第44話 奇策

10分が経過した。


「ごめーん。

僕何もできなかったよ......」


「わ、私もです」


「おじさんも一斉攻撃されて

無理だったよ。いや~歳は

取りたくないねぇ」


撃破されたのは30人中23人。

残るはマリアとその仲間四人と、

オオカミン、そして彼を死ぬ気で

守っているZIGENの七人。


2対5の不利な状況だった。


「やっぱあのjpのプロゲーマーが

四人にいるのはキツいよ。

ZIGEN君の弱点も理解してる感じだしさ」


戦況を観客席から見守りながら

プレデターはそう言う。


実際、ZIGENは同じ事務所に所属している

プロゲーマー四人に追い込まれていた。


「おい、ZIGEN出てこい!」


「もうお前の負けだぞ」


「我ら、聖母マリア様から

聖なる力を授かりし者。

貴様が勝てるはずなどなかったのだ!」


「それ恥ずかしいからやめろって」


壁の裏に隠れたオオカミンと

ZIGENにそう告げるのたった。


────────────────────


「くっそ......あいつら......」


今のZIGENは必死にこの打開策を

考えているのだろう。


「なぁZIGEN」


「ぁ? んだよ。今色々と考えてんだ。

静かにし」


「何でお前はそんなにこの配信者祭で

優勝したいんだ?」


「......は? そんなの賞金が欲しいからに

決まってるだろ」


「その賞金何に使うんだ?」


「そんなことなんでてめぇに

話さなきゃならねぇんだよ」


「俺にはこの絶対絶命の窮地を

脱する策があるって言ったら?」


「は?」


「内容次第でその策を教えてやるよ」


「......なんでそんなに

知りたいんだ」


「そりゃ気になるだろ。

この配信者祭って配信者達の人脈を

広げるのが目的だろ?

それが今後の配信人生に繋がるし。

だから、誰も賞金目当てで

この配信者祭に臨んでない。

けど、お前は賞金が目当てだ。

優勝に対する執念も他の人より段違いだし。

なんでそんなに賞金が欲しいのか純粋に

興味がある」


「......」


「教えてよ。

早くしないと俺ら負けるぞ」


「ちっ......」


ZIGENは敵に牽制射撃をしながら、

簡潔に説明した。


「なるほどね。

妹の学費のためにか......

お前けっこういい奴なんだな」


「黙れ」


なりふり構わずに人の拠点を

襲いまくってたのはそういう理由か。


態度も悪いし、嫌な奴ではあるが、

悪い奴ではないらしい。


なら、あの策をする

価値もあるか。


俺もニノ達と優勝したいし。


「お前のお金が欲しい理由が

豪遊したいからっていう

理由じゃなくてよかった」


「は? 何言ってんだお前」


「この策をやってもいいって

言ったんだよ。

それなりにリスクがあるからな。

豪遊したいからっていうしょうもない

理由だったらやらなかったよ。

でも、お前の目的を聞いてやる気になった。

その妹のために、俺は嫌われ者になるよ」


「......お前まじでさっきから

何言ってんだ?」


「今から俺がマリアさんの

ファンボ達の注意を惹き付ける」


「ファンボ達ってあいつら四人のことか?

どうやって」


俺は作戦をZIGENに教えた。


「お前くずだな」


彼は心なしか面白そうに言ったのだった。


「準備はいいか?」


「ああ」


ZIGENは銃を構えて、

いつでも飛び出せるように

準備した。


それを見て、俺は息を大きく吸い込んだ。


「聞けええええええええええええ!!!」


人生で一番と言ってもいいくらい

声を張り上げる。


おそらく、相手の注意を集めるのは

リーダーである俺が囮として

壁の外に出るのが一番効果的だろう。

だが、それで死んだらダメだ。


だから、壁を隔てたこの状態で四人の

注意を惹き付けなければならない。


つまり、言葉だけで彼らの

意識を集めるのだ。


しかし、一度挨拶をした程度の彼らの

注目を集めるのは至難の技。


ただ、それは俺と彼らに共通点がなかった

場合に限る。


俺は見つけたのだ。


あの少しの間で、彼らと俺の共通点を。


「マリアさんガチ恋勢に告ぐ!!!

俺はマリアさんの同期であり!

俺はマリアさんから溢れでる

母性が凄く好きだ!!!

心の中でいつもママと呼んでいる!!!

きっと君らもそうだろう!!!」


きっと、これを聞いている人達は何を

言っているんだと思っているだろう。


マリアさんを聖母として崇めている

相手四人を除いて。


「そんな君らに!

マリアさんの同期である俺が!

同期であるが故に知っている

情報を提供する!

それはマリアさんの

スリーサイズだあああ!!!!」


「聖母マリア様のスリーサイズだと!?」


その宣言は彼ら四人の注意を

惹き付けるのに十分だった。


「いくぞおおお!!!

まずバストは」


直後、壁から飛び出たZIGENが

一人を仕留めた。


「で、でかい......」


「ありがたや......ありがたや」


しかし、バストのサイズに

衝撃を受けている彼らはそれに

気がつかない。


「オー君!?」


マリアさんのドン引きしている

声が俺の心を抉るが、俺は更に続けた。


「次にウェスト!!!

ウェストは」


今度は二人仕留めた。


残されたあと一人はそれに気がつかない。


「最後にヒップ!!!!

サイズは」


「うう......なんと......我が聖母様の

素晴らしきスタイル......我......

この世に一片も悔いなし」


それが最後の台詞だった。


「仕留めたぞ。オオカミン」


「お、ナイス」


俺は壁から出てマリアさんの元に

歩み寄る。


「オ、オー君......」


「ごめんなさい、マリアさん。

でも、これが俺の戦い方なんです」


「クズだな」


隣にいたZIGENが呆れていた。


「ま、まぁでもあれ全部適当なんで、

許してください」


「適当かよ」


「流石に同期でもスリーサイズ

知ってるわけないだろ。

見た感じで予想しただけだよ」


「てことはオー君、私の体そんなに

ジロジロ見てたんだ」


ギクッ


「そ、そんなことな」


「じゃあ私も反撃しちゃお」


「へ?」


「オー君はキッチンの

食器棚のところに!!!

えっちな本隠してまーーーす!!!!」


その言葉に背筋が凍った。


え......え、え!?

な、なんで知って


俺は思い出した。


ネオさんとマリアさんを

自宅に招き、共にサンドイッチを

食べたのを。


そういえばあの時、皿が足りなかったから

俺は食器棚から皿を取り出した。

それを見ていたのであれば、

食器棚の場所を理解しているはず。


何より言っていたではないか。

モリオカートで盛り上がってる途中に

マリアさんが、


『ちょっと私お腹空いちゃった』


『それなら、冷蔵庫に我輩が

買ってきたケーキ入ってるわよ』


『ネオンちゃんそれ食べてもいい?』


『ええ、どうぞ』


その後、食器棚から皿を取り出して、

ケーキを食べていても不思議じゃない!


まさか......あのとき......あれを


「そしてオー君は!!!!!!

太ももフェ」


俺はマリアさんを射殺した。


勝者は歓声を受けるのが普通だ。


うぉーーーー! と観客席が

盛り上がるはず。


なのに今は、闘技場全体が

静まり返っていたのだった。




────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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