第53話 カラオケ

それから数日、俺と星野さんは

空いた時間で打ち合わせを重ねた。


最初は3Dデビューをした俺の撮影会みたいなのが10分。

その後二人で30分のVRホラゲー実況。

残りの20分は各々一曲ずつ歌を歌い、

最後に二人で何かを歌って終わりという

流れだ。


曲を歌うのは本気で嫌だけど、

ダンスは踊らなくてもいいという条件で

星野さんの提案を了承した。


何歌おうかな......

最近、カラオケ行ってないし、

久々に行ってみようかな。

でも、一人でカラオケとか行っても、

自分のどこが下手なのかとか

分かんないよな。

誰か誘うか。


星野さんは......俺がドキドキし過ぎて死ぬ。


ネオさんとマリアさんは

3D配信の準備で忙しいだろうし。


他には......石城先輩って歌うまいのか?

なんか二人きりで会うの緊張するな......


ニノはリアで会ったことないし、

誘っても絶対無理だろうな。


プレデターさんとZIGENも......一緒に

カラオケ行くような仲じゃないし。


となると......ミルミルさんかな。

でも、リアで会うとかは無理だろうし。

歌を録音して動画送って、

デスコでアドバイスもらおうかな。


『ミルミルさん。お久しぶりです。

急で申し訳ないんですけど、

歌を歌うアドバイスをもらいたくて』


すると、三秒ほどで


【オオカミンさん!

お久しぶりです! 全然大丈夫ですよ!】


俺は録音した動画を送信した。


『どうですか?』


【ごめんなさい。動画を

視聴したんですけど、

よく聞き取れないです(´;ω;`)】


『あ! そうなんですか!

こっちこそごめんなさい!

やっぱ動画じゃ無理か......』


【ちなみにどうしてオオカミンさんは

歌の練習をしてるんですか?】


『近々3D配信をするんですけど、

そこで歌うことになって』


【え!?( ゚Д゚)

大事なイベントじゃないですか!

私お手伝いしますよ!】


『ありがとうございます! ミルミルさん! でも、どうやったらうまく歌を動画に録音できるか分からないんですよね』


【それなら、会って練習します?】


え? 会う?

ゲームの中で?


『えっとリアルクラフトみたいな

感じで会うってことですか?』


【いえ! リアルの世界です!

カラオケに行ったら実際に

オオカミンさんの歌を聞けますので】


......え?


────────────────────


「......あのミルミルさん?」


一体誰がこうなると予想しただろうか。


「は、はい!」


「大丈夫ですか?」


「だ、だ、大丈夫ですよ!!」


まさかリアルでミルミルさんと

カラオケに行くことになるなんて。


あの日から数日後、ミルミルさんと

予定を調節して、リアルの

とある場所のカラオケで会うことに

なったのだが、俺に会った瞬間、

ミルミルさんはずっとパニックになった

様子であたふたしている。


「ご、ごめんなさい!

誘ったのは私なのに......

年もオオカミンさんより上なのに......

こんな情けない態度取ってしまって」


「いやいや。歌の練習に付き合ってもらってるんですから、全然気にしないでください。 それに俺も緊張してますから」


「そ、そうなんですか!?

全然そんな感じには見えないです」


そりゃ緊張するよ!

ミルミルさんが

予想以上に美人なんだもん!


あまりオシャレに

興味がなさそうな服装ではあるが、

この黒髪ロングと整った顔だけで

十分すぎるほどの美人だ。

スタイルもいいし。


けど、コミュ障だからなのか、

全く目線を合わせてくれない。

話すときに目が泳いでるから

緊張してるんだろうな......


「最初は緊張するものですよ。

そのうち慣れます。

とりあえず、カラオケに来たんだから

歌いましょうか」


「は、はい!

じゃ、じゃあオオカミンさんの

歌聞かせてください」


「分かりました」


あー緊張する......

けど、3D配信で恥かきたくないし、

ここはプロに本気の指導をしてもらおう。


俺は重い口を開いて、震えた声で歌った。


「ど、どうですか?」


歌い終わった俺はゆっくりと

ミルミルさんの方を振り向く。


ミルミルさんはぽかんとした顔で

制止していた。


「ミルミルさん?」


「......いえ......

ちょっとびっくりしちゃって」


「びっくり?」


「オオカミンさんって人より声が渋くて

低音なのに、サビの高音がしっかり

出せていたので......」


「それって上手いってことですか!?」


「......」


あれ? 今度は気まずそうな顔したぞ。


「下手ですか?」


「......」


「あ、なるほど」


こーれは下手ってことですね。


「やっぱ歌はやめ」


「でも、練習したら絶対に

上手くなると思います。

今は正直、上手いとは言えませんが、

それは音の強弱とか音程をまだ

意識できてないからです。

ここを意識して練習すれば

化けると思います。

オオカミンさんは既に出しにくい高音と

低音の両方を出せているので」


「......ということは......つまり」


「才能は間違いなくあります!」


────────────────────


それから星野さんとの打ち合わせに加えて、

ミルミルさんとの歌の練習を重ねた。


お互いに都合が合った日に

カラオケに行って、俺の歌を

聴いてもらった。


「あの人めっちゃ可愛くね?」


「分かる~彼氏いるのかな?」


「隣のやつが彼氏じゃね?」


「釣り合ってねぇよなぁ」


街行く人の声が聞こえてくる。


確かにミルミルさんは元々美人だが、

なんか会えば会うほど

オシャレになってるような

気がする。

気のせいだろうか。


「皆ミルミルさんの噂してますね」


「......視線が怖いです」


だが、当の本人は男から

そういう視線で見られるのは

嫌なようだ。


待ち合わせのときにナンパされているのを

見かけたが、話しかけてきた男に対して、


『け、け、警察ですか!?

今すぐ来てください!』


ガチで警察に通報していたときがあった。


「ほんとに気持ち悪い......」


「ま、まぁでもミルミルさん

美人ですし、声かけたくなっちゃうのも

分かりますけどね」


それに初めて会ったときと比べて

肌の露出も増えてるし。


「......美人......

わ、私は......オオカミンさんに......」


声が小さすぎて何て言ってるのか

聞き取れないことが多々ある。


「お、オオカミンさんこそ......

街中で女性に声かけられたり

しないんですか?」


「俺が? ないですよ」


「意外です。

オオカミンさん声の渋さと

見た目の若さでギャップがあって......

その......いいと思います......」


「そんなこと言ってくれるの

ミルミルさんだけですよ。

でも、本当にないんですよね。

学校でも女子に好かれたりなんか......」


今一瞬、星野さんのことが

頭に浮かんだ。

いや、でもあれは俺じゃなくて

オオカミンっているキャラクターが

好きなんだし、違うか。


「な、なんですか!?

い、い、今の沈黙!

も、もしかして彼女いるんですか!?」


今日一でかい声にびっくりした。


「いやいないですよ。

彼女いない歴=年齢なんで」


そんな会話をしながら、

ミルミルさんと駅に到着したときだった。


見覚えのある姿が視界の隅を通りすぎた。


「今の......」


「オオカミンさん?

どうしたんですか?」


「ごめんなさい。

今知り合い見かけたんで、

会ってきてもいいですか?

なんか表情がいつもと違ったんでちょっと

心配になっちゃって」


「はい。大丈夫ですよ」


「ごめんなさい。気をつけて

帰ってください」


そう言って、俺は直ぐにその

人を追った。


普通、町中で知り合いを見かけても

自分から声をかけることはない。


けど、あの表情は嫌な予感がする。


以前も見たことがあったのだ。

彼女があの表情でいるのを。


「......いた」


あの人何してんだ!?

前見えてないのか!?


俺は無我夢中でその人の名前を叫ぶ。


反応はない。


まさか......


間に合え!!!!!!

間に合ってくれ!!!!



────────────────────


【お知らせ】

7/24に新作投稿しました!

【底辺配信者、異世界転生してくそバズる

~異世界で目覚めた俺は

スマホになってました~ 】


配信×異世界の作品です!

こちらと同様にのんびりと

投稿していくので、興味のある方は是非!


ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。





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