第一章 フローラ セルティー

嘘が嫌いな勇者①

 ここは、母なる大地、最北の島。


 その中心にある古代文明の残骸ざんがい。ガラクタの街。



 古代都市 テスモポロス。



 それでも、少し前までは、人間と妖精達が幸せに暮らす楽園だった。この地は、神の契約で、古来より魔族とその眷属を一切寄せ付けない反魔の街だった。

 



 魔族の大魔王ロベリアが世界の皇帝に就任した日より、世界帝国に加盟するほとんどの人間達も、魔の眷属とみなされテスモポロスの街には入れなくなっている。


 ただし、その事は決して公になる事はない。

 

 なぜなら、岩山に囲まれた母なる大地の唯一の玄関口、アイスガードの港に、10万の魔物が住み着くようになったからだ。



 女神デ―メーテールの反魔の契約は、島ではなくコスモポロスの街や大地がそれを結んでいる。街から離れた所には徐々に効果が薄くなり、最南端のアイスガードの港町は完全にその効果が切れている。真の大魔王であるロベリアは世界皇帝に就任後、魔族の指揮の元、モンスター10万体にテスモポロス侵攻を命じていた。

 そのため、テスモポロスは、約15年の間、このアイスガードに住むモンスター達の影響で、世界から隔離されていた。


 そして、今、アイスガードの港町に15年ぶりに人の船が着いた。木製で10人用の中型船。船体には邪を払う効果のある神木を使用し、異能の力でその効果が極限にまで引き上げられている。近くにいる魔族達は、その神聖な輝きに怯んでいる。船の甲板に出て来た少年は、前髪の青いメッシュを触りながら魔物で埋め尽くされた港町を一望した。ダークブラウンのウルフレイヤーが潮風になびいている。


 少年は深呼吸した後で、甲板からアイスガードの船着き場にジャンプしていた。魔物の大群の中で彼にはそれに続く仲間がいない。たった一人だけでここまで航海をして来たのだ。


「やっと、到着かー。ふむふむ。やはり魔物だらけだな。」


 突如船着き場に現れた少年を魔物達が取り囲んでいる。だが魔物達は自分達の変化にいまだ気付いていない。

 

「ぐるるるる。」


 少年の場違いな笑顔に、凶悪な魔物達はまったなしに襲い掛かる。



「悪いね。襲ってくるなら糧にさせて貰うよ。」


 少年の顔から笑顔が消える。襲い掛かる魔物の群れを今度は悲しそうな顔で切り刻んでいく。知恵のある魔物は、少年が只物では無い事に気付き後ずさる。反対に生命の危機に、全力を持って抗う魔物もいた。しかし、少年は歩みを止めない。そこに立ちはだかるものを全て斬り伏せて、ひたすら前へと進んでいく。


 それは、大量の魔物達の中をたった一人だけで突き進んでいくという有り得ない光景。



 それを可能にした彼こそが、西大陸からやって来た勇者。




 ルカ マリアーノ 其の人である。






 

 数時間後、アイスガードの港町を突破したルカは、返り血で真っ赤に染まっていた。

 万能型の勇者は全属性の魔法を中級くらいまで扱う事が出来る。だからこそ、世界では珍しい魔法の融合を得意としていた。

 ルカは、水、風、火、融合魔法 『ウォッシュ』にて、血に染まった全身を温水で洗い流す。歩みを進めながら、風、火 融合魔法『ドライヤー』にて、全身を乾かしていた。アイスガードを出て歩く事、更に1時間。ここでようやく目的地の門が見えていた。

 


 テスモポロスの門番は、少年の登場に驚愕きょうがくしている。彼は形だけの門番として長い時を過ごしてきている。アイスガードが魔物に支配されてからの15年間、誰一人くぐる事の無かったテスモポロスの門。そこに、まだあどけない顔立ちの少年が、それもたった一人だけで訪れたのだ。


「え? ……まさか。外から人が……。コスボ……コスモス最古の都、デ……テスモポロスへようごそ。」


 門番は、長年考えていた台詞をやっとの事で発言する事が出来た。しかし、長年考えていただけあって、実はこの台詞は複数のパターンがあった。コスモス最古の都。神話の民が暮らす街。神に守られた楽園。古代文明を伝える街。など、門番は他にもたくさんの台詞を考え過ぎてしまっていた。だからこそ、迷いに迷って台詞を噛んでしまいう。その失敗を悔やむ気持ちが、更なる間違えを誘発したのだ。門番は顔を真っ赤にしながら、無かった事にしようと思った。


「神に守られた楽園に、何の御用でしょうか?」


「俺はブラウニーの亜種。ビリー ブラインドを探しています。妖精達が頻繁に往来すると言われるこの街には、ブラウニーもいるというのは真実でしょうか?」


 魔を寄せ付けない特色があるその地には、昔から、たくさんの妖精達が、妖精界のゲートから現れ、いたずらなどをするという習慣があった。その話を聞いたルカは、情報を求めて、はるばる世界の最北にまで訪ねて来たのだ。


「その前に、旅のお方。港町アイスガードには、この地を狙った魔の軍勢が、蔓延っているはずです。どうやって、ここまでやって来たのです? もしかして、魔物達は撤退したのですか?」


「魔物の群れを中央突破してきただけですよ。」


 門番の顔は、一気に引き締まる事になる。アイスガードの魔物の大群は、この街最強、領主の兵士達数十人でパーティーを組み、やっと、その序盤にいる集団を何体か狩る事が出来るくらい危険なのだ。


「失礼しました。その少年のような見た目で、とてもお強いのですね。では、質問の答えです。たしかにこの街にブラウニーなどはおりました。しかし、現在は、妖精のたぐいは、まったくいないのです。」


「それは真実ですか?俺は嘘をつく人間が嫌いなんです。」


 言葉使いが丁寧だとしても、武勇伝を聞いた後では、もはや脅しにしか聞こえない。間違いなく、この少年はこの街にいる誰よりも強いはずなのだ。もしかすると、世界で最強なのかもしれない程に。 焦る門番は手を組み祈るような形でルカに懇願した。


「信じてください。全部、本当の話ですよ。アイスガードの魔物の大軍勢。そのど真ん中を通って来たあなたに嘘をつくと思いますか?きっと私など簡単に殺されてしまうでしょう。もはや私はこの街の門番ではありません。それよりも、あなたに忠誠を誓います。」


「忠誠って・・・。あの。殺しはしないですよ。と、いうか、あなたも相当な手練れでしょう?まあ、良いです。では、なぜブラウニーはいなくなったんですか?」


「手練れ? なんの事ですか? あなたや領主様の兵士達に比べたら、私などは、ただの平凡な剣士です。……ブラウニーですね。……今の領主様になった3か月前から、妖精などは、めっきり来なくなりました。今は、人間だけが住む、人間の楽園なのです。」


「そうですか。では、この街に宿などはありませんか?」


「旅人が来ないのですから、宿泊施設もありません。宿は無いのですが、セルティーさんが、昔は、それに近い事をやっておりました。ご子息にお友達を作る為だそうです。街の少年達を誘ってのお泊り会などです。それはもう立派なお屋敷なんですよ。ただ、セルティーさんのご子息が少々変わった子みたいでして、いっこうに友達が出来ないまま今は成人しました。」


「門番さん。ありがとう。これは気持ちです。」


「え? 一万リブラもよろしいのですか?」


「ええ。貴重な情報に金貨1枚。何も問題は無いです。」


「ありがとうございます。あらためまして、テスモポロスへようこそ。」


 

 見えなくなるまで、手を振って見送る門番を背に、ルカは街を歩き始めた。その街は、ルカがこれまで世界を旅した中でもぶっちぎりで一番の高度な文明だった。


「しかし、物凄い街だな。四角い大きな石の建物。これはスリーダンの技術、いや、世界の技術より優れているんじゃないか?ただ、随分と古そうだけどな。」


 

 しばらく、門番に教わった道を歩いて進むと、大通りの左側に広場が見えた。広場の奥には大量のガラクタが積まれ、そのガラクタの山から手が出ている。その方角から微かに男の声が聞こえてきた。


「誰か、助けてくれー。」


 ルカは声に近づきながら、間違いなくあの手の持ち主が助けを求めているのだと確信した。


「大丈夫ですか? 今、助けまーす。」


 ルカは、ガラクタの山に飛び乗ると、周辺にあるゴミを掘り起こし、そこから時間をかけてお爺さんを救出した。 だが、お爺さんはそのルカに対してゴリラのような顔をして、汗をかきながら呆れている。


「おぬし。……顔に似合わず、おっちょこちょいなんじゃな。」


「ええ。それは自覚してます。」


 どういうわけか、お爺さんと入れ替わりで、今度はルカの方がゴミの中に挟まっていた。


「ちと、助けを呼んでくる。儂が助けたらエンドレスで同じ現象がおきそうじゃわい。」


「……すみません。お願いします。」



 ――お爺さんは近所の子供らしき人達を2人連れて来て、なんとかルカを救出する事に成功した。


「皆さん。本当にありがとうございました。」


「いやー。困った時はお互い様だよ。」「おにいちゃん。気にしないでね。」


 広場の入口にてルカは帰って行く子供達にお礼を言うと、汚れている自分とお爺さんに融合魔法『ウォッシュ』にて洗浄をする。


「なんじゃこの魔法は。……素晴らしい。是非わしに研究させてくれ。」


「丁重にお断りします。それより、いったいあそこで何があったんですか? 誰かにやられたんですか?」


 老人は、首を横に振った後で、にっこりと微笑む。


「いやー。参ったよ。わしは科学者でな。古代の機械を掘り出しておったら、おぬしみたいに自分の方が埋もれてしまったんじゃよ。ありがとな。あれ?そういえばおぬし。見ない顔じゃの?」


 ルカは誰かの仕業などではなくて、ほっと胸を撫で下ろした。問題ごとにすぐに首を突っ込むルカにとって、このタイミングでやる事が増えるのは、なるべくなら避けたかった。


「ええ。独立国家スリーダンから来たので、この街ははじめてです。私はルカ マリアーノと言います。」


「あはは。ルカ君。冗談が上手じゃのお。アイスガードのモンスターを倒さない限り、この街には外の世界から入って来れないじゃろうが。儂の名はマリムじゃ。よろしくのお。」


「嘘は嫌いなので、冗談では無いですよ。」


「あははは。ルカ君。笑い話はもう良いぞ。どうじゃ?お礼に何かご馳走でもしてやるが?」


 当然、ルカの話を信じる方がおかしい。少年が外からやって来る事がとても困難である事は、この街の誰もが知る事実なのだから。そして、ルカはとても急いでいるのでマリムの提案を断った。


「今、食堂に向かっているので、お気持ちだけありがたく頂いておきます。」


「それなら、せめて、うちでお茶でも飲んで行くがいい。」


 だが、マリムの難易度の下がった別の提案に、断りにくい性格のルカはここで折れる事にする。もう決まった事のように話されると、ルカはたいてい断れない。


「……それでしたら、少しだけお邪魔します。」


 


 


 マリムの研究所は、広場を通り抜ける形で、大通りとは反対側のビルの中にあった。 研究所の中に入ると助手のセガールがデスクでくつろいでいる。だが、マリムに気付くと血相を変えて、入口まで走って来る。


「所長! いったい、どこで油を売っていたのですか? このままだと、職員全員がアイスガード送りなんですよ。」


「仕方ないじゃろう。儂らは科学者なのじゃ。もう、銃しか残されていないが、はたして領主の手に渡して良いものか。ここらが潮時かもしれぬ。……そんな話はどうでもよい。セガール、一番いい茶葉で客人にお茶を出してくれ。」


 セガールは、マリムの存在に気を取られ、後からついて来るルカに気付いていなかった。慌てた様子でルカの方を見ると、にこやかに笑い会釈をする。セガールは研究所の問題を第三者に聞かれた事を恥じているようだった。笑顔の奥に少しだけ恥ずかしさがある。


「はい。かしこまりました。」


 セガールが給湯室に入ると、セガールに聞こえないよう小声でルカがマリムに質問をする。


「何かお困りごとがあるんですか?」


「ルカ君は気にせんで良い事じゃよ。ところで、ルカ君は何区に住んでいるんだ?」


 嘘はつきたくないルカは、この質問には困ってしまう。


「うーん。困ったな。マリムさん、全然信じてくれないからなー。あ! そうだ。この街の大人は、全員が手練れの様な強さじゃないですか? それは何故なぜなんです?」


 この質問に、マリムは肩を落とす。若者の無知にがっかりしているのだ。


「馬鹿な事を聞くな。それは儂らがハイヒューマンだからじゃろ。アイスガードが、ああなる前から暮らしている者なら若い内に一度は世界を旅したものさ。レベルさえ高ければ、本来は子供だって相当のもんじゃぞ。」


「ハイヒューマン?」


「ルカ君・・・本気で言っているのか? 太古の時代。天使や龍達の戦いから母なる大地に逃げ延びた人間。古代種。最初の人族。いろいろ言い方はあるが、ハイヒューマンは現在、世界にいる人間達よりも上位の存在じゃ。ここに暮らす者なら誰でも知っていると思ったが、おぬし、教わってこなかったんじゃな。」


 ここで、セガールがお茶を持って給湯室から出て来た。ルカの前まで来るとお茶をテーブルの上に置こうとする。


「お茶を用意しま……ぐっ。」


 しかし、セガールは持ってきたお茶をぶちまけ、液体はルカの顔面にクリーンヒットした。


「ぬぅばぁ~。あーあっちちちぃ~!」



 顔を押さえ苦しんでいるルカをよそに、セガールはそのまま床に倒れ込んでしまう。それを見たマリムは両手を広げ、ため息をついた。ルカは突然の事に驚き、手で顔のお湯を拭うと、急いでセガールの心臓の音を確認する。


「……また発作か。やっかいな異能じゃのう。」


「どうしたんですか? 大丈夫ですか? マリムさん。落ち着いている場合じゃないん……。」


「これがこやつの異能なんじゃ。だから大丈夫。見ておれ。」




 セガールは、徐に立ち上がり、ゆっくりと姿勢を正している。瞳は白目が不気味に見開いていた。




 ――七人の天使達がこの世界に現れたよ……数字の人間には気をつけてね。……あるいはそれは……天使かも知れないのだから。――




 その言葉に、マリムは顔面蒼白で怯えている。



「……天使じゃと……こんな……重要な【接続リンク】、15年ぶりじゃぞ。」


「どういう事ですか?」


「セガールの異能【接続リンク】は、時折、何かとつながるんじゃ。しかし、その情報は正確で、確認が取れるものは、今まで一度も外した事がない。」


「なら、天使と言うのは、先程の話に出て来た?」


「ああ。太古の戦争の主役達。天使は、儂らハイヒューマンより更に遙かな高みにいる存在。本来であれば神の使い。じゃが過去に一度滅ぼされる寸前じゃった人間にとっては脅威と成り得るもの。」


 意気消沈しているマリムと、この異能を知らず、事の重大さにも気付いていないルカ。


「マリムさん。大袈裟ですよ。因みに15年前の重要な事って、何だったんですか?」


「あの頃は、大きな情報が多かった。一つは人外の者が世界を支配したという事じゃ。もう一つは神に選ばれた勇者の誕生。勇者の判別方法は嘘が嫌いだという話だ。どちらも、アイスガードが魔物で溢れた事で確認は出来ないがな。」


「15年前。嘘が嫌い。勇者。……ははは。それは正解かもしれませんよ。僕が、その15年前に産まれた、嘘が嫌いな勇者なんですから。それならば、世界皇帝は人ではない。太古の昔に戦争を引き起こしたという天使達が世界に現れた。この【接続リンク】を、偶然、俺が聞いたのも、もしかすると運命なのかも知れませんね。」


 ルカは自分が勇者である事を知っている。そして、嘘はつけないし嫌いだ。だからこそ、それが15年前からの情報だとしたら、ルカにとってもその信憑性は一気に跳ね上がる。そして、それを告白した事で今度はマリムが、ルカの存在を悟っていた。


「……ならば、ルカ君が、外の世界からやって来たというのも本当の話なのか?」


「言ったじゃないですか。俺は嘘が嫌いなんです。」


「……なんと。では、この街には何の為にやって来たのだ?」


「チェンジリング。かつて、世界中に大量発生した、妖精の取り替え子。俺はその謎を追っているんです。」


「妖精か。それならば一足遅かったようだな。」


「やはり、そうですよね。」


 ルカは、ここまで来た段階で、この街にはもう妖精がいないであろう事を分かっていた。情報だけでなく実際に自分の目でも確認している。だが、この街は妖精に関する情報を世界で一番集めやすいだろうと、まだ諦めてはいない。マリムはルカの瞳を直視すると、何かを考えてから部屋を出て行った。


 再び戻ってくると、何かをルカに向かって突き出す。


「ルカ君。君が本当にその勇者だというのならこれをやろう。」


「これは、なんですか?」


「同じくその【接続リンク】の情報で得たミトラの羽ペンじゃ。あらゆる契約を上書き出来るという、神がお作りになった貴重なアイテム。その勇者の持ち物の一つとされている。」


 マリムは、これまでの行動で、ルカを勇者であると認めていた。困っている人がいたら助ける優しさ。嘘のつけない正直さ。強引な誘いを断れない人の好さ。何よりもアイスガードを一人で通過する強さ。だからこそ、それを託そうと決心したのだ。


「マリムさん。……ですが、そんな貴重な物を受け取れません。」


 だが、ルカの方がそれを拒絶きょぜつした。


「は? ルカ君。話を聞いていたのか? これは勇者が…。」


 ルカの対応には、ちゃんと理由があった。マリムの気持ちに勇者として応えたかったのだ。


「それならば、最初にマリムさん達が話していた問題。それを俺に話してはくれませんか? 俺がそれを解決出来たなら、その時にミトラの羽ペンを頂きます。」


 マリムはまたもルカの勇者としての心に触れた。もしくは、勇者でなくともルカの事を気に入っていたのかもしれない。 だが、その問題は強さでは解決できないのだ。


「なるほど。そういうつもりじゃったか。さすが、勇者というだけあって、困っている者を見捨てる事が出来ない性分なんじゃな。だが、これはいくら勇者でも解決できる問題では無いのじゃ。」


「教えて下さい。」


「税を収めろと言われておる。じゃが、前領主からの支援金が底をつきて払えんのじゃ。」


「おいくらですか?」


「職員5人の一ヶ月分。およそ十万リブラじゃ。」


「どうぞ。霊金貨3枚と白金貨6枚です。それで約3年分になりますね。」


「そうか。すまんのお。……ん……なっ。なにぃ~~?」


 異世界コスモスでは、強さ=お金になる職業がある。その極端なものは冒険者だ。だからこそ、勇者が解決出来ない問題はコスモスにはあまりない。


「これでも勇者です。冒険者のランクは最高等級である1級。高額な依頼をたくさんこなして来ました。それに、おそらく、テスモポロスの貨幣価値は、世界の標準よりも高いんじゃないでしょうか?先程も門番に金貨を1枚渡したら凄く驚かれました。」


「コスモポロスは一日に稼ぐ額の平均が千リブラと言われておる。」


「世界の平均だと8千リブラくらいです。ですが、私は世界にも一握りの1級冒険者なので、気にしないで受け取ってください。たぶん、このアイテムの価値はその何倍も高いでしょう。持ち合わせがたくさんあったら、もっと支払っていましたよ。」


「ルカ君。本当にありがとう。やはり本当に勇者なんじゃな。」


「いえいえ。また、ここに来れたらもっとお礼をさせて下さい。」


「いや。これで十分じゃよ。本当にありがとう。」


 

 マリムがルカの優しさに胸を熱くしていた頃、助手のセガールが目を覚ました。

 


「……ん。……またか。お客様の前でお見苦しい所をお見せしました。で、所長、今回はどんな内容だったのですか?」


 だが、マリムは、話の内容ではなくセガールに何かを手渡す。


「ほれ、とりあえず、一ヶ月分の支払いを済ませて来い。」


「は? …………はぁっ―――!!!?」



 ルカとマリムは、しばらく談笑し、ルカはマリムの研究所を後にした。

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