第45話 ライブ

拠点に帰った俺は正座させられていた。


と言っても、ゲームの中なので

本当に正座していたわけじゃない。


「オオカミン......」


それくらい謝罪の意思を

示していたということだ。


「僕は悲しいよ」


「......はい」


「あんな大衆の前で女性のスリーサイズを

公表しちゃうなんて」


「......はい」


「推してる僕の立場にもなってよ」


「......非常に申し訳なく思っております」


「いいじゃんいいじゃん。

俺はめっちゃ面白かったと思うけどね。

いやー、流石だなぁって

思ったよ。

やっぱ頭のネジ外れてるなぁって」


「プレっち!

そうやってオオカミンをフォローしない!」


俺がスリーサイズを叫んだあのとき、

ニノは悲しくて泣いてしまったらしい。


対して、プレデターさんは

笑い過ぎて椅子から転げ落ちたとか。


「......あんなに純粋だった

オオカミンさんが......どうしてこんな......」


そして、まるで小さい頃から俺のことを

知ってるかのように嘆くミルミルさん。


「で、でもニノ!

俺のやったことは最低だけど

勝つにはあれしかなかったんだよ!」


「そ、そうだけど」


「俺はどうしても勝ちたかったんだ!

だって! この五人で何かをするって

きっとこの配信者祭が最後だよ?

これから先、同じメンバーで何かに

取り組むことがあるか分かんないじゃん。

だから、俺はこのメンバーで

優勝したいんだ!」


「うう......そう真っ直ぐ言われると

何も言い返せない......」


やったぜ。


「てか、太ももフェチってほんとなん?」


ようやく雰囲気が落ち着いたのに

爆弾を落とすのがプレデターさんなのです。


「い、いや、あれは嘘ですよ」


「嘘にしては食器棚にエロ本隠す

なんてほんとっぽくて

生々しい話だけけどな。

それに太もも好きそうだし」


「いや、好きそうって

どういうことですか!」


このおじさんほんとヤバイ。

いじって面白がりやがって......


「そうなの? オオカミン」


ニノが弱々しく訊ねてくる。


「太ももが好きなの?」


「......い、いや......」


な、なんでそんなこと聞いてくるんだ!?

別にいいじゃん!

太もも好きでも!


「ふ、普通かな......」


────────────────────


今すぐに、パーティーを抜けて

こいつらを襲う。


そのつもりだった。


なのに、なぜかオオカミンを

襲えなかった。


『お前の妹のために、

嫌われ者になってやるよ』


その言葉通り、彼は自分のイメージを

下げてまで、パーティーの勝利に貢献した。


自分の妹のために、共に戦ってくれた。


それを裏切っていいのか。


ZIGENはずっと苦悩していた。


いつものように、さっぱりと行動できない。


裏切れない。


「ZIGEN君はどう思う?」


プレデターが一人後ろに引いて

様子を眺めていたZIGENに

声をかけた。


「オオカミンが太ももフェチか否か」


「......同期の女の体をジロジロ見てた

時点で間違いなくそうだろ」


「おお、素晴らしい考察」


「よ、余計なことを言うな!」


プレデターが感心していた。


「そうだよ! 全く!

僕は悲しいよ!

女性の体をジロジロ観察してたなんて!

少しは今日のZIGENっちの活躍を

見習いなさい!」


「はい。すみませんでした!!!」


なら、もう少しだけ、こうしておけば

いいのではないか。

そう思えてしまった。

明日もある。


裏切るなら明日でもいい。


「確かに。今日のは凄かった。

やっぱgpexのチャンピオンは違うね」


「わ、私も驚きました。

流石プロだなって」


今はこの仲間の雰囲気を

楽しんでもいいんじゃないか。


このあまっちょろい奴等と。

この時間を少しだけ共有したい。

そう思えてしまった。


────────────────────


五日目。最終日。


昨日、5万コインを手に入れた

俺たちは一位に躍り出た。


その後も他のパーティーの追随を許さない

ようにパーティーの仲間達と

一緒にコインを集めた。


共にダンジョンに潜り、

クエストをクリアして、探索をして、

釣りをして、農業をして、

ギャンブルもした。


このゲームでできる遊びは

ほぼ網羅したと言ってもいい。

それくらい遊んだ。


最初はどうなることかと思ったけど、

いろんな個性を持った癖の強い

仲間ができた。


たった数日だったが、この拠点を

本当の家のように使っていたし、

パーティーの仲間が家族のようだった。


「おし。これでいいかな」


時間はゆっくりだが過ぎていて、確かに

終わりの時間が迫ってきている。


「うん! ばっちりだよ! オオカミン!

プレっちはもうちょっと右かな」


「こうか?」


「うん! そうそう!

ZIGENっちはそこに照明付けてくれる?」


ZIGENは返事することはなかったが、

指示通りに照明を設置した。


まだ夕暮れでライトは必要ない。

このライトは夜に行われるライブで

使うのだ。


そのライブに立つのは歌手のミルミルさん。


なんとそれをしたいと言い出したのは、

あの消極的なミルミルさん本人なのだ。


それを聞いたときは皆驚いていたが、

歌手の歌を聞きたくない人はいない。


プレデターさんが全体チャットで

告知したことで多くの配信者たちが

続々と集まってきている。


緊張するからこういうライブは

苦手と言っていたのに。

どうしても歌いたいのだそうだ。


「あのミルミルの生歌聞けるんだって!」


「やばっ! めっちゃ楽しみ!」


会場も作り終わって、

多くの人々がざわつき始める。


あとはミルミルさんを待つだけだ。


にしても、ミルミルさんどこだ?


「オ、オオカミンさん!」


背後から声をかけられて振り向くと、

そこにはミルミルさんが立っていた。


「準備できましたか?」


「は、はい!」


「もしかして、緊張してます?」


「......正直に言うと、凄く緊張してます。

本当は今すぐに逃げ出したいくらいに。

でも!!!! 今日は逃げません!

頑張って歌います!!

だから!!! オオカミンさん!」


「はい」


「私の歌......聴いていてください」


ミルミルさんの声は震えていた。

本当に緊張していて、怖くて、

逃げたいのだろう。それが伝わってくる。


でも、それでも歌うのは、

それなりの理由があるからなんだろうな。


「もちろん、楽しみにしてますね」


そう答えると、彼女はゆっくりと

会場に向かった。


ミルミルさんの姿が現れると

観客席が湧き立った。


「......は、初めまして!

ミ、ミルミルです!」



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。


















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る