第7話 パーフェクトスマイル×残念な二人

「おまえさ、アイドルやってる時と全然違うのな」


 焦茶色の巻き髪、着崩した制服。姿格好を真似た生徒が側にいようと、何故か見間違わない。同級生とは違うオーラを纏うそいつは、風でも起こしそうな長いまつ毛を上下に揺らす。


「え? そんなの当たり前でしょ。衣装もメイクも違う。友達と恋バナもすれば先生の悪口だって言うしトイレにだって行くよ」


「どこから出てきたんだよトイレ」


「大先輩アイドルの偉大さからかなぁ。なんだかアイドルはトイレに入らないみたいなイメージあったらしいよ。ネタにすると親世代のファンからもウケがいいの」


 生身の人間をサイボーグのように扱って、それをけらけらと笑うのが常識の世界か。随分と息苦しそうだ。その世界で生きている目の前の少女はかなり楽しそうではあるが。

 カラーコンタクトで薄茶にされた人工の虹彩が、きらきらと期待に輝かせながら顔を寄せてくる。


「っていうか見てくれたんだ! どれ? どれ見てくれたの?」


「一昨日更新してたMV」


 聞いた途端にむぅ、と口を尖らせる。


「えぇー……あれ、私がちょっとしか出てないじゃん。三ヶ月前のやつ見てって言ってたのに」


「サムネが好きじゃなさそうだった」


「ひ〜現実的な意見をじかに言われるのきっつぅ……男子って普通、かっこいい曲が好きなんじゃないの? 一昨日のやつみたいな可愛い系が好み?」


「あんまり。どんなメロディだったかも忘れたし、なんか見ててがっかりした」


「……それでさっきの感想しか残らなかったって話? うーわ、へこむなぁ」


 綺麗なカーブを描く眉が悩ましげに歪み、彼女は溜息を吐きながら背中を丸めてししまう。

 それでも彼女は一呼吸の合間にしゃきっと姿勢を戻す。


「まっ、伸び代があると思って頑張るわ。見てなさい、あんたみたいな奴もファンにしちゃうような、アイドルになってみせるから!」


 そして、目を奪われるような笑顔を向けてくる。

 ……どうしてこの顔が、本番では生かされないのだろうか。もったいない。


 こうして、せっかくの完璧な魅力をまた俺だけに無駄撃ちしてしまう残念な彼女に、溜息しか出ないのだった。

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