第10話 久しぶりの再会×元勇者と元魔法使い

 僕は、ここではない別の世界を救ったことがある。


 小学五年の夏休み。祖父母が暮らす田舎に行って、山の中で見つけた一冊の本を手にした時、ディケイドという世界に迷い込んだ。

 行方不明になっていた『万物流転の書』を車輪の刻印まで運び、四大聖獣を目覚めさせる。たくさんの人とモンスターと対立し、助けられながら、忘れられない二週間の旅の果て、ディケイドは救われた。

 役目を終えた本が消えると、僕が本を見つけた場所、元の世界に戻っていた。



 ……高校生となった今、全部夢だったのではないかと思っている。

 二週間の行方不明の間、どこで何をしているのかと家族から問われて正直に答えた結果、ちっとも信じてもらえなかった。それがあまりにも悲しくて悔しくて、僕は何も話さなくなった。


 僕の大冒険は、誰にも語られる事なく、僕の中だけにしかなかった。


 だから、どうしても薄れていった。

 覚えた数式や英単語の代わりに抜け落ちていった記憶ーー王様がいた街の美味しかったお店、ふかふかのおばあさんの模様の形、大好きだった魔法使いのペンダントの花の名前。

 気付いた時は悲しくて、わからなくなっても誰にも教えてもらえなくて、少しずつ消えていってしまうのが、すごく寂しかった。誰にもわかってもらえない事が、孤独でたまらなくなった。

 だから、全部夢だったと思い込もうとした。


 そうして五年の時が流れて、その思い込みは当たり前のものになりつつあった、高校二年の夏。


「みゃあぁああ!! まーたーまちがえたあぁぁああ!!」



 懐かしい、声がした。


 空から落下してきた少女の、焦茶と桃色のローブにも見覚えがあって、もう何でも出来た万物流転の書は僕の手元にないのに、彼女のように魔法は使えないのに、反射的に両腕を伸ばして駆け出していた。

 抱き止めた時、思ったより衝撃がなくて怪我がなかったのは彼女の魔法のおかげだったのかもしれないし、五年前と違って僕の方が大きくなったからかもしれない。


「わぁ、勇者くん、大きくなったね」


 ああ、その呼ばれ方も懐かしいな。

 胸が締め付けられる苦しさを覚えながら、笑顔の彼女を見つめる。


「どうして……ここに、」


「どうしてって、帰る時一緒に連れてってくれるって言ったのに、置いてったのは勇者くんじゃない! だから来ちゃった!」


 でも魔力すっからかんになっちゃった。

 えへへ、と笑う彼女の変わらない姿に、僕は嬉しくてたまらなくて、抱き締めてしまった。

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