第24話 君の赤い自転車×売り場の親子

「絶対に赤がいい!!」


「お父さんは青にしたほうがいいと思うけどなぁ」


 ホームセンターで買い物中、そんな微笑ましい会話が聞こえてきた。時期的にランドセルとかではなさそうだけど、何の色で揉めているのだろう。

 陳列棚からさりげなく顔を出して声の方向に視線を向ける。自転車販売の一角だった。

 なるほど、自転車の色か。

 同年代らしきお父さんと、小学生になったばかりの少年が子供用自転車の前にいた。


 わかるぞ、お父さん。

 我々の年代はただの色で男らしさ女らしさが決めつけられるし、子供はその意識で容赦なく差別してくるからな。安定した色を求めたい気持ちもわかる。


 でも少年心からしたら、赤っていうのはヒーローの中のリーダー的存在で、とにかくかっこよくて憧れるものなのだ。

 子供用なので黄色やオレンジの近い原色同士合わせで、まぁ大人から見たら忌避感はあるだろう。でも子供目線では……。


「ちなみにどれがいいの?」


「これ!!」


「「えっ、かっけぇ」」


 塗装されたフレーム以外は銀色の印象が強い自転車だったが、ハンドルやサドルの下の支柱まで真っ黒だった。それが真っ赤なフレームによく合う。反り返った後ろタイヤの泥除けが、とても早く走りそうだ。

 戦隊モノでやたらかっこいいブラック担当と、リーダーのレッドががっちり手を取り合ったようなかっこいいデザインの子供用自転車に、お父さんと同じセリフが思わず口から出てしまった。でも声は聞こえずに済んだらしい。


「いいでしょ、いいでしょ! ねっ!」


「うん、これにしようか。いいなぁ、お父さんもこういうの乗ってみたかったな」


「お父さんも乗っていいよ!」


「お父さんは乗れないよ」


 ええこな少年は断られて少し不満そうだが、お父さんは心の中でめちゃくちゃ喜んでいるよ。

 そのまま成長しておくれ。名前も知らないご家族の多幸を願いながら良い気分で立ち去ったのだった。

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