ハッピーエンド②
――その時、ロイスの索敵能力が、強力な魔族を感知した。
「っ! もの凄い勢いで強い魔族が一匹近づいて来ているぞ」
「ぎぃ――! ぎぃ――――――!!」
黒いフードを被った巨大な魔族。ロイスが天眼で鑑定をすると、魔族は防御力と魔法防御力が
「この敵のスキル、仲間を呼んでいるぞ。それにこいつは防御力が尋常じゃない。特に魔法防御力はステータスだけで俺の魔法無効と同等かもしれん。どうするロベリア?この状態で30分も戦ってたら、外で戦っているモンスター達がこちらに押し寄せる事になるぞ。」
ロベリアは、少しだけ考えると、この場を切り抜ける提案をした。
「そうだね兄さん。アルカンとイゾルブのコンビに対処させて、俺達は先に進もう。切り札であるアルカンの異能はもう
ロイスはアルカンとイゾルブの顔を交互に見る。
「アルカン。イゾルブ。頼めるか?」
「おおよ。」「わかったぞい。」
二人はすぐに承諾し、イゾルブが異能で武器を生成しアルカンに渡すと、アルカンは敵に斬りかかった。
「よし。そいつを倒せたらすぐに合流してくれ。このクラスが幹部なら、大魔王は想定していたより、もっと危険なのかも知れない。頼んだぞ。」
ロイス達は走りながら、アルカン達の健闘を祈る。
「おう。任せとけ。すぐに後を追う。」「儂らは、いつもの最強コンビだからの。」
アルカンとイゾルブを置いて、ロイス達は、大魔王の場所へと急いだ。大魔王城に潜入して約20分が経過している。玉座の間へと続く一本道。これまで、大魔王城で
索敵では、残る敵は大魔王一人だけしかいない。
そして、走る事5分。ロイス達は大魔王のいる玉座の間へと、辿り着いた。ロイスは扉を開くと、玉座に座る大魔王に向かい交渉を試みる。
「貴様が大魔王か? 知能を持つ魔族やモンスターの頂点なんだろ。一応訊いておくけど、人類から手を引いてはくれないかな?」
「ぐぎぎぎぎっ。」
大魔王は、玉座から部屋の中央に向かって飛び上がった。全身緑色で黒の鎧を
「おかしい。話が通じていないぞ。大魔王は知能を持っているから、厄介な敵だったはず。こいつは本物なのか? ロベリア。どうする?」
「兄さんの鑑定は、その系統で最上位のものだ。それだけは絶対的に信用できる。噂の方が偽の情報だと思った方が良いって事だよ。話が通じないなら倒すだけだ。」
「……そうだな。こいつのステータスはさっきの幹部程偏ってはいない。そうとう硬いが物理でも魔法でも、なんとかすれば倒せるレベル。」
「で、どうやって倒すの?」
「大魔王の異能は防御不可の強力な全体魔法攻撃。そして、こいつは魔力だけが先程の幹部の魔法防御力よりも、もっと異常な数値だ。これがこいつが大魔王である
「てことは、兄さんはあいつの天敵ってやつだね。」
「ああ。それが魔法であれば俺には絶対に効かない。魔力特化の大魔王にとっては最悪の相性だろうな。ただし、全体魔法を無効化させるには、俺自身がやつに直接触れる必要がある。キュベック、今から戦いの間は常に歌い続けてくれ。俺が大魔王の認識の外にいれば、それが可能になる。」
「了解。【迷い歌】」
部下の異能で大魔王の認識の外に隠れたロイスは、一直線に駆け出し、その後ろ側に回り込むと、腰に手を触れる。
「攻撃を無効化出来るのはきっかり五分だ。それまでに、全員でこいつを倒してくれ。魔法攻撃なら俺への配慮はまったくいらないから全力でやってくれ。物理攻撃も上部を狙えば、俺には届かない。」
「「「はいっ!!」」」
およそ五分が経過し、大魔王は瀕死の状態になる。
だが、大魔王討伐の直前で、仲間達の全ての攻撃が止まっていた。ロイスは焦る。このまま、一旦退くか。しかし、【堅忍不抜】の連続使用により、残り時間は数秒。この状態ではいくら能力を停止しても、再度発動する為に30秒間のクールタイムが必要になる。
「おい。どうしたんだ?早くしろ。なぜ攻撃しない?あと3秒しかないぞ。」
「兄さん。もう五分経過したよね。うーん。これ美味しいよ。見えるかなー?」
仲間達の全員が攻撃を止め、こちらを凝視している。
ただ、その中心で食事をする化け物がいる。頭部だけが巨大化した、体は人間の化け物。
そして、アネモネの頭部が、それを呑み込む前に、まだ口の中から飛び出していた。アネモネは既に絶命している。突然の事に
「アネモネ!! ……やめろっ!! やめてくれ!! お前等、その化け物を止めろ!」
【堅忍不抜】の効果は、すでに消失していた。あまりの出来事に腰が砕け、その場に崩れる。これまで異能によって守られていたロイスの精神は、今は剥きだしになっている。愛する人が目の前で化け物に食われ、涙を流しながら死んでいった。否、ロイスが見た時には既に死んでいたのだ。引き裂かれたアネモネの衣服だけが、周囲に散らばっている。つまり、アネモネが服を脱がされている間は、その恐怖を感じるだけの時間が残されていた。ロイスは、戦いの中で、ちゃんとアネモネを確認していれば、その異変に気付けたのかもしれない。完全に油断していた。索敵に新たな敵の反応は無い。鑑定しなくてもわかる。アネモネを食べた化け物は、一番信頼する部下。弟のように可愛がって来た。
裏切り者はロベリアだったのだ。
「はーい。ごちそう様でした。酷いなー。化け物ってなんだよ。弟の顔もわからないなんて。俺だよ。ロベリアだよ。お前等、ロイスを弱らせろ。」
「「「ははっ。大魔王様。」」」
「……ロベリアが大魔王だと?なぜだ? どうして、裏切る。なぜ、こうなった。」
絶望の涙を流しているロイスに対し、部下達の攻撃が一撃ずつ襲い掛かる。
「ぐはっ。ちっくしょう。アネモネー!!」
それを見た部下達は、全員が嬉しそうに目を細め、口元はにやけていた。全員にとってこれこそが至福の時だったのだ。ロベリアがロイスの目の前に出て、頭を掴む。
「【偽装】の効果で俺の異能は【
「教えてくれ。なぜだ?ロベリア。俺はお前を本当の弟のように可愛がっていただろう?マリード。カラス。モウコ。キュベック。お前等はどうして?……ジョーカーは俺を殺すのが目的だったが。」
「それはみんなが兄さんの事を嫌いだったからさ。なあ。みんな? こいつの上から目線、大嫌いだったよな? 自分はさほど強くないくせに、命令だけしてさ。おいしい所は全部こいつの手柄だもんな?」
「ふざけるな。それはお前が、司令塔としての立場を貫けと……。それに報酬も均等に分配していたし、全ての部下は自分からついて来たじゃないか。」
ロベリアは腰に差した剣を抜き、ロイスの脇腹にゆっくりと刺しこんでいく。
「ぐぎゃー。」
「まだわからないの? 全然違う。こいつらは、もともとから俺の部下だ。そして、いろいろなイベントで偶然出逢わせた。全部が俺の筋書き通りなのさ。この異能を持つアルカン以外はね。」
「……ぐっ。……アネモネ。俺も……今……そっちに行くからね。」
ロイスは目を閉じ何もかもを諦めた。そもそも、一番大切な愛するアネモネが死んだ時、足掻けるような精神状態ではなくなっていた。絶望の淵でした最後の答え合わせは、アルカン以外、全てが裏切り者だったという事実。それでも、ロベリアに託していた実の妹だけが心残りだった。だが、ロベリアにそれを聞く気力もない。むしろ、ロベリアの逆鱗に触れ妹に迷惑を掛ける事だけはしたくなかった。
「では、諦めたみたいだし、時間も無いから食べる事にしよう。メインディッシュの異能をね。」
「もぐもぐもぐ。……うげっ。味はいまいちだな。」
こうして彼の物語はバッドエンドに終わった。しかし、ロイスから見たこの物語のバッドエンドは、必ずしも他の人にとって悪い物であるとは限らない。事実、この後、大魔王討伐は成功したものとされ世界にはひと時の平和が訪れたのだ。人々は大魔王討伐の最大の功労者であるロイス ティウォールを初代世界皇帝とし、その名は永遠に語り継がれる事となる。
***
「…うぅ。」
「ロイスさん、お目覚めですか?」
「どこだ。ここは? 俺は死んだはずじゃ。……そうか、ここが天国か。」
目を開けると、金髪で羽の生えた、この世のものとは思えない程の美しい女性が目の前で笑っている姿が見える。
「ふふふ。近いですね。ここは天界にある私の部屋です。」
「ふん。どちらでも良い。」
ロイスは、反対方向を向き座り込むと、今度はそちら側で豪華な椅子に座る同じ女性の姿が見える。女性は一瞬で移動していた。
「なげやりですね。それでは、これはどうですか? ロイスさん、あなたは転生する事が出来ます。」
「嫌だ。俺はアネモネと同じ天国へ行く。もう疲れた。転生などごめんだ。」
ロイスは、そんな不思議を何一つ指摘する事なく部屋に寝転がり目を閉じた。しかし、次の瞬間、ロイスの体は、女性の目の前で直立不動で無意識に立っている。体が勝手に移動した事は感じているので、たまらず目を開けた。
「ですが、それは無理ですね。アネモネさんは、とても大きな罪を犯しました。地獄行きが確定しています。」
「それなら、俺も地獄へ行くまでだ。」
「残念ですがそれは選べません。あなたは天国行きです。」
「ふざけるなっ。お前は何者なんだ?」
「私は女神デーメーテール。あなたを転生させる為に、こちらにお呼びしました。そして、アネモネさんが助かる方法が一つだけあります。もう一度、同じ世界に転生し諸悪の根源をあなたが打ち倒す事で、アネモネさんの罪が消えます。あなたがもう一度死ぬまではアネモネさんの地獄行きも保留にしておきましょう。それを討伐すれば、いつか天国で再開する事も叶うでしょう。次に死んだ時、あなたが地獄行きでもない限りはね。」
ロイスは神と名乗った女性に怒りが込み上げる。それはコスモス世界の女神デーメテールはとても無情な神だという事に対してだ。――女神は
「コスモスの主神デーメーテール。……それで諸悪の根源とは何だ?」
「あなたも知っているでしょう。大魔王ロベリアの事です。」
――傑作だった。デーメテールの言葉で、心の底から笑いが込み上げてくる。これ自体が神の慈悲なのだと理解した。そして、怒りや悲しみの全てを、憎き宿敵にぶつける事が出来るのだ。どうやって叩きのめすか、それを考えただけで、嬉しくて震えが止まらない。――
「……ぷっ。ぷはははは。……なんと。ぎゃはははは。……やる! 俺は転生する! アイツを殺せば良いんだよな? そんな事はもし生き返れるなら誰に指図されなくともやる事だ。」
「では、契約成立ですね。あなたの魂には、先天的異能と後天的に譲り受けた異能の2つがありました。それをそのままに、新たに異能を授けます。どういう類の能力が必要ですか?」
「譲り受けた? よくわからんが、そういえば【堅忍不抜】が使えるようになったのは、途中からだったな。まったく、その理由がわからなかったのだが。……デーメーテール。くれると言うなら、二度と仲間に裏切られない能力にしてくれ。あの時に感じた、悲しみ、怒り、憎しみ、絶望が心に引っ掛かって消えないんだ。」
「【堅忍不抜】は、一度受けてしまった精神的苦痛を無効には出来ません。ですが、それで良いのですか? もっと、戦闘に役立つものにした方が良いんじゃないですか?」
「いや。戦闘なら鍛えれば良いだけ。それよりも、嘘を見抜けない方が致命的な事だと気が付いた。」
「嘘を見抜く能力ですか。それならば、今、その異能に相応しい女神ハルモニアを呼びました。能力は決まったとして、あなたが、これからするのは輪廻転生に近いものです。一度、人間の子供として生まれ変わります。肉親以外で生前の因果関係が強いものの子として誕生するでしょう。ただし、記憶を全て取り戻せるのが、いつになるのかはわかりません。ですが一つだけ、心に命令というか意志を持たせる事が出来ます。それをどんなものにしますか?」
「ひたすら、強くなる為に努力をしろ。こんなのはどうだ?」
「大丈夫です。これで全ての説明を終わりにします。どうか、大魔王を打ち倒して下さい。」
「ああ。任せてくれ。」
話が終わると、ちょうどよく部屋に少女がやってくる。デーメーテールと同様に、幻想的な美女で背には羽がついている。
「デーメーテール様。御用とはなんでしょうか?」
「女神ハルモニア。 この者の魂に、嘘を見抜く異能を刻んで下さい。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます