第61話 新たな夢

何でかは分からないが、あれから

カレンが俺に八つ当たりを

してくることはなく、


「まじかよこれ」


それどころか、カレンがシャイニングから

解雇された。

これまで行ってきたいじめが発覚し、

ネット上では大バッシングを受けている。


何でいじめが明るみになったのか、

どうしてそれが今なのかは

俺には分からない。


だが、おかげでネオさんと

マリアさんもいつもの様子に戻り、


「オー君ケーキ食べる?

買って来たよ~」


「いただきます!」


お見舞いでケーキを

持って来てくれるマリアさん。

まるで、弟のように可愛がってくれる。


そして、あの一件以来、一番様子が

変わったのがネオさんだ。


今までどこか自信なさげな

彼女だったが、今は自身に満ち溢れ、

日々ダンスや歌の練習に精進している。


なにより、


「え? 狼、これ分からないの?」


入院で学校に通えていない俺に

勉強を教えてくれるのだ。


「あ、あの……ネオさん」


それも、密着しながら。


「近いです」


そう言うと、ネオさんは顔を

真っ赤にしながら、


「は、はあ!? 狼!

真剣に教えてるのに何考えてるのよ!」


と怒るのだ。


つまり、一番何が変わったかと言うと、

ネオさんが俺との距離を縮めてくれる

ようになったということだ。


それだけ、信頼されたと喜ぶべきか。

別に嫌ではない。

勉強に集中できないときもあるが

最高です。


「また、ネオンちゃん怒った~」


「怒ってないわよ!」


何だかこの二人、前よりも

仲良くなった気がするな。


そんなことを思いながら、

同期の二人が面倒を

見てくれているという

幸せを噛み締める。


それから更に月日は流れ、

約四か月が経過していた。


────────────────────


『待ってたぞおおおお! このときを!』

『オオカミンおかえりいいいい!』

『3Dデビューおめでとおおおお!』


ああ、懐かしい。

ちらほら俺の配信で見かけた

リスナーが目に映る。


にしても、開始5分前で同接3万かよ……


緊張で吐きそうになる。


「もしかしてオオカミン、

緊張してるの?」


そのとき、隣から星野さんが

顔を覗かせてくる。


「まあ、久しぶりだからね。

あとはちょっとこの同接数に怯えてる」


「アハハ! 

確かに凄いね! 

アタシもこんなの初だもん!

それだけアタシ達

注目されてるってことじゃん」


その彼女の瞳には不安の色が微塵もない。

ワクワクして、待ちきれない様子だ。


相変わらず、星野さんは凄い。


俺はこの人の力でここまで

これたことを、改めて実感する。


「行くよ、オオカミン!」


その星野さんの言葉と共に配信が開始され、

3D配信が幕を開けた。


スクリーンに星野さんと

俺の3D姿が映る。


リハーサルで何回か見たが、

自分の3Dになった姿に感動をしてしまう。


まさか、こんなことになるなんて。

同接1人の俺は想像もできないだろう。


「こんリナアアアア!

輝く惑星からやってきた超人アイドル!

アイドル系Vtuberの星宮リナでーーす!」


す、すげ……星野さんの生の挨拶じゃん。

声量凄いな。


「そして、本日の主役!

自己紹介よろしく!」


「み、皆さん! お久しぶりです!

ブイライブ所属のオオカミンです!

ご心配をおかけしました」


「いやー本当に心配したよ~

よかった~無事に戻って来てくれて。

ま、それは置いといて、挨拶しないの?」


「え、挨拶したけど」


「……ん? しないの?」


お、おい。

このやり取りリハーサルにないぞ。


「ワンワンしないの?」


「……え」


『ワンワンは?』

『はよしろ』

『ワンワン求む』


とコメント欄。


『ワンワンをお願いします』


とスタッフからのカンペ。


俺は聞いてないんですけどと

星野さんに視線を送った。


「まあ、原点回帰ってことで!

お願い! じゃあ、こっちから

キューを出すね。

いくよー、3、2,1」


しょうがない。やってやるか。


とたぶんエンタメ的に受けるのだろうと

思って、俺は恥を捨ててやったのだが、

笑っていたのは星野さんだけだった。


なので、割愛。


「じゃ、じゃあ……ぷっ……

ちょっと待って……

しんどい……はあはあ……はあーきっつ。

まじやばかった……」


渾身のワンワンでスタジオと

配信を凍らせてしまった俺は、

復帰早々死にたくなっていた。


対して、星野さんは

ずっと笑いを堪えている。


「ふうーよし! 

じゃあ写真撮影始めよっか!」


そして、にんまりと笑ったのだった。


それから十分。

俺はありとあらゆるポーズをさせられた。


「はあ……後でこの写真を

家に飾らなきゃ……」


満足気に星野さんは言っている。


ちなみに、どんなポーズを

させられたかは言いたくない。

絶対に言わない。


その後、二十分間のホラゲーをして。


最後にライブへと移った。


「じゃあ、まずはアタシから行きます!」


彼女がぴょんと飛び跳ねたと同時に

曲が始まった。


華やかな曲調に星野さんの

可愛らしい声が混じり合う。


よく星野さんは歌が好きだから

カラオケ配信をしているが、

こうやって生で聞いてもやっぱり上手い。


難しい音程でも軽々と捉えて、

聞いている人々を虜にしていく。


星野さんにアイドルという設定を与えた

運営は本当に優秀だなと改めて思った。


「はい! じゃあ次オオカミンね!

やばいやばい! アタシまだオオカミンが

歌ってるの見たことないんだよね……

リハは歌の練習なかったし」


俺が曲の準備をしている少しの間、

星野さんが場を繋ぐために

そんなことを言っていた。


あー吐きそう。


でも、やるしかないか。

もうワンワンして色々失ったし、

大丈夫だ。



────────────────────


オオカミンが第一声を発した瞬間、

スタジオとコメント欄が静まり返った。


「嘘……」


星野が驚いた様子で口元を隠す。


その静けさは、さきほどの恥ずかしい

挨拶とは全く異なったもので、


「……うますぎ」


ネオの漏らした言葉通り、

予想を超えて上手かったから。


コメント欄も一瞬の静まりの後に、


『歌うま!!!』

『やばああああああ』

『こんな秘密兵器を隠してたのか!?』


怒涛の称賛へと変貌した。


そのコメント欄を見て一番喜んでいたのは

オオカミンではなく、


(そうですよ!

オオカミンさんは凄い人なんです!)


ずっと歌の練習に付き合っていた

ミルミルだった。


────────────────────


歌が終わる。

俺は盛り上がるコメント欄を

見て安堵を覚えていた。


あーよかった。

プロのミルミルさんに

あれだけ教わったから、

それなりのパフォーマンスをできたようだ。


だが、なぜか星野さんがずっと黙っている。


「ど、どしたの星宮?」


「いやね……なんかね……」


直後、俺は星野さんが

泣いているのに気が付く。


「推してて……よかったなって」


その言葉が無性に心に刺さった。


何て説明すればいいのか分からない。

けど、簡単に言えば、報われた気がした。


「ありがとう、星宮」


自然と言葉が出る。


「俺は最初の頃、誰にも見られなくて、

コラボでも笑われて、もう配信なんて

辞めてしまおうかなって思ってた。

けど、今確信したよ。あのとき、

辞めなくてよかった。

本当にここまで来れたのは

星宮がいたからだと思ってる。

星宮が俺のことを見ていてくれたから。

星宮が俺と関わってくれたから。

そして、星宮が待っていてくれたから。

だから、俺は今ここに立ってる」


きっと今言っている台詞は、

しばらく経てばワンワンより

恥ずかしいものになってる。

そんな気がした。

けど、言わずにはいられなかった。


「星宮。

俺を見つけてくれてありがとう」


「……ご、ごぢらごぞ……」


泣きながらで何て言ったのか

聞き取れなかった。


そんな感情豊かで、真っ直ぐで、

天真爛漫な星野さんに俺は

ずっと憧れていた。

知り合う前から、ずっと。


学校で人気者で、

皆が話しかけて、男子からも

女子からも好かれてた。


俺はそんな彼女を遠くからでしか

見ることができなかった。


けど、今は隣にいる。

一緒に舞台を作っている。

それがたまらなく嬉しい。


「決めた」


「え? 何?」


けれど、今彼女が隣にいるのは

俺の力だけじゃない。

シャイニングとブイライブが協力して

奇跡的に成立している。


それに、俺は何もかもが足りてない。


彼女の隣にいれるものが。

登録者数も、同接もパフォーマンス力も。

何もかも。


「追いつくよ。星宮に。

そして、いつか追い抜いて見せる。

それが俺のVtuber人生の夢」


「……あれ? お金を稼ぐことが

夢じゃなかったっけ?」


「今、新しくできた」


「なにそれ! 

でも、何でアタシに追いつきたいの?」


「隣に立っててもおかしくない男

になりたいから」


『告白じゃん』

『3D配信で大手の

Vtuberに公開告白とは……

オオカミンもやりますな……』


流れてきたコメントにびっくりする。


「ち、ちがっ! 

今のは実力的にということで、

今のままだと同じ仕事をする者としては

実力不足というか」


ああああくそ! 

絶対これまた星野さんが後で

いじってくるやつじゃん!


そんなことを思っていたが、


「プッ……」


動揺していた俺を星野さんは笑う。


「いやね……なんか……

オオカミンだなって……」


「どこがだよ……」


「でもねオオカミン」


すると、星野さんはくるっと

こちらを向いた。


「アタシもまだまだ高みを

目指してるから!

だから、止まらないぜ! 

それでも、できるって言うなら、

追いついてみろ!」


誇らしげな笑みを浮かべて、

星野さんは言った。


その言動にドキッと胸が高鳴る。


やっぱ……星野さんってすげえわ……


そう感心したと共に、俺達ブイライブと

シャイニングのコラボ3D配信は

幕を閉じたのだった。


────────────────────


この3D配信を通常よりも早く行ったのは、

ある狙いがあった。


それは配信後に告知をするためである。


オオカミンと星宮という

最強の切り札を投下した3D配信は、

同接10万を超えるほどの注目を集めた。


その配信直後に出された告知はすぐさま

トレンド入りすると共に、

多くの配信者の目に留まった。


ついに来たと誰もが待ち望んでいただろう。


【ブイライブ 二期生 募集!!】


その新たなる企画を。


───────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。


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