第67話 残りの二人

学校では未だに白い目で見られている

俺だが、この世界では違う。

今や同接が一万人を超える

Vtuberになり、多くのコメントが

流れていた。


学校のことなど忘れて、配信を開始し、

見慣れた名前のリスナーたちと雑談する。


『昨日の東雲アリサの配信見た?』


やはり、リスナーたちの話題は

二期生のことで持ち切りだった。


「見てたよ。アリサさん凄かったね。

トークも上手いし、

地頭良さそう」


『そんなことないですよ(〃▽〃)ポッ』


直後、アリサさんのコメントが流れた。


コメント欄が盛り上がる。


正直、こんなにも先輩のことを

慕ってくれるのが嬉しかった。

しかし、それと同時に彼女の

理想の先輩でいられるか不安でもある。


そして、一人目でこんなにも

キャラが立っているのだ。

一体、他の二人はどんな人なんだと、

二人目の初配信を見届ける。


先輩である俺がこんなことを

思ってしまうのは駄目なのだが、

正直この二人目の配信が一番楽しみだった。


なぜなら、


「皆さん、ごきげんよう。

わたくし、伊更木(いざらき)

幸三郎といいます」


二期生唯一の男性だからだ。


配信画面に現れた眼鏡と白衣を着た

長身の男。

見た目は若く、インテリ系っぽい。


「この度、ブイライブの一員として

デビューさせていただきました。

憧れのブイライブ、そして

先輩方のメンバーになれたこと

深く感謝します」


『かっこいい……』

『礼儀正しすぎね?ww』

『頭良さそう』


「そんなに褒めないでください。

わたくしなんてまだまだです」


『この謙虚さを先輩方に見習ってほしい。

特にオオカミン』


ちらっと目に入ったそのコメントを

危うくブロックしそうになった。


「それではわたくしの

自己紹介を始めます」


まだ完全に知れたわけではないが、

どうやら物知りで頭の良い人のようだ。


俺達先輩のことも慕ってくれてるし、

これなら仲良くなれそう。


そう思っていた時だった。


『お、頑張ってるね! 見に来たよ』


同期であるアリサさんのコメントが流れる。


そのコメントに対して、


「東雲! 貴様!

昨日の配信は何だ。

先輩方に対してあの馴れ馴れしい

コメントは。わたくしまで

そういうタイプだと思われたらどうする」


先ほどまで穏やかだった彼が

びしりと言い放った。


『ぴえん。相変わらず毒舌』


そうアリサさんがコメントした。


はーなるほど。


この人もしかして、


「それに、昨日の先輩方に

対するトイート。

尊敬していると言っておきながら

マリア先輩に対してため口で

返信していただろ」


『だってマリア先輩がため口で

いいって言ったし』


「そこは謙遜しろ。

本当にため口で返すな。

それが尊敬している人に対する態度か。

貴様の言動は矛盾している」


この人、論理的な考え方の毒舌キャラか。


おそらく、つっこみの立ち位置。


ありがたい。

こういう人がいてくれると

ボケとつっこみが成り立つから

エンタメ的に助かるんだよな。


『本当は伊更木も先輩とため口で

話したいだけでしょ?』


「う、うるさい。

貴様と一緒にするな」


この人、絶対女性に人気出る。


俺はそう確信した。


「失礼。皆さん、取り乱しました」


『アリサが羨ましいの?』

『めっちゃ嫉妬してて草』


「しておりません。

わたくしは馴れ馴れしいアリサの

態度を指摘したまでです。

全く……アリサともう一人のあいつの

距離の詰め方はおかしいのです。

特にあいつは常軌を逸している。

わたくしはそういうタイプを嫌悪しています」


『もしかして……』

『伊更木陰キャかよwww』


「陰キャではありません。

陽キャにも分類されませんが、

中性キャラです」


そんな常識人に見えるけど、

なかなか尖っている

伊更木さんの配信は終了した。


翌日、俺は伊更木さんの

「あいつは常軌を逸している」

というコメントが気になり、

最後の一人の配信を見に行った。


「ばっ!!!!!!!」


配信が開始した瞬間、

暗闇の画面にその人の顔面が映る。


ギザギザの歯に無邪気な笑顔。

歳はアリサさんと同じくらいに見えるが、

右目に眼帯をしていて、

明らかに様子がおかしい。


「控えろ!! 

愚民どもおおおおおおおおお!!!」


最後の二期生である

彼女は、開始早々にリスナーに

向けてそう言い放った。












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