第19話 うぶ毛に触れる×彼氏に勝てない

「毛の処理をしていない、君の肌に触れてみたい」


 誕生日に何が欲しい? と尋ねて帰ってきた答えに、恋心が冷めなかった私を褒めてほしいレベルの衝撃発言だった。

 プレゼントのリクエストを聞いたのは、私の彼氏が大体の物は買ってしまえるほど金に不自由ない人間だからで、けしてどんな変態行為でも許容するためではない。余裕を持って用意出来るように一カ月前に聞いたのが馬鹿だった。


 なんとか顔の処理だけは断固として断って、首から下を露出しないように気を付ける事一ヶ月。


「六時間も拒否し続けるから、そんなに気になるほどなのかと思ってたけど、全然薄いし、細くて柔らかそうだ」


「普通六時間も拒否する彼女を説き伏せたりしないの!! 楽しそうで何より!!」


 キャミソールとミニスカートだけで手足を晒し出す落ち着かない気持ちと、ただただ楽しそうな恋人に対して怒りと投げやりな喜びの感情で、どうしたらいいのかわからない。

 とりあえず腋と足はぴったり閉じて絶対に動かないし、今年の私の誕生日には全身脱毛のプランを要求すると決めた。絶対にだ。


 怒りと羞恥で全身が熱くて湯気でも出そうな私に対して、彼は柔和な笑みを深める。


「そうだね。きっと楽しいと思ってたから、本当によかった」


「楽しそうだからプレゼントに頼んだんじゃなかったの?」


「きっかけは、彼女のムダ毛処理が甘くてがっかりしたって経験談を読んで、共感出来なかったからかな」


「いや……そりゃするでしょ、がっかりというか、私だって処理残し見つけたら萎えるし」


「まぁ、君自身は見つけても何も楽しくないだろうからね」


 彼の手が私の頭に乗せられて撫でてきた。子供扱いしているのかと思いきや今度は頬を擽るように指の腹が滑る。くすぐったい。


「髪の上から頭を撫でられる感覚と、頬に触れる感覚が違うように」


 するすると指が顎から首筋へ下りて肩から二の腕に手が移動した時、心地よいくすぐったさが急激に変化し、体が跳ねた。


「っ……!」


「こうして、肌に触れないように産毛を撫でる感覚も違う。君の反応も、全部違う。無いと出来ないのにあってがっかりするなんて、もったいないとそう思ったんだよ」


 君もそう思わないかい、と耳元で囁かれて全身が汗ばむ。

 うん、とは言いたくない。ううん、と言えば嘘が含む。黙るしか出来ない。それをわかって、この男は笑うのだ。こういうところが、本当に狡い。

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