第3話無事に
死がよく分からなかったけど、皆と遊びたかっただけなのに。それもできなくて、何をしたらいいか分からないし、どこに行けばいいかも教えてくれなかった。
怖くて寂しくて泣いていたら、お兄ちゃんがきれいなお花をくれたの。だから、遊んで欲しかった。こんな私だったけど、お兄ちゃんたちありがとう。
目を覚ますと朝日が顔を出していて僕は布団に寝ていた。状況がうまく飲み込めず混乱しながら体を起こす。
「音方君、おはよう」
「水樹さん?」
何で水樹さんがいるんだっけ。昨日の記憶を思い出す。文月の家に来て……
「文月は、無事ですか!」
かくれんぼをしていて文月はその後どうなったかを把握していない。
「無事だよ。隣の部屋で寝てる。真白が見ているから心配しなくて大丈夫」
「良かった」
文月が無事で本当に良かった。何かあったらと怖かった。普段は何も視えない文月の方が何倍もの恐怖を感じていただろう。僕の方が慣れているのに何もできなかった。文月をちゃんと守れなかった。
「あの幽霊に悪気は無いんだよ。許してやってくれ」
「はい。夢の中であの女の子の記憶みたいなのを見ました」
きっとあの女の子の記憶だった。最後にありがとうって言ってた。
「そうか。ただ本当に寂しくて怖かったんだろう。そんな思いが強すぎて今回みたいな形になってしまったんだ」
「……はい。悪気が無かったのは分かりました」
しばらく沈黙が続く。水樹さんも女の子のことを考えているのだろう。いつもと変わらないある日、死んでしまったら簡単には受け入れられない。周りも本人でさえも。突然、一人しかいない世界に来てしまったような孤独な感覚にどれだけの恐怖を感じるだろう。そんなことを考えていた。
……コンコン
静かな空間にノックの音が響く。文月だろうか。頭の中で考えていたことから目の前のことに切り替えられない。
「水樹様。お孫さんが起きられました」
入ってきたのは白い着物を着た男の人だった。全体の色素が薄く、消えてしまいそうな儚さがある。男の自分でも見とれてしまうほどの美男子だ。年齢は僕よりは上だろうがそんなには離れていない気がする。
「こっちの子も起きたところ。この前の山で襲われてた音方 雷人君」
「ああ、音方です」
慌てて名乗る。山で襲われてたと付くのが悲しいが事実だ。続けて男性も自己紹介をする。
「真白《ましろ》龍樹《たつき》です。水樹様と仲裁屋で働いています」
「文月君に入っていた子を取り押さえたのが真白だね」
「そうなんですね。本当にありがとうございます」
文月を助けてくれたことの感謝を伝える。真白さんはきれいな声をしていて静かに話す人だ。なんだか、不思議な感じの人だと思う。
「さて、文月君の方も起きたみたいだし隣の部屋に行こうか」
「はい」
そうだ。文月に会いたい。無事だと言っても憑依されてたみたいだし。水樹さんと真白さんとで向かう。隣の部屋の襖を水樹さんが開ける。すると布団の上に文月が座っていた。
「雷人、良かった。何ともないか?」
「文月こそ、僕がいたのに何もできなかった」
文月のところに駆け寄る。良かった。見た感じ、怪我もないし元気そうだ。無事で本当に良かったと思う。
「良かったね。これは住職に報酬を多めに貰わないとな」
水樹さんがニヤニヤとしている。
「いや、僕が水樹さんを呼んだので僕が払います」
住職さんが呼んだわけではないので僕が払うべきだろう。今になっていくらだろうと不安になる。すると文月が割り込んできた。
「ああ、じいちゃんが払うよ。昨日、言っていた何とかしてくれる人が水樹さんなんだ」
「そう。今日、ここに来る予定だったから近くにいたんだ。だから住職からもらうよ」
「そうだったんですか」
予想外のことに驚く。このお寺に来る予定だったのが水樹さんなんて。世界は思っているよりも狭いのかもしれない。
「それに、俺があの子を連れてきてしまったんだと思う」
そう言って説明してくれた。公園の近くの道路で女の子の幽霊が目撃されるようになったそうだ。その供養をここのお寺に依頼した人がいたらしい。なので文月が花を持って手を合わせに行ったのが原因だと説明してくれた。
「住職の孫だからな。助けてくれると勘違いしたのだろう」
そんなことがあったのか。ただ静かに文月の話を聞いていた。四人でそんな話をしていると水樹さんが話を切り出した。
「音方君、少し考えていたのだけどうちで働かないか?」
「え?」
「水樹様、本気ですか?」
「雷人、いいんじゃね」
各々の反応をする。僕が水樹さんのところで働く。少し想像してすぐに否定する。
「いやいや、無理ですよ。僕なんかができる仕事じゃないです」
「そうですよ。俺は反対です」
真白さんも反対してくれている。僕には到底できるような仕事ではない。水樹さんと文月がすすめてくるが必死に抵抗する。
「じゃあ、一回だけ体験してみるのはどうかな?それで無理と判断してのなら私も諦めよう」
「まあ、それなら……」
きっとなにを言っても聞いてくれないだろうと了承することにした。細かい日時を決めてこの日は解散となった。なんだか、すごく疲れた気がする。
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