第47話 仲間

(俺は何をしているんだ......)


「今をときめく配信者の皆さん!

まずはお疲れ様でした!!!」


ふぅーー!!

おおおお!!!


最初の集会所に集められた配信者達が、

今大会を運営したグランドの言葉に

歓声を上げる。


そんな盛り上がる中でただ一人、

ZIGENは苦悩していた。


結局、ZIGENはボッチーズに所属したまま、

最後の閉会式を迎えてしまった。


何度も裏切るチャンスはあった。

なのに、裏切れなかった。

笑ってる仲間たちを見て、

気が引けてしまった。


(結局、一番あまっちょろい

奴だったのは俺か......)


妹の学費を手にいれる。

その目的のために配信者祭に

参加したのに。


「それでは! 今回の配信者祭の

準備を発表します!」


第三位から順に、順位が発表されていく。


「僕たち何位かな!?」


「さ、流石に3位以内には

ランクインしてると思います」


「大丈夫大丈夫。

あんなに今日コイン集めたの

俺たちだけだから。」


「じゃあ一位かな!?

オオカミン! 表彰台に登る準備はいい?」


「やめてくれニノ。

吐きそう......」


「相変わらず頼りないねぇ。

俺たちのリーダーは」


そんな仲間たちの会話を冷めた目で

ZIGENは見つめる。


「では、いよいよ一位の発表です!

今回、最も多くのコインを

集めたパーティーは!

ボッチーズです!!!

集めたコインはなんと9万コイン!

二位と圧倒的な差をつけて

今大会を征しました!

リーダーのオオカミン!!

どうぞ表彰台へ!!!」


「は! ひゃい!?」


「い、今......オオカミン。噛んだよね?」


「噛んだ噛んだ。

さっすがは俺たちのリーダー......」


ニノとプレデターが必死に笑いを堪える中、

オオカミンが表彰台に登る。


「一位おめでとう!

今の感想はどうですか?」


「さ、最高です!」


その震えている声から緊張が伝わってくる。


「いやー、この配信者祭は

オオカミンさんにとって色んな意味で激動

の五日間でしたね」


「そ、そうですね。

本当に色んなことがありました」


「やはり皆が気になってるのは

この個性溢れるなメンバーだと

思うんですけど、リーダーから見て、

パーティーメンバーはどうでしたか?」


「そうですね。

皆本当に個性が強くて、楽しくて、

面白くて、最高のメンバーだったと

思います」


「なるほど。

では、最後の質問です。

優勝賞金として、ボッチーズには

500万円。山分けでオオカミンさんは

100万円獲得できたことになるんですが、

オオカミンさんは一体何に使うんですか?」


(100万円か......それだけでも

獲得できたのはよかった。

奈々子は喜んでくれるだろうか)


そう自分を納得させようとしたその時、


「あ、山分けはしません」


「え!?」


ZIGENは思わず顔を上げた。


「ある一人を除いたパーティー全員と

話し合ったんですけど、優勝賞金は全部

ZIGENにあげるつもりです」


(......は?)


ZIGENはオオカミン以外の仲間たちに

目を向ける。


プレデター、ニノ、ミルミル達は

全く動揺している様子はなかった。


動揺しているのは、

それを聞いてなかったZIGENだけ。


「ほうほう。

なぜZIGENさん一人に?」


「あいつがこの優勝賞金をもらうのに

一番相応しい人物だと、

リーダーの俺が判断したからです。

それを伝えたら他の三人は快く

了承してくれました」


「......なるほど」


グランドがそれ以上追求しなかったのは、

その背景を知っていたからだろう。


昨日、オオカミンとZIGENの間だけでその理由をこそこそと伝えていたが、配信中だから

それはリスナー達に筒抜けだった。


ZIGENは知らないが、

その妹の学費のためという

理由がネットで広がった。


だから、運営のグランドが

それを知らないはずがないのだ。


「おーし。

このサーバーが消えるのもあと

一時間らしいし、最後は俺たちの

拠点に行こうぜ」


閉会式が終わって、ログアウトする者と

最後の最後までこのゲームを堪能する者に

別れた。


オオカミン達は後者だった。


皆でこの五日間過ごした拠点に戻る。


「お、おい! 待て! オオカミン!」


ZIGENがオオカミンの名前を

呼ぶのは初めてだった。


「え、何?」


「どういうことだ! さっきの話!

俺に優勝賞金をやるってのは!」


「どういうことってそういうことだけど」


「だから! 何でそんなことするんだ!

同情か!? 哀れみか!?」


納得がいかない。

何でこんなことをするのか

理由が分からない。


「同情とかしてないって。

昨日の大会で5万コイン

手に入れられたのはお前が

いてくれたからだろ。

優勝できたのは9割お前のおかげだよ。

だから、お前がもらうべきだって思った」


「......は? 昨日、勝てたのは

お前のおかげだろ!」


「いや! お前のおかげだって!」


「なーに男二人で

イチャイチャしてんだよ。おじさん吐くぞ」


プレデターが素早く間に入る。


「......それに他の三人も優勝賞金は

いらないってさ」


「いらない?」


ZIGENがプレデターたちを見ると、

彼らは首を縦に振った。


「俺年収1億超えてるから大丈夫」


「僕も大丈夫だよ」


「わ、私も大丈夫です。

だから、妹さんのために使って

あげてください」


その返答にZIGENはオオカミンに

視線を戻す。


「お、お前話したのか!?」


「話してないよ!

ネットで話題になってんの!

昨日の配信見てた人皆がZIGENが

優勝賞金を獲得するのを望んでる。

これは本当だぞ!」


信じられなかった。

嘘だと思った。

だって、今までこんな幸せなこと

なかったから。

きっと、皆自分を騙そうと......


「ZIGEN! お前、人の優しさに

慣れてなさすぎだよ」


「や、優しさ......」


「今まで酷い扱い受けてきたかも

しれないけどさ、俺たちのことも

信用できないのか?」


その言葉に何も言い返せなかった。


そうだ。

裏切れなかったのは。

彼らが今までの奴等と違ったからだ。


きっと、心のどこかで

信用してしまったのだ。


「いいから! 受けとれよ。

妹に渡すんだろ!」


(こ、こいつ......)


「貰ってくれ」


「貰ってよ!」


「貰ってください」


「......」


こんな感情を何と説明すればいいのか

分からない。


胸が暖かくてどうしようもない。

ただ、このとき何と返せばいいのかは

知っている。


久しぶりだ。

この言葉を言うのは。


「......あ、ありがとう......皆......」


その不慣れな様子に仲間はこう返事した。


『どういたしまして!』



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。





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