第6話 実況中継 放課後の婚約破棄方法論 講義


「では、今日は、婚約破棄方法論ですね。特に、今年の事例でご紹介します。」


「ん… あれだな、口調が敬語に戻ってないか?」


「講義に関係ない私語は謹んでくださいね。最重要グループは…」


「第二王子だな。」

「そうです。第二王子イーサン、公爵家長女リリー、男爵家次女ライザ組。こちらは、イーサンとリリーの関係は破綻しています。」


「確度が高いな。しかも、社会へのインパクトも大きい。」


「ここ数年、最高学年に王族と公爵家が絡むカップルはいませんでした。社会へのインパクトとしても、侯爵か伯爵家のスキャンダルで済んでいたのですが、今年は、二組あります。それだけでも、私は胃が痛いです。」

「だろうね。」


「不憫なのは、側女性。アレクは、され側の家の家令が、卒業パーティーの晩から早朝に学院に行列を成すのを御存じですか?」

「いや?なぜ?」


「当学院の新聞部が、号外を出します。どの組み合わせが破綻したか、破綻の理由、側男性の沙汰がどうなったか。」



「つまり、再マッチングできる、良い条件の男性を探すと?」

「その通りです。中には廃嫡しないケースもあるので。さらには、新聞部が独自調査した内容として、王都に出入りの少ない辺境伯や、地方の領政に専念している貴族の独身者を公開しています。それを、各家の家令は、ひったくるように持ち帰る、と。」

「なるほど、切実だ。」



「そこで、王都の貴族との縁組に興味のない地方貴族たちは、自分たちの息子に、醜悪とか、暴虐とか汚名を着せて、家格差による断り難い縁談に巻き込まれるのを防ごうとするわけです。」

「それも、それで、まあ、何というか…」



「また、醜悪、暴虐という汚名にも、良い点があって、され側女性ももうこの縁談の他に道はない、と腹を括るので、実態がそうではない、と気づいて貞淑な妻となり、愛を育める、というケースが多い。」

「雨降って、地固まる、か。」



「しかし、何年もこうした状況が続いているため、婚約適齢期の地方貴族も枯渇しています。今年のように、され側に侯爵令嬢が含まれるとなると、かなり厳しい。」

「なるほど…」


「国外に留学中の王族や、隣国の王族や高位貴族などの隠し玉も、今年に限っては、見込み薄。」


「ヴィヴィは、イーサンの相手のリリーが心配なわけか。」


「そうです。そもそも、イーサンが酷い男なのが問題なんですけど…」


「…」


「すみません… アレクのお兄さん?ですね。」

「…気にするな。俺のせいではないし…」



「… 話を戻すと、この組は、少し気味が悪いのです。イーサンは、何というか… 嗜好がはっきりしていて、過去の女性遍歴を見ても、伯爵家以上、金髪、碧眼、長身でスレンダーな体型は必須条件。リリーは当てはまっているのに、第三の女のライザは黒髪、黒目、背も小さく、メリハリ体型、しかも男爵家。」


「う…ん。好みが変わった?」


「何か、それだけじゃない気がします。リリーの実家の侯爵家、もともと、第二王子一派でもありませんし…」


「政治的な何か?」

「私よりアレクの方が情報ありますよね?」


「… 調べようか?」

「いいですか?」


「勿論。」



「じゃあ、次。先ほどの公爵家のニール、侯爵家のアンナ、聖女エリーゼ。」


「ちょっと待って… もともと、人の顔と名前覚えるの得意じゃないから、覚えやすくしてよ…」


「え? ニルアン組とか?そういう?」

「まあ…」


「最初のは、イーリリー組とか?」

「それじゃ、三番目が覚えられない。」


「男ぐらいは、覚えといてもらって、リリライ、アンエリ、では?」

「まあ、それで手を打つ。」


「…偉そう… 」

「ん?」


 ヴィヴィは立ち上がると、アレクに背を向け、西側の窓の方を向く。


「…対等って言ったくせに… 上から目線過ぎる。」

「…悪かった… 改める。」


「その言い方。」

「…ごめん。」








「許す…」

「その言い方、本当に許してくれてる?」


「その内、怒りが収まるから…もう謝らないで。」

「わかった…」




「じゃあ、続き。アンエリ。ニールとアンナは、仲は悪くないの。だから、ベータ型だと思ってた。」


「両片思いケースか。」


「それが、今年になってからエリーゼがニールに急接近。ニールは、距離を置こうとしてるように見えたけど、まだわからない。」


「あの小瓶、気になるな。」

「香水?薬? ハンカチにくるんで渡すって、人に見られたくないものよね。」



「学院内で、薬物の乱用とか聞いたことは?」


「… 試験前は、眠くなくなる強壮剤と呼ばれる類のものの話は出る。民間療法の生薬かな。私は、いつも寝不足だから、欲しいぐらいだけど、高いし、手が出ない。」


「知ってる。高いな、あれは。でも違法じゃないし、粉末だ。」


「あとは、媚薬と呼ばれるものも。これは違法薬物の可能性がある。私は、友達もいないし、婚約もしていないし、その流通経路には疎いです…」


「その手のは液剤かな… さっきの宿題と合わせて、調べるよ。」


「ありがとう。」



「で、残り10件は?」


「あとは、半分ぐらいがアルファ型、30%がベータ型、残りがガンマ型かと。」


「リストにない組が急浮上する可能性は?」

「去年の破棄惨劇があるから、今年は慎重なところが多そう。破棄返しを狙っている女子学生は何人かいると思うから、卒業パーティーまでに円満に婚約解消するよう手伝うわ。」


「それは、俺も何かする?」

「…ガンマ型は、男が出てくると、拗れるからやめて。」


「はい。」



「ヴィヴィは、巻き込まれ事故とかないの?」

「ないです。ご心配なく。」


「明日は、休みだ。どうする?」

「街の偵察… 昼前には出発しよう。11時の駅馬車でいい?」


「俺の馬車じゃだめ?」

「王室の紋章入りは目立つので、ちょっと…」


「そんなもんは、入ってない!!」







--アレクサンドルの講義メモ--


イーサン、リリー、ライザ(男爵)

アルファ型


ニール、アンナ、エリーゼ(聖女)

アルファ2型



破棄され側女性の再縁組パターン

1) 地方貴族

暴虐、醜悪、冷徹、などの汚名で、望まない縁組を回避する


2) 隠し玉

 2-1 海外留学中の王族

 2-2 他国の王族、または貴族


※ヴィヴィアンは王室紋章馬車NG

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