第52話 我慢

その後、俺は星野さんの自宅まで

連行され、部屋の座布団に正座させられた。


「じゃあ見ますか! うわっ超楽しみ~」


そして、星野さんは目の前で

四日目のアーカイブを視聴した。


最初は楽しそうに見ていたのだが、


『マリアさんのスリーサイズはあああ!』


という俺の叫び声が部屋中に

響き渡った瞬間、空気が凍りつき、

更には俺のフェチが判明したシーンでは

空気がなくなったと思ってしまうぐらい

呼吸ができなかった。


それくらい怖い視線を向けてきた

ということである。


それからしばらくの間、俺は謝罪と共に、

もう二度とマリアさんの体を見ないこと。

そして、エロ本も読まないことを

誓わされた。


「よしっ!

じゃあオオカミンも反省したことだし、

3Dライブの話し始めようか!

あ、その前に飲み物取ってくるね。

オオカミンオレンジジュースでいいよね?」


「あ、はい。お構い無く」


.........こ、怖かった......

星野さんって怒るとあんな冷たい

目するんだ......


さっきの怖い星野さんとは打って変わって、

るんるんと鼻唄を歌いながらジュースを

持ってきた。


「あ、いた、いただきます」


「はーいどうぞどうぞ。

いやーそれにしても大変なことに

なったねぇ。まさか二人で3D 配信

することになるなんて。あたしも一回だけ3D配信したことあったけど、あのときは

一人でやったから自分勝手にできたけどさ、

今回はオオカミンの晴れ舞台だから、

こっちもプレッシャーめっちゃ凄い」


と言いつつも、すっげぇ嬉しそう。


「いやいや。俺としては心強いよ。

星野さんがいてくれるんだから。

凄く安心してる」


「ちょっ! オオカミンってそういうとこ

あるよね! 直球すぎ! もっとさ、

こう遠回しに言ったりとかあるでしょ!

聞いてるこっちがハズい 」


「本当のことだよ。

まぁそれでさ。

俺も何するか色々考えてはみたんだけどさ」


「え!? あたしもあたしも!

なら一緒に発表しようよ!

じゃあいくよ! せーのっ!」


「ライブ!」


「二人で牧場ストーリー実況プレイ」


ん?

今......星野さんライブとか言わなかったか?


「え? 牧場ストーリー実況プレイって

言った? それ......3D配信でどうやるの?」


「巨大スクリーンの前で3Dになった

俺たちが牧場ストーリーをプレイする感じ」


「却下」


「.........え? ちょまって。

な、なんで?」


「それは普通の配信でもできるから」


「できないよ! あの穏やかな

牧場ストーリーを普通は巨大スクリーンで

プレイできないでしょ!」


「ただオオカミンが巨大スクリーンで

プレイしたいだけじゃん!」


ギクッ


ペアが決まったあの日、俺たちは

3D配信をする会場を見せてもらった。


そこには3D になった自分達が映るように

大きなスクリーンがあった。


そこにゲーム画面を映してゲームを

プレイすることもできるらしい。


過去にそれを使ってホラーゲームを

プレイする3D配信があったのだとか。


俺はそのとき思った。


このくそでかスクリーンで牧場スクリーンを

プレイできたらどれだけ幸せかと。


「それってホラーゲームは驚いてるところを

3Dの体で見せれるから映えるけど、

牧場ストーリーは絶対映えないからダメ」


「......はい。い、いやでもそれだと

星野さんの案になるんじゃ」


「へへへ~やっぱり3D 配信といったら

ライブでしょ? 推しの生歌を

目の前で聞けるのってさいっこう!!!」


嫌だ!!!!!

歌? なんですかそれは。

美味しんですか? 食べれるんですか?


「それって......もしかして

ダンスとかもある?」


「うんうん! オオカミンの

ダンス超見たい!」


やだやだやだやだやだやだ。

無理無理無理無理。


「俺......ちょっとヤバイかもしれない」


「えー? ダンスやったことないの?」


「......あるにはある......」


「え!? まじ!? どんなダンス!?」


「幼稚園の頃に踊ったドラ○もん音頭」


「あ......」


────────────────────


そこからの3D配信の内容決めは難航した。


オオカミンっぽいからという理由で

ドラ○もん音頭を

マジで踊らせようとしてくるし、

牧場ストーリーは即却下されるし。


いや、分かるよ?

3D 配信っていったらライブだよ。

歌って踊って華やかに盛り上げるんだよ。

たぶん運営側もそれを想定してると思うよ?

もし、運営に牧場ストーリーしたいですって

言ったら、下手したら頭大丈夫ですかって

病院に連れていかれるかもしれない。


けど!

いやだ!!!!!!

歌って踊るなんて陽キャだからできるんだ!


俺あれだよ?

陰キャだよ?

国語の授業で丸読みさせられるやつで、

どんだけ俺がこっちに回ってくるなって

祈ってるか知ってる?

それくらい人前で話すの嫌いなんだよ!!!


そこから必死にダンスと歌から話題を

逸らすも、他に案が思い付かなかった。


「他のペアは何をするのかな......」


俺はそう呟いた。


────────────────────


オオカミンがそう呟いたその頃、

同期のマリアは......


『凛風ちゃん。次はいつ会う?』


『この前会ったばかりではないか!』


『だってぇ、私凛風ちゃんと

会いたいんだもの。

ケーキ作って行くから。

ね? お願い』


『......なら行く』


まるでおじさんのように凛風と

会う約束をしていた。


彼女たちは未だ3D配信で何をするかを

話し合ってすらいない。

しかし、マリアの積極性のおかげで

彼女たちの仲は確実に深まっていた。


そんな順調な彼女たちとは打って変わって、

地獄の空気の中、打ち合わせをしている

ペアがいた。


「はぁ......」


沈黙の中で対面していた彼女が

つまらなそうにため息をつく。


「......ごめんなさいね。私のせいで

ため息をつかせてしまって」


それを見ていたネオはそう返した。


「分かってるなら交代してくださいよ。

うち、今人気のオオカミンとコラボできるって聞いたからマネージャーの依頼を

受けたのに。もぅ最悪っす」


ネオは何も返答しなかった。

この空気の中、ひたすらノートに

3D配信の内容を書いている。


「よりによってあんたがペアなんて。

やる気でねぇ」


容赦のない言葉にもネオは顔色一つ

変えない。


カレンが態度を変えたのは、

二人で会ったときだった。


ペア決めをしたあのときは、

明るい大学生だったのに。

二人になった瞬間、本当の裏の顔を

出してきた。


しかし、そんな彼女の態度をネオは

誰かに伝えることはなかった。


これはブイライブとシャイニングの

大型コラボ企画。


畠山に密告すれば、カレンを別のメンバーと変えてもらえるかもしれない。


しかし、そうなれば

ブイライブとシャイニングに少なからず

迷惑がかかってしまう。


そもそもシャイニング側が自社のメンバーの

非を認めるとも思えない。

有耶無耶にされるか、最悪ブイライブと

シャイニングの間に亀裂が入るかもしれない。


なら、自分が我慢すれば済むことだ。


カレンも配信上ではあの

フレッシュキャラを演じるはず。


そう判断して、ネオは耐えることにした。


「ちょっと聞いてるっすかぁ?」


「ええ」


ネオは無表情で返答した。


その様子が面白くなかったのか、

カレンはネオの耳元に口元を近付けて

こう囁いた。


「あんたってシャイニングから

追い出された負け犬ってほんとっすか?」


その言葉にネオの表情が一変した。

ネオのペンを持っていた右手が震え出す。


「シャイニングの先輩方皆言ってるっすよ。

後輩に実力負けして、シャイニングから

追い出された負け犬が、今は別の

事務所でVtuberやってるって」




────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。


















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