第29話 保存したメールを読み返す時間×削除

 私が高校生の頃は、ガラケーの時代だった。

 電話するのだってメールするのだってお金がかかるからと、親に叱られて失敗した。今は電話も無料で出来るし、メールじゃなくてSNSやメッセージアプリが主流になってる。ちょっとだけ羨ましいけれど、今の学生は今なりの失敗や悩みがあるのだろう。


 ガラケーからスマホに変わっても、私のメールアドレスや電話番号はそのままだった。学生の頃はみんな頻繁にアドレスを変えていたけれど、私は変更する必要性を感じなかったので、ずっとそのまま。


 嘘、本心だけど建前でもある。ちょっとだけ未練があったから。


 高校生の頃、本気で恋をした。

 二つ上の先輩に憧れて、告白をして、先輩の卒業と同時に交際をスタートした。私は高校、彼は大学進学。お互い一緒にいる時間は少なかったから、メールや電話で頻繁に連絡を取り合っていた。もちろんデートもした。

 交際一年くらいで、付き合った当初の熱量がお互いに冷めていた。

 なにせ私は国立大学進学を見据えた高校三年という大事な時期だったし、彼も大学生活が充実していたのだろう。お互いが誘っても、都合が合わなくなってきた。会話も噛み合わなくなってきた。

 彼からの最後のメールは「また時間が出来たら連絡する」だった。

 私も頭がお花畑だったから、それが受験生である私に対する彼の気遣いだと思っていた。受験に心血注ぎ、無事に合格が決まったことを連絡した。三カ月ぶりにメールを送ったらアドレスが変更されていて返ってきた。電話番号は拒否された。

 彼の家も、大学も知っているのだから直接会えたけれど、ずっと放っておいた負い目もあって、いけなかった。つまるところ、自然消滅だ。


 時間が出来たら連絡する。

 ありもしない連絡を待ち続けて、何度もそのメールを眺めていた。機種が変わるたびにきちんとデータを転送して、何度も何度も、『出来たら』の時につながりが途絶えてないように、そう願ってそのまま。


 馬鹿みたいだなぁと思うけど、理由もなく番号もアドレスも変えたら、なんだか当てつけみたいで、ずっとそのままタイミングを逃し続けていた。

 馬鹿みたいだなぁと思うから、何度も何度も転送して後生大事に持っていたメールをまず削除した。すっきりしたはずなのに、胸はぽっかりとして、なんだか悲しくなった。

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