第15話 白馬の王子様×ただし女である

 うちの学校には白馬の王子がいる。

 スラリとモデルみたいな長い手足が強調される乗馬ウェアに身を包み、癖のない真っ直ぐな黒の短髪を靡かせて、切れ長の瞳が理知的な美貌の生徒だ。


「おはよう!」


「……はよ。ほんっと、早いな。俺、お前より早く来た奴見た事ないわ」


「夜明け前からお茶飲み始める爺ちゃん婆ちゃんと餌をねだる猫がいるから、その次くらいには早起きな自信あるよ! 家から徒歩一分だしね」


 同じ時間に起きたとしても、車で出勤してくる先生より圧倒的に早いわけである。


「すげーわ。絶対俺ならブチギレしてる」


「君が? あはは、ないない。ちょっと不満が爆発するくらいで、本気で怒ったりしないだろう。人間腹が立つと態度が悪くはなるものだけど、君はなんだかんだと文句を言いつつ、しゃーないなぁと手を貸してくれるだろう」


 馬術部というものは、馬に乗る部活動だと思われがちだが、内容としては馬の世話に割く時間のほうが多い。

 早朝に馬の飼い付け食事から始まり、馬たちのケア、馬房の掃除、夕方の飼い作り……他にももろもろとあるが、乗馬練習の時間は多くて活動時間の半分くらいだ。屋外なので天候に左右されるし、馬の調子も判断される。


 そんな馬術部の一部員が、目の前のそいつ。白馬の王子様である。

 一頭だけいるやたらと毛並みの良い白馬はその王子に随分となついていて、その一人と一頭の仲睦ましさやら、乗馬の華やかな姿にハートを射抜かれた生徒は多い。

 俺の、片想いしていた幼馴染も、そいつに夢中になっていた。

 は? ちょっと顔が良くて馬と戯れてるだけでキャーキャー言われるとか、調子に乗ってんじゃねーの? どうせ良いのは外面だけだろ? 俺が王子様の腹を暴いてやろうじゃん。


 ……と、思い返してもアホな理由で馬術部に入部した俺は、そいつが誰よりも馬を愛し、人を愛し、何に対しても敬意を持って接する真面目で寛大な人間だとわかるまで、そんな時間はかからなかった。


「それに、私の事をとやかく言えないくらい、君だって充分早いじゃないか」


「俺も徒歩五分だし」


「ふふ、そうか。まぁ私も、先生が来るまで友達と話しながら待つのは楽しいと思っているから、また早起きした時は来てくれたら嬉しい!」


 なんだかんだと気のいいこいつと一緒にいるのは楽しい。こういうのが王子様と呼ばれるだけの魅力なんだろうと今は思える。

 ……いやまぁ、女子なんだけどさ、こいつ。

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