死ぬ。破邪の剣。これをお前にやるよ。俺程じゃないが邪を弱らせる効果がある。お前と一緒にいた時間。本当に凄く楽しかったなー。お前は…俺なんかよりよっぽど勇者だ。……フォルトナ――」


「――もう良い喋るな。これを飲め。みかんを助けるんだろ? 生きなきゃ駄目だ。」


「ふふふ……だから、無理だって。……フォルトナ……悔しいがみかんの事はあきらめ……だから……お前は自由に生き――」


「――だったらおとなしく死にやがれ。みかんとやらは、この俺が助けてやる。」

 

「フォル……心残りがなくなっちまった。ありがとな相棒……俺のはじめての……友だち。」


「馬鹿野郎。みんなに愛想を振りまいといて、お前もはじめてなんじゃねえかよ。」

 

 フォルトナは悲しみの感情を出した瞬間に打ち消される。だから本人には、それを悲しむ気持ちはわからない。だが、なぜかほんの少しの悲しみで、その瞳から滴が零れ落ちる。ルカに初めての友達と言われた、暖かさがフォルトナの心の中に残っていた。

 



 ――メイブ、ニエ、アルバート、オリバーは、フォルトナとルカがいない事に気付き、すぐに道を引き返した。 一同が歩く事、数分。ようやく、世界皇帝から逃げ出したもとの場所が見える。そこには、ルカを抱くフォルトナの姿があった。


 

「ご主人様、大丈夫ですか! フォルトナ。ご主人様はどうなってるの?」


「見ての通り死んだ。ルカは俺を守って死んだんだ。だが俺には魔法が効かないから、これはただの犬死。むしろルカのせいで、世界皇帝を倒す機会が台無しになった。やつは倒れたルカを見て、俺と勘違いして帰ってしまったのだからな。……まったく、ルカは本当に最後まで残念なやつだった。」


  メイブとニエは膝から崩れ落ちる。自分達を解放してくれた主人。命を救ったも同然の恩人が出逢って僅わずか一日で死んでしまった。当然、まだ何も恩を返していない。しかも、その最後は、仲間を庇って死ぬという立派なものだった。涙が止まらない。これから、どうやって生きて行くのかもわからない。メイブもニエも孤児という点で一緒だった。帰る場所もなく、ようやく見つけた自分の居場所も、覚悟を決めた次の日に失ったのである。


「そんなー。ご主人様ぁー。ぅ……うわーん。」


「主。死んだ。私、悲しい。ぐすん。」


  アルバートが、一縷の希望を心に抱き、質問をする。


「旦那様が来ていない事を気付かずに、私達だけで逃げてしまい本当に申し訳ありません。…大奥様はどうなさいましたか?」


「ああ。フローラは化け物に喰われた。完全に死んだよ。」


「……そうですか。お悔やみ申し上げ…………ぅ……ます。」


「……お嬢様。本当にご立派でした。」


 今度は、アルバートとオリバーが肩を落として泣いている。


「オリバー。大奥様だといつも言っているでしょう。……ぅ……お前は本当に……。」


「ですが、お嬢様は、幼い私達兄弟を救ってくれた恩人です……。いつまでも、あの時のお嬢様なんです。」


「だからこそ、大奥様にご恩を返す為にも、私達が命がけでフォルトナ様を支えよう。」


 執事達は、支え合いながらフローラの死を悲しむ。フローラとは子供の頃から一緒だった。執事であるとはいえ、本当の家族のように慕っていた。それどころか、執事の二人は幼い頃からフローラに密かに愛の気持ちを抱いていた。出来る事なら代わってあげたいくらいだったのだが、フローラの意志を尊重した結果みんなで逃げる事を選択したのだ。


「思い出に浸っている所を、悪いんだけどアルビーとオリバーは解雇する。俺はお金を持ってないからお前等を雇えん。」


  淡々とした口調で、フォルトナは執事達に解雇を言い渡す。


「おいっ。チンチクリン。さっきから聞いていれば、アンタはいったい何なんだよ。自分を庇ってくれたご主人様を犬死とか残念なやつとか言うし。フローラさんの死を悲しむ執事さん達に追い打ちをかけるような形で解雇するとか。アンタには人の心がないの! アンタの母上と仲間であるご主人様は……死んでしまったんだぞ。」


「だから何だ。悲しめば帰ってくるのか? ……八つ当たりで興奮するな。きもいぞ。」


「フォルトナ……貴様ー!」


 フォルトナに殴り掛かるメイブの拳をアルバートが受け止める。


「メイブさん。旦那様には旦那様の事情があるのです。旦那様、私達は無給でも構いません。ですから連れて行ってください。オリバー。お前もそれで構わないな?」


「もちろんです。旦那様は私達の生きがいです。大奥様と共に、旦那様を育てられた事は私達の大きな幸せとなりました。」


「メイブさん。ニエさん。奴隷は主が死ねば解放されるわけではありません。他の誰かに契約されます。知らぬ者に契約される事を回避する為には、旦那様を主とするしかありません。ここで忠誠を誓って下さい。でなければ、置いていきます。」


「無理だ。置いて行く。だがそれは執事も合わせ全員だ。俺に必要なものは、ルカしかいない。他は何もいらない。俺はこれからあの世界皇帝を倒す。言うなれば、俺そのものが世界の敵だ。そんな奴について来るのは、自殺すると言っているようなようなもんだぞ。」


  だが、フォルトナの言葉に怯む者など誰もいなかった。全員が、覚悟と熱い意志を滾らせている。


「私……フォルトナ、否、新しいご主人様について行くわ。……話を聞く限り、ご主人様はあの世界皇帝を追い込んだって事よね。だったら、二度目も期待できるはず。そりゃあ怖いわよ。でも、私達にとって、世界皇帝は共通の敵のはずよね。世界を敵に回す? 上等じゃない。元ご主人様を殺したやつ、それも、世界で一番偉いのが魔物だなんて絶対に許せない。私も力になれるよう死ぬ気で努力する。だからお願いします。ご主人様。私をその旅に連れて行ってください。」


「私、決めた。皇帝。倒す。」


「私達、執事は生涯しょうがいフォルトナ様に忠誠を誓った身です。連れていかないと言うなら、ここで自害をするご許可を。」


「兄上? ……そうですね。お嬢様と共にこの地に眠るのも良いかもしれません。旦那様、ご一緒させて下さい。断るのなら、私も死を望みます。」


 四人の決意を聞き、やっとフォルトナはそれを受け入れる事にした。


「ゥルサイ……ワメクナッ……クソ……ヤッカイダ……シズマレ……ワカッタヨ……。それなら、これからは俺の命令は絶対だ。万が一裏切ったり、嘘をついた場合は死んでもらう。それが守れるなら同行を許可する。」


 実はこの言葉に妖精ウェンディゴは関与していない。今回だけは、ただの照れ隠しだった。


「ありがとうございます。私、メイブ ヘルヴォール これより、ご主人様の忠実な下僕となります。」 


「主。フォルトナ。前の主、かたきうつ。」


「イエス、マイロード。」


「イエス、ユア、ハイネス。」


 


 改めて、気合を入れる一同。フォルトナは、ルカの死体からミトラの羽ペンを取り出し、メイブとニエから出現させた魔法陣の契約を上書きする。


 


「では、行くぞ。アルバートとオリバーは、よっぽどの事が無い限りは武器を使うな。あれは消耗品だからな。メイブとニエはなるべく俺の近くで参戦しろ。」


 


 フォルトナは、抱きかかえていたルカの死体の後首を掴み、それを持ち上げると、死体の足を地面に引きずりながらアイスガードの港町への先陣をきっていた。魔物達はフォルトナに近づくと弱体化し、Lv1のフォルトナは、無理をしてなんとか討伐出来るくらいだった。それでも修練を重ねただけあり、襲い掛かる魔物達を次々と返り討ちにしていく。


「いやー……いやいや。ご主人様。何をなさっているのですか?」


「見ての通りだ。ルカの死体を使って、魔物を弱体化している。それにしても、これが、経験値というやつか。レベルがモリモリ上がっていくぞ。それにしても、さすが、勇者の剣だ。家にあった物より良く斬れる。」


「死体を粗末にあつかわ……なんでもありません。」


 メイブはルカの死体を粗末に扱うフォルトナへの怒りを募らせていた。だが全てはルカのかたきを取る為に、それを我慢する。


  フォルトナは、猫の首を掴むようにルカの死体を掲げ、時には魔物の魔法攻撃の盾にも使っていた。最初の内は、死体を掴みながら戦闘するのは、一苦労だったのだがフォルトナのレベルは尋常じゃない早さで上昇し、現在は楽に魔物達を討伐する程になっている。


 ルカの破邪の異能は、半径10メートル前後に効果を及ぼし、弱体化した魔物達をメイブやニエも討伐している。アルバートとオリバーは武器の使用を制限され、用心をしながらフォルトナの後ろをただ歩いている。


 前の主人の亡骸の扱いにメイブの不満は、爆発しそうになっていたが、涙目でそれを我慢をしている。ルカの事は、粗末に扱うのに自分の身は心配しメイブ達に自分の周りを警護させている。ニエは、10歳の子供で、そんなに深くは考えていない。アルバートとオリバーにいたっては、フォルトナとは、そういう合理的な考えをするものだと知っているので、何も考えていなかった。

 


 アイスガードの港町に着いてから、約1時間。なかなか進まない焦りも加わり、メイブはフォルトナについ意見を言ってしまう。



「クッ……駄目。もう我慢出来ないわ。ご主人様。死体を粗末に扱わないで下さい。」


「粗末には扱っていない。効率的な持ち方をしているだけだ。」


「アルバートさんかオリバーさんのどちらかが、抱きかかえて歩けば良いのではないですか?」


「ルカの異能は、距離が近い程、効果が高い。だから、レベル1だった俺には、これが最善であり、こうする他なかっただけだ。だが、まあ。もう俺のレベルは38にまで上昇した。ここからは、オリバーに任せようか。オリバー。ルカを抱えてくれ。」


「イエス、ユア、ハイネス。」


 この返事に一瞬固まるメイブ。頭を整理する。


「え?約一時間の道のりでLv1から、Lv38にまで上昇したというの。私でも、今はLv15前後なのに。……はっ。ご主人様、余計な意見を言ってしまいました。本当に申し訳ありません。ちゃんと深い理由があったのに、私は感情的に……。」


 Lv1なら、ここにいる狂暴なモンスター達を討伐するのは、相当な覚悟が無いと出来ない。それにメイブ達に自分の周りにいるように言ったのも、自分の警護ではなく、メイブ達を心配しての発言だった。メイブは自分の思慮の浅さに反省する。


「ハ?……メンドイ……ワカッタヨ……イエバイインダロ……メイブ。何か勘違いをしているようだが、別に意見をするなとは言ってない。命令があった場合は絶対に従えと言っただけだ。別に口調も前のままでも良い。息が詰まるだろ。それを徹底できるのはアルビーくらいだ。まったく馬鹿かお前は? くそビッチが。」


「チンチクリン。本当に一言多い! でも、本当にそれで良いの?……フォルトナが良くても……アルバートさんが。」


「私も同じです。忠誠を誓うとは、旦那様に尽くすという気持ちの問題です。執事でもあるまいし、公の場所以外で形式ばる必要は無いかと。旦那様がよろしいのであれば、言葉遣いや態度などは問題ではありません。ただし、貴族などの品位を重視する第三者が近くにいた場合、旦那様の品位を落とす行為は控えて下さい。」


「……はい。かしこまりました。……って、あれ? 待って! ご主人様がチンチクリンじゃない! ……背が伸びている。」


「ハイヒューマンは、レベルが上昇しないと成長が遅い。その中でも真なるtrueハイヒューマンである俺は、レベルが上昇しないといつまでも子供のままなんだよ。逆に言えば、レベルを上げた事で本来の姿にまで成長したんだ。」


「そうなの。それはそれで、なんかちょっと悲しいような……。」

 

「あと、お前もレベルも23にまで上がっているぞ。ここのモンスターの経験値は、それ程高いという事だ。」

 







 それから、約3時間を掛けて、旅が始まる前に、ルカの言っていた船を探し出した。


 現段階での全員のレベル。

 フォルトナLv78。メイブLv41。ニエLv55。アルバートLv75。オリバーLv62。戦闘に参加していないものも、パーテイーにいる事で均等に経験値を貰っている。


 尚、幸運な事にフォルトナに異能を与えた女神ハルモニアの影響を受けた【邪眼】には裏能力があった。それは前世の世界最高のレベルと今世のレベルを調和し、引っ張り上げようとする力だ。これはレベルが低い程、高い効果を発揮する。


 船に着いた一同は、周囲にいる魔物達を一掃した。


「これが、ルカが乗って来たという船だな。よし、乗り込むぞ。」


「はい、ご主人様。ところで、船の操縦は誰がするの?」


「……ああ。それはオリバーに任せる。出来るな?」


「イエス、ユア、ハイネス。」


「そっか。オリバーさん。船の操縦が出来るんだね。」


「いや。まだ出来ないと思うぞ。」


「え? ……え――――!!!」


 フォルトナが船に飛び乗ると、全員が後に続く。オリバーはすぐに操縦席に入る。



「なるほど。ふむふむ。そうやるんですか。理解しました。」


 オリバーの一連の動きを見たフォルトナがメイブに話をする。


「おそらく、これで運転が出来るようになったぞ。」


「えええええー--!!!」


 隣にいたニエが耳を塞ぐ。


「メイブ。声。大きい。黙れ。」


「ごめん。ニエちゃん。驚かせちゃったね。」


 メイブはニエの頭を撫でながら謝罪し、フォルトナは説明を面倒くさがりそれを省く。


「オリバーは非戦闘員だと言っただろ。そういう異能なんだ。不思議ではあるまい。」


 しかし、メイブの今の関心は、それとは別の所だった。


「ご主人様。もしかして、最初からオリバーさんを連れて行く気だったんじゃ?」


「まあな。長年連れ添った仲間に裏切られる事だってある。だからこそ、意志の確認が必要なんだ。」


 メイブは、それを聞いて少しだけ微笑んだ。


「ご主人様の良い所見つけたかも。どこまでも、合理的だけど、仲間の能力を信用している。裏切るなというけれど、それは自分から裏切る事もないって気がするしね。」


「う……うるさいっ。黙れ。くそビッチ。ふんっ。」


「うふふ……照れちゃって。」


 


 フォルトナは逃げるようにして、甲板の真ん中に立ち声をあげた。

 

 


「いいか。お前等。俺達の目標は打倒世界皇帝だ。だが、その道程で、勇者ルカが探していたみかんとやらを救出する。あいつには、たくさんの借りがあるからな。だから目的地は前と変わらず亜人達の都リトルエデン。ただし、情報を収集した後で、先に寄らなければいけない場所が一つだけある。そして、それは確実に大規模な戦闘になる。覚悟をしておけ。」


 


「はい。ご主人様。」「主。りおかい。」「イエス、マイ、ロード。」「イエス、ユア、ハイネス。」「ニャー。」「わんっ。」


 



 


「「「「「っ!?」」」」」


 


 


 


 


 かくして


 


 古の都市、テスモポロスにて、勇者ルカを通して出逢った奴隷と転生者とその執事達。


 


 一行は、世界皇帝を倒すという共通の目的で、その旅をはじめる事になった。


 


 


 待ち受ける苦難の先にあるのは、幸か不幸か、まだ、誰も知らない。











 …数時間後。









 

「メイブ。大変だ! 旦那様が死んでしまわれた。」

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