第54話 最悪

【シャイニングの先輩方皆言ってるっすよ。

後輩に実力負けして、シャイニングから

追い出された負け犬が、今は別の

事務所でVtuberやってるって】


ずっとその言葉が脳裏に響いていた。


負け犬......


笑ってしまうくらいその通りだと思った。


あの日から、カレンとのダンスと

歌の練習が始まった。


そのとき感じたのだ。

星宮リナに感じたあの劣等感を。


普段は大人ぶって、先輩ずらして、

心のどこかで自分は他の人よりも

凄いと思っていたのだ。


だから、自分よりも才能がある

人がいると嬉しくない。不快になる。

そんな私の心を、このカレンは

見透かしていた。


『あーまた遅れたっすね。

いい加減にしてくださいよ。

それじゃうちまで恥かくじゃないっすか』


『......ご、ごめんなさい』


『はぁ......これならコラボ断るんだった』


そう不機嫌そうにカレンは

練習室を後にした。


心にじーんと痛みが走る。


カレンは凄い。

歌もダンスも私以上。


そんな彼女にまた私は

嫉妬しているのだろうか。


星宮のときのように。


情けない。

情けない情けない情けない。

こんな自分が嫌いで仕方がない。


実力負けして、自分より優れた相手に

嫉妬して勝手に不快になって、落ち込んで。


「もう......やめたい」


けど、ここで私がコラボを取り消したら、

狼とマリアに迷惑がいく。


彼らたちには......迷惑をかけたくない。


私が耐えればいいだけ。


それから毎日のようにカレンに

罵倒され続けた。


耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。


そう必死に暗示をかけるように

乗り越えた。


けど、今思えば、乗り越えたのではなくて、

あれは必死に逃げていたのだと思う。


カレンと関わると、シャイニングにいた

頃を思い出してしまうから。


カレンは凄い。才能の塊。

実力主義のシャイニングの中でも

人気を誇ってるのも納得できる。

そして、このどんな手を使ってでも

成り上がろうとするこの性格も、

シャイニングの雰囲気に合っている。


最初の頃はこんなんじゃなかったのに。

シャイニングが人気になるにつれて、

いつの間にかこういう人が

入ってくるようになった。

配信では仲が良いのに、リアルでは

仲間を蹴落としてのし上がろうとする。


「このコラボはうちにとって

名前を売るのに大切な配信なんで、

まじで足引っ張ったら殺すぞ」


バタン


扉の重い音が響く。


私はゆっくりと息を吐いた。


ブイライブに来て、

この嫌な気持ちになることはなかったのに。


シャイニングにいた頃を思い出してしまった。


この数ヶ月間、夢でも見ていたのだろうか。


「......もう嫌だ」


なんでこんな思いをしているのだろう。


もういっそのこと、ブイライブからも

逃げてしまえば......


いや、きっとそうしても、私の心の中にある他人に嫉妬してしまう汚い自分は消えない。


どこに行っても、Vtuberをやめても、

きっと切り離さすことはできない。


......なら、もう楽になってしまいたい。


嫌な自分も、自分より優れた人も。

何も考えなくていいように。


目の前を車が過ぎ去って行く。


ここに飛び込めば......全部考えなくて済む。

もう全部どうでもいい。


どうせ轢かれるなら、

なるべく一瞬で死ねるように

大きいトラックにしよう。


来た。

私は道路に飛び込む。


ブウウウウウウウウウウウ


トラックから発せられるブレーキ音と

ライトが近づいて来る。


......マリアと狼に悪いことしちゃうな......

でも、もうそんなこと考えなくてもいいか。

......あの二人はこれからどうなるんだろう。

マリアは声も性格も良いし、狼は面白くて真面目で......きっともっと人気になる。

二人ともあっという間に私の届かないところまで行くんだろうなぁ......

でも、不思議。それなのにあの二人には

不快感とかないのよね。

本当に不思議。

本当にあの二人といたこの数ヶ月は

幸せだった。


ああ......死ぬ前に......

二人に会いたかったな。


「ネオさん!!!!!!!」


そのときだった。


背後からもの凄い勢いで押され、

私は前方に転がった。


体の肌がコンクリートに擦られ、

肘から少し血が垂れていた。


けれど、そんなことなど今は

どうでもよかった。


今の声......


私は声のした方向を振り向いた。


「......」


私は言葉を失ってしまった。


急停車してガードレールの直前で

停車しているトラック。


周りには騒ぎを聞き付けた人たちで

ごった返していた。


その人々の表情を見れば分かる。


その人々の輪の中心がどうなっているのか。


「おい! 君! 大丈夫か!?」


駆けつけた人がそう声をかけてくれたが、

今はそれに返事する余裕はない。


擦り傷だからけの体を引きずって

その人々の中に入っていく。


「嘘......」


さっきの声が聞き間違えであって

ほしかったとどれだけ願っただろうか。


やっぱりさっき私を押してくれたのは

彼だった。


「狼......」


そこには血を流しながら、

地面にぐったりと倒れている

狼の姿があった。




────────────────────



ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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