第2話 クシャクシャの笑顔×誰かの一生

「あんたは本当、見てるこっちも笑顔になる笑い方するねぇ」


 物心ついた頃、大叔母からそんな事を言われた。

 優しくて朗らかで大好きな大叔母の言葉がなんとなく誇らしくて、笑った顔をもっとしわくちゃにして見せると、大人は笑みを深めたし、同じ園の友人たちは弾けたように笑い転がった。




「あんたって、子供の頃から笑い方変わんないね」


 年頃になった頃、保育園からずっと一緒の幼馴染にそんな事を言われてしまった。

 さすがに保育園児と同じように笑っている、というのは恥ずかしさを覚えたので、年相応な笑顔を学ぼうと鏡と向かい合った。

 口角だけをあげてみる。……いつもと同じ調子で笑ってみる。そうして改めて自分のしわだらけの弾ける笑顔を鏡越しに見て、元気良すぎて本気で噴き出した。

 悪くない、特技の一つとして残しておこう。




「うわぁ、すっごい笑いジワ」


 結婚し、子供が生まれ、歳を取れば顔も弛んでくる。

 目尻もほうれい線も眉間にもうっすら横ジワが残り始める。気になる、と言えばまぁ気になるけれど、長い付き合いになった幼馴染が遠慮なくいじってくるが、未だに笑いかけると笑い転げてくれるので、やはり悪くない。




「みてみて~! い~~~! いっひひひひ、にてる~?」


 もう顔どころか全身皺だらけになって、同年代の友人知人は骨と皮か、骨になってしまうほどに歳を重ねた。

 育てた子供もいい大人になり、一丁前に伴侶を見つけて、珠のような可愛い可愛い孫を見せてくれるまで成長した。どんぐりのような丸い目を力一杯細めて、自分そっくりに笑おうとする幼子の笑顔を見て、愉快で仕方なくなった。


「あっはっは! いいねいいね。見てるこっちも笑顔になる、いい笑い方だ」

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