第26話 縁切り寺×不思議な尼さん

「絶対に出て行かないわ!」


 婚約していた彼女が浮気をしていた。それだけでも心が折れそうなのに、俺が契約してる同棲中の部屋から出て行こうとしないし、別れ話も進まない。

 仕事も繁忙期で休めない。心身共に疲れて業務中も上の空で、上司に叱られ、同僚から心配されている。


 どうにかしなきゃ。

 自宅で眠れるわけがないため、避難所として借りたマンスリーマンションに向かう途中、見つけたのは、寺。

 寺、寺か。もう神頼みでもしたいところだ。寺だから仏様だけど。


「お疲れ様でございます」


「!?」


 突然話しかけてきたのは、黒い袈裟に白い頭巾を被った女、尼さんが俺の背後でたおやかに微笑んでいた。


「悪縁でお悩みでしたら、是非参拝されてくださいませ」


「悪縁、ですか?」


「ええ、どんなに心根が良き人でございましても、問題を運ぶ者は忌まれます。悪縁は良き縁を退けてしまいますので、大変厄介厄介でございます」


 尼さんの言葉遣いには妙な気持ち悪さを覚えるが、確かに、と思うところはある。

 恋人をよく思ってなかった友人と距離を置かれてしまったし、恋人の身勝手に振り回されて俺自身が疲れ果てて職場にも迷惑をかけている。悪いことを引き寄せられている。


「参拝したら、どうにかなるもんなんですか?」


「もちろん何でも願いが叶うわけではございません。けれど、悪縁を断つ、貴方のお力になってくださいます」


「そうですか、なら少しだけ……でも、開いてます? 今、深夜ですけど」


 繁忙期だった。帰宅途中の今、もうすぐ日付が変わるところだった。

 地元の神社は二十四時間開いていたが、寺は開いている時間が決まっていた。防犯を考えれば当然だろう。

 尼さんは笑顔で肯定する。


「ええ、もちろん」


 そういえば、何でこの尼さん俺の後ろにいたんだろ。

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