第28話 試験勉強するアレクサンドル
試験まであと二日。二週間休んでいたヴィヴィアンとアレクサンドルはルルとミックが調達した講義ノートを見ながら、図書館で隣に座って勉強していた。
「誰のノートなんだ、コレは。」
アレクサンドルが小声で呟くとヴィヴィアンが顔を上げる。
「役に立たない。要点がまとまってない。」
「教科書だけで充分よ。」
ヴィヴィアンがパラパラとノートをめくると、[試験に出る]という書き込みを見つける。
「コレ、当てにしすぎると、平均点しか取れないから…」
ヴィヴィアンがノートを鉛筆で指す。
「ヴィヴィは、いつも何点取って首位なの?」
「ほとんど満点。たまにケアレスで数点落とすけど…」
学費が掛かっているから、ヴィヴィアンはいつも本気だ。
「ふうん。」
「イーサンの言ったこと気にしてる?」
「いや。」
「私、三番以内なら大丈夫だから。」
二週間休んでも、余裕なのだろう。卒業まであと一年なのに、ほとんど単位も取り終わっている。要領がよく、学費を気しているヴィヴィアンが、一年飛び級して卒業しなかったのが不思議なぐらいだ。就職のことを条件にして、学長に引き留められたのだろうか。
「そんな器用に操作できないだろ。」
「満点取れば一番よ。」
二人で顔を見合わせる。ヴィヴィアンはアレクサンドルも満点を取れると思っている。買いかぶられているようだが、アレクサンドルは嬉しい気持ちになる。
「二人ともね。ま、ヴィヴィは気にせずに、全力を尽くして。」
アレクサンドルは、ノートをめくる手を止め、指差す。
「これ、何だと思う?」
10s / 1g / MH 6 23 0307-0310
ノートの端に走り書きがある。
「何だろう… MHは、メインホール。学内でよくこう略すわ。6 23は、クロークの奥のロッカーの棚の場所に使われている番号かな?」
「0307-0310は日付?」
「10s / 1gは?」
「gは、ゴールド?金貨?」
「試験の前に出回る薬って、ロッカーでやりとりされてないか?」
「わからないけど… 10 sheat 1金貨?」
「粉の生薬なら10 pack で10pだろ?」
アレクサンドルは、近くにいるルルに目配せする。生薬を金貨でやりとりするのは高すぎる。
「瓶でも,10 piece 10p?」
ヴィヴィアンはまだぶつぶつ言っている。
あの小瓶だと気付いたか。
「今日が期日よ?」
「だから?」
アレクサンドルは眉根を顰める。
「見に行って、金貨を回収に来る人を捕まえたほうが早くない?」
「ミックに誰か連れて行かせる。」
「学長はもう帰ってる時間よ。早くしないと、回収されちゃう。」
「なんで、行きたがる?」
帰り支度を始めるヴィヴィアンの手を掴んで止めるが、手首につけた痣を思い出し、すぐ緩めた。
「実績…」
就職先のことは、暫く忘れて欲しい。
「危ない目にあったの忘れた?」
「アレクから離れないから。」
目を輝かせているが、アレクサンドルだって万能じゃない。多少、武芸の嗜みがないことはないが、人と対峙するとは限らない。また、薬品で攻撃されたら、守るのも難しい。
ルルが場所を移動してくる。
「ミックは、今、離宮に呼び戻されていて、でも、間もなく戻るはずです。このノートは、ミックが他のクラスから入手しました。あちこちで回覧されているノートです。」
「大事なときにいないな。ニールはここにいる?」
「アンナ嬢なら…」
「じゃあ、二人は離宮に帰って。ミックと何とかする。」
「さすがに一人では、駄目です。」
ルルが即答する。
「アンナにニールの居場所聞いて来て。」
「ねえ、今、20時半よ。あと30分で図書館もホールも施錠されるわ。」
「リスクを取ってまで、やることじゃない。」
ヴィヴィアンは全く納得しない。
「きみは安全な場所にいて欲しいんだよ。」
「誰が取りに来るのか見届けるだけよ。」
「ミックが来るまで、ここに居て。俺とルルで行くから。」
「私だけ、高みの見物じゃない…」
高みの見物。ヴィヴィアンの言葉が、引っかかった。
薬がロッカーにあったとして、金貨を回収できない場合に備えて、誰が買いに来たか見張っている監視役がいるはずだ。どこか、出入りのよく見える場所で。
ルルがアンナと共に戻ってきた。
「ニールは、寮にいるはずです。私が呼んできます。その後、ヴィヴィアン嬢を離宮にお送りしますわ。」
アンナには、マイヤーの護衛がついている。アンナと一緒にいるのが、ヴィヴィアンには最善かもしれない。
アンナと共にヴィヴィアンが図書館を出るのを見送り、ルルと共に、アレクサンドルは、ホールに向かった。
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