世界最強の大将軍は引きこもりでコミュ障の王子に転生して、嘘を見抜く。『カトブレパスの邪眼』私怨で復讐するダークファンタジー。
燦田黒主
ハッピーエンド①
グランベルク帝国 王宮
ここには、帝国にとって、第一級の国賓であると認められた者のみが宿泊できる豪華な客室がある。至る所に金が散りばめられ、国宝級である芸術作品の数々が、優雅な雰囲気を極上の空間に演出している。
その客室に、それに相応しくないみすぼらしい姿の冒険者の男が、ベットに座りその肩を落としていた。暗い雰囲気から痩せた体がより一層貧弱に見える。
一方で、この世界では珍しい黒い長髪の中性的な男性が、何やら考え事をしているように首を傾げている。だが、その風格や仕草は、ベットに座っている男とは真逆で、さながら貴族であるかのように上品で堂々としている。
客室の豪華な扉は、ノックの後でゆっくりと開き、そこから帝国の
「ロイス ティオール様。世界の王達が集まっております。数分後には世界会議の準備が完了します。進行はお伝えした通りです。どうか、何卒、いい返事をお聞かせください。」
「宰相。兄さんは最善の方法を思案しております。良い返事を期待して待っていて下さい。」
宰相は深々とお辞儀をして、ゆっくりとその場を後にした。宰相が退室し、時間も迫った事で、ロイスは弟に自分の本当の気持ちを吐露する事にした。
「なあ。ロベリア。断らないか? 英雄だなんだと祭り上げられてはいるが、俺には特に秀でた力がない。全部仲間達の力だ。」
今回の件に関してロイスはとても前向きにはなれない。リスクが大きすぎるのだ。自分の力の無さをロベリアに白状し、現状を止めて欲しかった。だが、ロベリアは、ロイスの真意に気付かずに、ロイスの素晴らしさを主張する事になる。
「何を言ってるんだよ。その仲間達が全力以上の力を振るえるのは、いつだって兄さんがあってこそじゃないか。」
ロイスにもその言葉の意味がわからなくもない。だが、仲間が増え、今のスタイルで行動するようになってから全てが変わった。自分の存在が本当に必要なのか、自問自答する日々が続いているのも事実だった。そして、ロイスが何よりも心配なのはその部分ではない。
「けど、これ以上英雄に祭り上げられて、アネモネやレクシーが危険にさらされるんじゃないかって怖いんだ。相手はあの大魔王なんだぞ?」
これがロイスの本音だった。愛するアネモネと妹のレクシーを危険に晒す事だけは絶対にしたくない。いつだって、ロイスの行動原理は2人とレクシーの婚約者であるロベリアの為にある。
「弱気にならないで。レクシーやアネモネさん、それに兄さんの事だって何かあったらこの僕が必ず守り通してみせる。レクシーの事はもちろん愛しているけど、これまでよくしてくれた兄さんの事が俺は大好きなんだよ。」
ロベリアの言葉にロイスは余計に心配になる。
「そんな危険な場所に二人を連れていけない。」
ロベリアは言葉を間違えた事に反省しながら、すぐに代案を用意する。
「だったら、この大戦。アネモネさんやレクシーは、リトルエデンの安全な場所に匿ってもらうよ。あそこなら絶対に安全だ。」
ここでようやく、ロイスはそれを考え始める。たしかに、リトルエデンの屈強な戦士達に守られていれば、世界で一番安全なのかもしれない。
「…少し考えさせてくれ。」
ロベリアは、頭を抱えて考えるロイスの事を優しく抱きしめる。
「兄さんなら出来る。いや、兄さんにしか出来ない。どんな判断をしたとしても、俺はどこまでも兄さんをサポートするよ。でもこれだけは覚えておいて。今、世界は兄さんだけを待っているんだよ。」
その一言がロイスの考えを後押しした。一番安全な場所に2人を預けて、ロベリアにサポートをして貰いながら、世界の問題を解決する。二人の安全が分かれば、それが、最適解である事を冷静に考えられた。何よりも世界が滅亡した場合、二人は安全ではなくなってしまうのだ。
「ロベリア。お前は本当に出来過ぎた弟だよ。わかった。会議に行こう。俺はロベリアお前達の為だけに世界を救う。」
***
ここは異世界コスモス
この世界の魔物達は、ある日を境に強大な力を持つようになる。
大魔王の出現により、魔族や魔物達の系譜の頂点が大魔王に書き換えられ、各種族がとてつもない進化を果たしたのだ。そして大魔王は、凶悪な魔物達を率いる軍隊を作りだし世界征服を開始した。
魔族や魔物からなる大魔王軍は、ただでさえステータスや魔力など、個としての力が強大すぎる。普通の冒険者では魔物1体をパーティーを組んで討伐するのがやっとの事。しかし、それが今は軍隊として機能しているのだ。とても、国家の一般兵力で太刀打ち出来るものではない。最低でも戦闘用のスキルや魔法が異能の力で強化されていなければ、戦力にはならないだろう。
魔族が率いる大魔王軍の小隊ひとつで、世界にある一国家は滅亡する事が必須となる。現在の大魔王領があった国も
ただし、世界の人族には、これに対抗出来る者達がいた。
それが星付き冒険者のパーティーだ。
最高ランクの1級を持つ冒険者の中で、更に数々の偉業を成し遂げた選ばれた存在。
冒険者のランクには、一番等級の高い1級から初心者である6級までがある。1級の中でも更に特別に選ばれた者は星が進呈される。それが星付き冒険者だ。
星はギルドが発行した勲章であり、冒険者個人の力が一国家の兵力より勝っていると判断された場合のみ、歴史的な偉業を成し遂げた数だけ与えられる。
そして、星は、一つ星から始まり、三つ星までで、それ以上はカウントされない。現在、国家が星付きの冒険者を保有するのは僅か2つの小国のみ。強力な戦士の多い亜人の大陸は別としても、世界中の国々が、大魔王軍の脅威にさらされていた。
大魔王軍の本拠地があるのは中央大陸の大魔王領。その隣に位置するグランベルク帝国。
コスモス世界にある7つの国は、世界最大の国家であるグランベルク帝国に魔法やスキルを使える精鋭達だけを集め、それを世界連合軍とした。
以下が、これに参加した7つの国である。中央大陸からは、グランベルク帝国を筆頭に、ウインストン国、ララベル国。東大陸からガーデンブルク国。マーテライト国。西大陸からはトワイライト国。シグナル国。
また、国家無所属である亜人の地、南大陸の巨大都市リトルエデンから、ドワーフ、獣人、エルフなどの亜人の精鋭部隊も、傭兵としてこれに協力している。
この世界各国を繋げた冒険者こそ、世界連合軍の大将軍に任命された者。世界で唯一の三つ星1級冒険者。
ロイス ティウォール其の人である。
彼はそれまでの数年間、世界各国を放浪し行く先々でその問題を解決してきた。言わば各国それぞれの救世主であり、彼こそが世界の英雄でもあった。だからこそ、今回の世界的な危機を彼に託すために、世界は一つにまとまったのだ。
ロイスは今回の大戦で大魔王を討伐した暁に、その報酬として、世界の皇帝として世界を統治する事を世界中の王達に約束された。彼等は世界の滅亡を座して待つよりも、一縷の望みに世界の全てを託す事を選んだ。
――大魔王軍
大将軍のロイスは、大魔王城を取り囲む総勢5万の大魔王軍を前に、連合軍を向き、高らかに剣を掲げる。
「世界の命運は、我ら連合軍に委ねられた! 我々が負ける事は人類の滅亡と直結する。家族や恋人、友人達。それぞれが守りたい者の為に死ぬ気で戦え。絶対に勝つぞ! 俺がお前等を必ず勝利に導く! いくぞっー!!」
連合軍に喊声があがる。
「「「うお~~~!」」」
連合軍は一斉に駆け出した。急ごしらえの烏合の衆は、周りと歩調を合わせる事などはしない。ただし、それぞれが1日で覚えた陣形を必死で守っているので、それなりの形にはなっている。
魚鱗の陣形。連合軍は中心が前方に張り出し両翼が後退した陣で、モンスターの大軍隊に攻め込んでいた。その一番先頭の部隊には、大将軍自らとそのパーティーの姿がある。最も攻撃の激しい先頭の部隊は、一直線に突き進みモンスター軍を中心から引き裂いていく。
モンスター軍の中央は左右に分断されていく。魚鱗の陣形は、みるみるうちに縦一直線の長蛇の陣形に変わった。連合軍の精鋭達はここで真っ二つに分かれたモンスター軍の左右と乱戦に持ち込んだ。
これが今回の大戦争の作戦だ。後は陣から離れ大魔王城に乗り込んだ先頭のパーティー。ロイス ティオールとその仲間達が、大魔王を討伐するまで、乱戦を続ければ良いだけ。大魔王の討伐。それでモンスターの軍隊は一気に弱体化するというのが、連合軍大参謀ロベリアの作戦だ。それまで持ちこたえれば勝利は確定なのである。
こうして、ロイスと専属の奴隷、そして8人の部下達は、10人体制で大魔王城へと潜入する。
――大魔王城内
連戦は早くも終盤に差し掛かる。世界で唯一の三ツ星冒険者のパーティー。彼等は圧倒的な強さで城内の敵を一掃していた。現在、ロイスの索敵能力に引っ掛かるものは、殆ど残っていない。
ロイスは、自分の隣でペースを合わせているアネモネが、先に進むにつれ表情を険しくしている事を心配する。
「アネモネ。苦しいか?それとも大魔王が怖いか?」
「ご主人様、私は病弱です。だからこそ常に死を覚悟をしている為、死ぬ事自体は怖くないです。……ですが、その後のご主人様の事が心配です。万が一、この戦いで私の命が潰えようと、ご主人様だけは、命ある限り、精一杯楽しんで生きて下さい。悲しむ必要など
「
ロイスはいつもの強がりを言う。ロイスが弱音や本音を口にするのは、ロベリアと一緒の時だけ。それ以外はいつも気丈に振る舞っている。愛する者を心配しすぎる態度、周りに心情を気取られれば、愛する者を余計に危険にする。それが、ロベリアの忠告だった。
「そうでございますね。この戦い。ご主人様が私より先に死ぬ事はございません。今回、私の異能は何と言われようとご主人様だけの為に取って置きます。そのような事態があれば、回復後すぐにお逃げください。私が絶対にお守り致します。」
「――やはり何度頼まれようと、ここにアネモネを連れて来るべきではなかったな。何かあったら完全に捨て石になるつもりではないか。危険な事があったら絶対に逃げるという事前の約束を忘れたのか?」
「申し訳ありません。ですが、こればかりはいかなる命令があろうと変えられません。」
「ならば、絶対に勝つ。俺もアネモネも死なない。ここは物語の終着点。そしてこれはハッピーエンドなんだ。無事に終わったら大切な話がある。聞いてくれるか?」
「えっと…その…。」
ロイス ティウォール
世界で唯一の三つ星冒険者 世界各国の救世主 世界の英雄 世界連合大将軍
1人につき1つの異能を持つコスモス世界で、ただ1人、2つの異能を持つ希少な冒険者。 ただし、その異能の力には、自身の攻撃威力を強化するものは
◎異能【天眼】
自分や他人を詳細に鑑定出来る。周囲の罠や敵を詳細に感知し索敵が出来る。
◎異能【堅忍不抜】
発動するとあらゆる魔法が効かない。5分間連続で使用すると一時的に30秒間だけ【堅忍不抜】の効果が切れる。パッシブで精神的苦痛を
アネモネ
ロイス ティウォールの奴隷であり幼馴染の一人。ロイスの最愛の女性であるが、その愛を拒み続けている。
◎異能【蘇生】
日に一度だけ、死んだ者を生き返らせる。ただし、死後24時間以内で無いと効果が無い。
「兄さん。二人だけの世界を
第一の部下 ロベリア
世界連合軍大参謀。ロイスの妹であるレクシーの婚約者で、常に旅を共にしてきた最も信頼できる仲間。
◎異能 【
常に一つだけ、他人の異能をコピー使用出来る。
「ロイス。ここにいるのは、お前達だけでは無いんだぞ。それに何回振られても、めげずに告白するな。見ていて本当に気持ちが悪いんだよ。」
「アルカン。それをお前が言うか!お前も一緒だろうが。」
第二の部下 アルカン シエル
剣聖の称号を持ち、仲間の中で最大火力を誇る。ロイスと共に、アネモネを愛する男で、二人はアネモネの事になるとすぐに対立する。
◎異能【軟化】
対象の硬度を30%下げる。これにより、攻撃が刀に当たれば刀を斬り、敵に直撃すればほぼ確実に斬り殺す。ただし、対象が自分の使う武器よりも30%以上硬度が高かった場合は、効果そのものが発動しない。
「お前達の発展しない三角関係はもう見飽きた。そんな事はどうでも良いから、さっさと索敵しろよ。」
第三の部下 魔人マリード
魔族ではなく精霊に近い希少な亜人。屈強な男性だが、魔法に特化した成長をしている。
◎異能【
自分の性能を66%にした
「……もぐもぐ。……人間とは、まったく愚かな生き物だ。」
第四の部下 烏天狗
大魔王誕生の前から知能を持つモンスター。翼を持ち飛行もできる。
◎異能【
10分間筋肉を5倍まで増強出来る。使用後、1分のリキャストタイムが必要。
「カラス。獣人をあいつ等と一緒にするでないぞよ。獣人はストレートでサッパリした性格が多いから、同じ人に何度も告白するなんて事はありえないのじゃ。」
第五の部下
世界最強と言われた伝説の亜人。虎拳使いの老人だが、見た目はそれ程老人ではなく、筋骨隆々の中年男性。
◎異能【先見眼】
現在と同時に、常に薄く5秒先の未来が視える。ただし、オンオフが可能。
「……。」
第六の部下 ジョーカー
鎌使い。死神のような暗殺者だったが、ロイスに敗れてからは、ロイスと対決する事を趣味にして行動を共にしている。
◎異能【引寄】
鎌を振った場所に任意の敵を
「青春青春。ロイス様とアルカン様とアネモネは本当に仲良しだのう。儂も久しぶりに熟女との恋がしてみたいわ。」
第七の部下 イゾルブ
ドワーフの中年男性で刀鍛冶。
◎異能【神具】
能力発動中は自分を中心にして30メートル以内であれば、世界最強級の武器を無制限に具現化する。自分と自分が許可をした者にしか触れられない。
「イゾルブ。それはそれで、かみさんに殺されるだろ。思いっきり尻に敷かれているやつが、そんな甲斐性があるとは思えん。」
第八の部下 キュベック ジークフリート
龍殺しの英雄として、エルフの里で有名だが、ダークエルフの為に影で恐れられている。 槍と魔法を使い分ける。
◎異能【迷い歌】
歌を歌う事で、相手の精神を刺激して、自分や仲間の攻撃の軌道を誤認させる。戦う相手からすると、まったく別の所から攻撃が来るように見える。
「ふん。お前の場合、少しは恋ぐらいしたらどうだ。アソコにカビが生えてしまうぞ。」
「はい。そこのおじさん。女性がいるから下ネタは禁止だといつも言ってるよね。」
「ロイス様。面目ない。以後気を付けるわい。」
――その時、ロイスの索敵能力が、強力な魔族を感知した。
「っ! もの凄い勢いで強い魔族が一匹近づいて来ているぞ」
「ぎぃ――! ぎぃ――――――!!」
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