第59話 決着

ネオは言葉を失った。


「初めまして! ネオさん!!!!」

「初めまして!! 

いつ見ても可愛いね~!」

「初めまして! 会いに来たよ」


現れた彼らを見て、

ネオは膝から崩れ落ちた。


それはマイナスの感情じゃない。

感動だ。嬉しすぎた。

嬉しすぎて、体が震えて仕方がない。


「…………は、初めまして……」


ネオは彼らの挨拶に合わせた。


初めましてじゃない。


戦友だ。


ずっと前にさよならした、仲間たち。


「ファイタン、キリナ、蕾」


Vtuberという界隈が誕生したばかりの頃。

右も左も分からない。

何をしたら正解なのか、

どうすればリスナーに

喜んでもらえるのか。

それを必死に探して、共に笑って、

シャイニングの黎明期を支えた同期たち。


もう二度と会えないと思っていた

彼らが駆け付けてくれた。

それが嬉しくて涙が止まらない。


「誰……」


最近入ったばかりのカレンが

知らないのも無理はないだろう。


だが、そんなカレンを余所に、

コメント欄とトイッターは

とんでもないことになっていた。



ネオのリスナーのほとんどが、

ネオの前世がルインなのを知っているし、

元ルインリスナーだ。

だから、ルインの同期である

彼らのことも知っている。


そして、カレンや星野、凛風目的で来た

シャイニングリスナーも

初代のメンバーを認知はしている。

勿論、リアルタイムで見ていた者は

少ないかもしれないが、

推している事務所の歴史くらい

調べている人も多いはずだ。

だから、彼らが何者で、

ネオの配信に現れたということが、

どれだけ特別で伝説的な瞬間か

シャイニングリスナーたちも

理解している。


流石にモラルのあるリスナーは

コメント欄で直接的なことは

書いてないが、


『嘘でしょ......』

『やば……泣きそう』

『このゲストはやばい』


感動的なコメントで溢れ返り、

トイッタ―では、


『すげえええええ!

シャイニングの一期生が

集結したんだが!?』

『これまじ伝説だろ!?』

『もうこのメンバー

見れないかと思ってた。

涙止まらん』


というトイートが呟かれ、


一期生 

集結


という言葉がトレンド入りした。


「おいおいどうした!?

初めましてだけど、あの頃のお前は

こんなもんじゃなかっただろ!?」


ファイタンがそう叫ぶ。


「そうそう。いつも私たちを

引っ張ってくれた

君はもっとすごかったよ!!

今日初めて会ったけどね!」


キリナが続く。


「大丈夫です。自分を信じて。

前を向いて。苦しそうな顔してるから、

たくさん悩んでるのかもだけど、

私たちにとって、この世界で

一番凄いVtuberは間違いなく

ネオさんです!! 胸を張ってください!」


その蕾の言葉にはっとした。


(私たちにとって……世界一のVtuber)


その言葉がずっと脳裏にこだまする。


「ネオンちゃん頑張って!!」


「頑張ってください!」


「マリアさん。畠山さん……」


「先輩! いつものかっこいいとこ

見せてください!」


「星宮……」


『ネオ様頑張って!!!』

『俺達はずっと応援してるぞ』


スタジオの空気が、コメント欄が、

ネオに対する思いに一変する。


ネオはその雰囲気に鳥肌が立たせながら、

おそらくこの空気感を作り上げたであろう

張本人に視線を向けた。


(ほんと……狼って凄い人……

高校生なのに……私の想像を

どんどん超えていく)


普通、Vtuberが別の事務所に移動して

転生した場合、その前世について

触れてはならないという

暗黙の了解みたいなのがある。


それまでの関りも全てリセットして。


けど、リスナーからしたら、

昔から見ていたメンバーたちの絡みを

見れなくなるのは非常に悲しい事だ。

触れてはいけないことになるのは尚更。


だからこそ、その押し込められていた

悲しみと、またあの絡みを

見たいという願望は計り知れない。

それをこのタイミングで解放させた。


カレンに吹いていた風が、

全てネオへの追い風に変わった。


その力を利用するために、

暗黙の了解にすら

オオカミンは手を出したのだろう。


いや、もしかしたら、敢えてなのかも。


ネオはそう思った。


彼は普通の人がやらないことを

平然とやってのけるところがある。


(ほんとに凄い人……)


シャイニング一期生のメンバーを集めるには

シャイニング側の協力は不可欠。

きっとシャイニング側も今人気の

オオカミンからの頼みという事で

断れなかったのだろう。


この追い風はオオカミンのおかげ。


「ありがとう……オオカミン」


ネオがそう言うと、オオカミンは微笑んで、


「やっちゃってください。ネオさん」


そう返した。


ラストの曲のイントロが流れ始める。


カレンは踊りながら、歌声を

出すために口を開く。


その直後、ネオが一歩前に出た。


そして、カレンが歌うはずだった

主旋律を奪い取った。


カレンは驚いてネオの方に目を向ける。

しかし、ネオはもうカレンなど

気にしていなかった。


ネオの視界に入っているのは、

自分を応援してくれる人達だけ。


(ほんと……私って馬鹿ね。

もうとっくの前に夢叶ってたんじゃない)


世界一のVtuber


てっきりそれは登録者が一番多いとか、

その事務所の顔になるとか、

そういう類のものだと思っていた。


けど、それは違った。


『ネオ様頑張れ!』

『かっこいいよ!』


(このコメントを打ってくれる、

画面の向こう側のたくさんの

リスナーたち。その人たちにとっての

世界一になること。

寧ろ、数字があっても、リスナーがそう

思っていてくれなければ、

何の意味もないわ)


ネオの動きがさっきのものとは比べ物に

ならないほどに大胆に、

キレを増していく。


カレンが後れを取っていた。


(くそ! こいつさっきまであんなに

弱弱しかったのに!)


カレンに萎縮し、星宮に劣等感を感じて、

レインボーのプレッシャーを感じながら

パフォーマンスをしていた

ネオはもういない。


そこにいるのは、シャイニングを作り上げた

ルインの姿。


お手本なんてない。

方法も分からない。

ただ、自分の実力をぶつける。

ただそれだけで、人は応援してくれた。

仲間が尊敬してくれた。


(余計な事なんて考えなくてよかった。

ただ、今の自分を見てもらえば

よかったのね)


カレンを圧倒し、星野に驚きの

視線を向けられ、一期生の皆に

尊敬の眼差しで見られながら、

ネオはオオカミンを一瞥してこう呟いた。


「やってやったわよ。狼」


曲の終了と共に、スタッフや仲間、

コメント欄からの拍手がまき起こる。

皆がネオの圧倒的なパフォーマンスに

魅入られていた。


「凄すぎ! これ! これがあたしの

憧れたルイン先輩だよ!」


オオカミンの後ろにいた星野が

興奮した様子で言う。


3D配信が終わり、スタッフから

機器やマイクを外されたネオが

星野に歩み寄る。


ネオは自信満々にこう言った。


「星宮、今度コラボしましょ」


そう言って、そそくさと懐かしの

一期生のとこへと向かって行った。


「聞いた? オオカミン!

今ネオさんからコラボ

申し込まれたんだけど!」


「もうこの前のことは

克服できたみたいだね」


親睦会のときにネオと星野が

少し揉めていたが、これで一件落着となり、

オオカミンはほっと胸を撫で下ろした。


「さてと……」


オオカミンは一人取り残された

カレンに目をやる。


向きかけていた自分への流れを

全て持っていかれ、その上、純粋に

ネオに実力負けをしたことで、

カレンは怒りで茫然としている。


だが、その視線はオオカミンの

方へと向いていた。


この流れを作った原因のオオカミンに

ヘイトが向くのは当然。

オオカミンもこうなることは

予想していた。

寧ろ、これを狙っていた。


(わざわざスタジオまで来たから、

この流れを作った主犯が俺だって

気づいてくれたみたいだな。

けど、どうしよ。

ネオさんから俺にヘイトが向くようには

できたけど、ここから俺何も

考えてないんだよな)


正直、カレンがいじめる標的をネオから

自分に移すという方法でしか、

この問題は解決できないとオオカミンは

思っていた。


けど、自分に移った標的を

どう解決するかは思い付いていない。


(俺に何かするんだったら、

個人勢になるか。

ブイライブに迷惑かかるかもだし)


そう考えていたオオカミンだったが。

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