第68話 可愛くない後輩

初配信にしてリスナーを愚民呼び。


「ナッハハハ!!!」


上機嫌に彼女は笑う。


「待たせたな!

愚民ども!

我は名は龍王シンクゥ!

闇の力を秘めた龍王の子孫にして、

世界一の美少女である!

我が前にひれ伏せ!!!!

頭が高い!!」


キャラ濃ゆすぎるだろ。


コメント欄は面白いキャラが来たと

盛り上がっている。


『シンクゥちゃん可愛いね』

『よろしく!』


「ソナタら! 

龍王の子孫である

我に向かって無礼であるぞ!」


『龍王って何?』


「龍王は遥か昔に我が国を創世した

龍の王である! 

我はその国を継ぐ第34代目の龍王だ!

本来であれば、ソナタら如きが

目にすることすら叶わぬ存在である!

しかし、王となるためには愚民のことも

学ばねばならぬ!

だから、こうして現世に

舞い降りたというわけだ!

感謝せよ!」


すっげえ設定しっかりしてる……


確かに、肌に鱗のようなものが見える。


『その眼帯はなに?』


「ソナタ……この眼帯が気になるのか?

フフフ……この眼帯は我が闇の力を

封印するもの。

この眼帯を外せば、我が闇の力が

解放されて……うう!! 

み、右目が! 我が右目が疼く! 

お、落ち着け……我が闇の力よ」


なんか一人で眼帯に

触れて苦しみだしたんだけど。


「はあはあ……ようやく落ち着いたか」


『これは他のメンバーも大変だなww』

『先輩達とのコラボマジで楽しみ』


「先輩方?

ふんっ! 我は龍王だぞ?

いずれ、先輩どもも我が前に

ひれ伏させてみせる!」


そう自信満々に言った直後、


『いい度胸ね。

それは我輩に対する宣戦布告と

捉えていいのかしら?』


ネオさんがコメント欄に現れた。


「へっ!? 

ネオ先輩!?

あ、こ、これは……

い、いやごほん!

よくぞ現れたな! 

ネオ! ……先輩」


予想外のことが起きて、

明らかに仮面が外れるシンクゥさん。


「そうだ! 我が闇の力でソナタを

ねじ伏せて見せる! ……ます」


後からネオさんから聞いたのだが、

このデスコで謝罪してきたらしい。


────────────────────


いやー昨日の二期生の配信面白かったな。

全員個性的で、1000倍の倍率を

突破して来ただけはある。


これからの二期生との交流を

楽しみにしながら、

学校の廊下を歩いていたとき、

角で誰かとぶつかった。


相手が走っていたのもあって

たたらを踏む。

一方、相手の女子生徒は

尻もちをついていた。


「いったぁい……す、すみません~」


俺は大丈夫ですかと右手を差し出した。


「あ……」


ようやく気が付いた。

その人が今一番会いたくない人だと。


相手の女子生徒は俺の右手を握って、

ゆっくりとこちらを見上げた。


「……きゃあああああああああ!!!

変態だあああああああ!」


学校中に尾形唯の悲鳴が響き渡る。


「ちょっと落ち着いて」


放課後で誰もいないのが幸いだった。


「触らないでください!!」


唯は俺のことを押しのける。

その反動で彼女も三歩後ろによろけた。


背後に階段があるのに気づかずに。


「あぶない!」


俺はすぐさま暴れる彼女の腕を

無理矢理引き寄せた。


それが抱き寄せた形に

なってしまったのが最悪だった。


更にパニックになった彼女からスパンと

平手が飛んでくる。


「ぶはっ!」


俺は脳が揺らいでよろけた。


「キモすぎ!

近寄らないで!!」


そう言って唯は逃げて行った。


な、なんて奴……

二度も救ってあげたのに!


学校の人達はあの子を

可愛いっていうけど、

全然可愛くない!


あの後輩、全然これっぽっちも

可愛くない!!


もう二度と救わん!


その夜、俺はイライラしながら

配信開始ボタンを押した。


「あ、あの~初めまして」


「初めまして」


「えへへ、先輩とのコラボ

緊張しちゃいます」


けど、そのイライラは彼女の

可愛らしい声を聞いてどこかに消えた。


「大丈夫だよ東雲さん」


「えー私、オオカミン先輩には

アリサって呼んでほしいな~」


この後輩はほんと可愛い。


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