第60話 謎の正体

翌日。予想通り、カレンは

オオカミンの入院する病院の前にいた。


(許さねえええ。あんな卑怯なことして、

うちに恥かかせやがって!!)


ずかずかと病院に入り、ナースたちを

押しのけてオオカミンのいる

部屋に向かう。


(あのクソガキの目の前で言ってやる。

お前のせいでうちの親がブイライブを

潰すって。ああ~楽しみ。あの男が

どんだけ絶望すんのか)


カレンは意地悪そうに口の端を

吊り上げながら、オオカミンのいる

入院室のドアに手を伸ばした。


その瞬間、近くの席に座っていた

女性がカレンの腕を掴む。


「君がカレンさん?」


いきなり、活動名を呼ばれて動揺したが、


「は、はあ? 誰っすかあんた。

今うちイライラしてんすよね」


「オオカミンに何か用?」


「オオカミン? 

ああ、もしかして関係者の方っすか? 

だから、うちの活動名も知ってんのか。

なら、分かってんだろ!? 

うちの親が誰か!! 今すぐ

この手離さねえと、お前もどうなるか」


直後、カレンは言葉を失った。


立ち上がった彼女がでかいのだ。


165cmあるカレンよりも上。

180cmは間違いなくある。


しかも、ニット帽をしていて

気が付かなかったが、日本人じゃない。


金色の綺麗なボーイッシュに、

美しい碧眼。高い鼻に驚くほど白い肌。


「どうなっちゃうの? 教えてよ」


その背丈の高さと美しさに言葉を

失っていたカレンは、はっとして、


「離せよ! てか、お前誰だよ! 

うちにこんなことして、ただで

済むと思うなよ!」


「えー何もしてないよ? 

あーでも名乗ってなかったね。

初めまして。アナスタシア・シバエフって

言います。アナスタシアって呼んで」


「は、はあ。そりゃどーも。で?

うちがこの部屋の中にいる人に

用事があるんすけど、

入っちゃ駄目なんすか?」


「駄目ってことはないよ?

けど、君、彼に悪いことしようと

してるでしょ?

だったら、駄目だよ」


「ふーん。まあ、見た感じ、

日本人じゃないっぽいんで、

うちの親のこと知らないから

そんな態度取れてるんだと思いますけど、

あんま調子こいてるとまじで」


「あー知ってるよ。

金剛寺翔太さんでしょ?

前、家に遊びに来てたよ」


「……は? なんで」


「なんかパパと一緒に仕事をしたい

とかどうとかで」


そのとき、カレンは思い出した。


この前、父が今行っている

事業拡大のために、ロシアのとある

起業家に依頼を持ちかけていたことを。


(待って……今シバエフって……

シバエフって確かロシアの……いや!

ロシアどころか世界で五本の指に入る

資産家じゃ……で、でもこいつが

嘘ついてる可能性も)


「嘘だと思うなら……

ネットで調べてみなよ。

顔なんて直ぐに出てくるから」


そう言われる前に、カレンは検索していた。


(ま、間違いない……この人だ……)


カレンから一気に血の気が引いた。


(あ、あのシバエフに目をつけられたら、

いくらうちでも終わる……)


脂汗を滲ませて真っ青になってしまった

カレンを見て、色々と察した様子の

アナスタシアは、


「あー安心してよ。そういうやり方

嫌いだからしないんだ。

親の権力とか使ってさ」


その言葉に情けない笑みが

自然と出てしまった。

こんなの初めてだ。


「あ、ありがとう……ござ」


「けど、親の権力なんか使わなくても、

君の人生壊すことはできるけど」


耳元で悪魔のように囁かれる。


「ど、どうすればよ、よろしいでしょうか」


「二度と彼、そしてブイライブに

近づかないで」


その恐ろしいほど低く、

冷たい言葉に背筋が凍る。


「親の力使わなくても君のこと

壊せるってこと証明してあげようか?」


「え……」


「実はねアナスタシアとは別の

名前あるんだよね。それ教えるね」


そう言って、その名を耳元で囁かれる。


カレンは己の耳を疑うとともに、

全てにおいてこの女性に

敵わないことを悟った。


「ち、誓います。もう二度とブイライブと

彼には近づきません」


そう返答すると、さきほどまで

冷たい表情を浮かべていた彼女が、

まるで子供のように笑みを浮かべた。


そして、その笑みを浮かべながら

こう言ってのけた。


「けど、今回の悪行の罰は

受けてもらうからね?」


「え」


「悪い事したんだから、当然だよ」


「な、なんでそのことを」


「何でも知ってるよ?

君のことじゃなくて、

彼に関係することだけどね」


「……うち、いえ私はどうなるんですか」


「それはこれから分かるよ」


その言葉にどうしようもない恐怖が

襲って来る。


そんな顔が青ざめたカレンを余所に、

アナスタシアは、


「じゃあね」


と背を向けた。


「ま、待ってください!」


カレンが呼び止める。


「謝っても無駄だよ」


「い、いえ……その……教えてください。

どうして貴方ほどの方が

ブイライブを守るんですか?

何のメリットがあるんですか?」


その質問にアナスタシアはくるりと

振り返る。


「別にブイライブを

守ったんじゃないよ?

オオカミンを守っただけ」


「ど、どうして」


「だってオオカミンは僕の推しだから」





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ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。

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