第43話 プロゲーマー

四日目。時刻は12時。


闘技場にはこの配信者祭に参加している

全ての配信者達が集まっていた。


そのうちの30人がこれから

行われる大会の出場者達。


他の者は観戦側だった。


「私たちは出場しなくても

よかったのか? ネオ」


「ええ。参加したかったけどうちには

FPSが得意な人がいなかったから、

出ても仕方なかったわ。

今日は見て楽しみましょ」


「そうだな。そういえば、ネオの同期は

出場するのだろ?」


「マリアね。たしかプロゲーマー

四人を引き連れて出場するらしいわよ。

クロネの同期はどうなの?」


「紺々キツナのチームは

出場しないそうだ。

同じくFPSができる仲間が

いなかったらしい」


「やっぱり出場するには

プロゲーマーとかがいないと

厳しいみたいね。出場チームも

6チームだけだし」


そんなことを話していると、

出場チームが列になって闘技場の

フィールドに入場してきた。


(あ、いた。マリア頑張って!)


口に出して言うのは恥ずかしいので

心の中でネオは応援する。


(他には......あの人も知ってる。

あっちの人も。凄い......皆有名な

プロゲーマーばかり。

えっとあの人は......ん?

見間違いかしら。

遠くだから、一瞬あの人の名前が

オオカミンって見えたけど)


「ネオ! 見ろ!

あれオオカミンではないか!?」


隣のクロネの言葉でそれが確信になった。


「狼!?」


(なんで狼がこの大会に!?

しかも一番前ってことはリーダーって

ことでしょ!? あの狼が......)


自分の知っているオオカミンは

リーダーになるようなタイプじゃない。

なのに、一体なぜ......


「ねぇあの後ろにいるのってドリガルの

ニノさんじゃない?」


「おい! あそこにいるの

プレデターさんだ!」


「うわっ! あのミルミルって

今期のアニメの主題歌歌ってた人!?」


「やば! ZIGENもいる!

gpexのチャンピオンじゃん!」


そんな周りの配信者達の言葉に

ようやく気がついた。


オオカミンの背後に並ぶ

とんでもない名前を。


(柊ニノはまだ分かるけど

プレデターさんもいるの!?

ど、どうして!? 何があったの!?

しかも、あの歌手で有名なミルミルも

いるし、今回の配信者祭で

色々話題になったZIGENもいる......

あのメンバーを率いてるのが狼ってこと?)


ネオは己の目を疑った。


「あそこのチーム、リーダーが

プレデターさんじゃないってやばくね?」


「あのオオカミンって人何者だよ」


「この前話題になってたよね。

柊ニノさんと絡んで」


「にしても、あのメンツ豪華すぎる......」


本当に周りの言っている通りなのだ。


豪華すぎる。


リーダーを除いて、他が超が付くほどの

有名人なのだ。


そんな彼らのリーダーである

オオカミンに皆の注目が集まっていた。


────────────────────


「皆君のこと噂してるね、オオカミン」


「吐きそう......」


「しっかりしなよ。

俺たちのパーティーの総登録者数1000万

超えてるんだよ?

そのリーダーなんだからさ」


「ぐはっ.....プレデターさん。

それ言うの止めてください......」


「だ、だ、大丈夫ですよよよよよ!

ぜ、絶対に! 勝てますからあああ!」


「あ、ありがとう。

ミルミルさん一回深呼吸しようか?」


昨日、突然仲間ができた。

仲間と呼べる仲ではないが。


ZIGENは列の最後で彼らのやり取りを

眺めていた。


『ZIGENも仲間を探してるんだろ?

今から四人探せるの?』


そのオオカミンの言葉に

何も言い返せなかった。


だからというわけじゃない。


ZIGENにはどうしても配信者祭で

優勝しなければならない理由があった。

そのためには、この大会で勝って

五万コインを手に入れる必要がある。


故に、今回は一時的に入ったまでだ。


(この大会で勝ったら、

このパーティーを抜けて

5万コインを奪ってやる)


そんな企みなどしらない呑気な四人。


昨日も今朝も彼らは何も警戒していない

様子で話しかけてきた。


(相変わらず......あまっちょろい奴等だ)


「次に紹介する出場チームはこちら!

ボッチーズ!

各界隈の大物達が集った超豪華メンバー!

それを率いるのはまだ駆け出しの

Vtuberオオカミン! 一体彼らはどんな戦いを見せてくれるのか非常に楽しみです!」


ボッチーズ。

プレデターを除いて、他の四人がほぼ

ボッチだったからという理由でその名前を

付けたらしい。


「それではこれより試合開始です。

ビーーーーー!」


六人チームがそれぞれ

所定の位置に付いた後、

運営のグランドがフザーを鳴らした。


試合が開始され、それぞれのプロゲーマーが

己のリーダーを守るような陣形を作る。


その様子を遠くで窺いながら、

ZIGENもオオカミンの前に出た。


(こうやって銃を構えるのも

久しぶりだな)


やはり、一度は世界の頂点に

立ったことのある者。


血が騒いでしまう。


(最初は......楽しかったのにな......)


いつからだろうか。

楽しくなくなったのは。


いつの間にか、銃を握ると

あの声がこだまするようになってしまった。


今も聞こえる。


『お前なんていない方がよかった』

『生むんじゃなかった』

『お前、もう学校来んなよ』

『死んだ方が皆喜ぶぞ?』

『頼むから私の子供だって

人に言わないで。恥ずかしいから』



学校の教師や友人、家族に

何度そんな言葉を言われたことか。


頭が悪くて、運動神経もよくなかった。

容姿も醜い。

どこに行っても嫌われてた。

自分の親が幻滅した目で見てくる。


「おおっと!

ご覧ください! かつてそのエイムで

世界にその名を轟かせたプレデターが、

今話題の若手のプロゲーマーたちと

戦っております」


戦っていると言うよりも、

ほぼ無双に近い。

プレデターの前に他の

プロゲーマー達が苦戦していた。


その様子に観客席から歓声が上がっている。


(......)


この歓声があのときの喜びを

思い出させてくれる。


gpexでチャンピオンになったあの日。

今まで冷たい言葉しかかけて

もらえなかったZIGENを、

初めて世界が認めた。

称賛してもらえた。


今までの努力が報われた瞬間だった。


何より嬉しかったのは、


『お兄ちゃんかっこよかったよ!』


唯一の味方だった妹の奈々子が

喜んでくれたときだった。


奈々子は昔から、自分に対して

嫌味や貶すような言葉を決して

言わなかった。


奈々子がいてくれたから、

自殺を何度も止めれた。


FPSを始めたのも、奈々子が

誕生日プレゼントでゲーミングPCを

買ってくれたから。


奈々子がかっこいいって喜んでくれたから、

プロになれた。


この称賛を受けれたのは全て、

奈々子のおかげだった。


奈々子の幸せが、何もないZIGENに

とって唯一の幸せなのだ。


自分のことはどうでもいい。


『奈々子。お前、将来の夢とかあるか?』


『え? んー、あるにはあるけど......

たぶんなるのは無理かな』


『なんで?』


『大学に行かないといけないの。

先生になりたいんだけど、

教員免許取るには短大とか大学出てないと

行けないんだって』


ZIGENの家は貧乏だった。


だから、ZIGENは高校の

学費を出してもらえずに

中卒のまま。

今はバイト代と大会で得た賞金や

配信で稼いだ収益で何とかやりくりを

している状態。


対して、妹はバイトと微小な親からの

お金で高校に通えてる。


gpexで優勝したときは

それなりに人気が出て配信での

収益もそれなりに貰えていたのだが、

その人気は直ぐに衰退した。

勝てなきゃゴミなのだ。

それがプロゲーマーというもの。

大会で負ければ負けるほど、

人は離れていく。

まるでそれが昔のように人から

冷たい言葉をぶつけられてるようで、

次第にfpsが嫌いになってしまった。


やがて、

プロゲーマーで食っていくのは

不可能だと痛感した。


だから、今のZIGENに

妹の大学の学費を払える余裕などない。


むしろ、これからもZIGENの人気は

衰退していく。

それはZIGENが痛いほど理解していた。

結局、自分のリスナーは

gpexをしている俺を見に来ている

のではなくて、俺がやっているgpexを

見に来ているのだ。


きっと、数年後には配信の収益も

ほぼなくなる。そしたら、

バイトだけで何とか

生きていかなくてはならない。

就職も厳しいだろうし。



言ってやりたかった。

俺が奈々子の学費を払うよって。


お前だけには幸せになってほしいから。


そんなときに配信者祭のオファーが来た。


本当はこんな大会なんて

出るつもりはなかった。


馴れ合いなんて余裕のある恵まれた

奴等がするもの。

あまっちょろい奴等と関わる時間が

勿体無い。


けど、所属しているjpから出ろと

言われては逆らえない。


めんどくせぇなと思いながら、開会式の話を聞いていたZIGENはこの配信者祭に

出れて幸運だったと確信した。


(優勝賞金......500万)


これなら、奈々子の学費を払える。


奈々子は高校が終わった後、

夜の10時までバイトをして、

深夜の1時まで勉強している。

友だちと遊ぶのも我慢して。


きっと辛いはずなのだ。

なのに、奈々子はいつも笑顔で

接してくれる。


報われなきゃいけないんだ。

奈々子は。


大学に通って、質の良い勉強をして、

資格を取って、教師になって、

なに不自由なく暮らすべきなんだ。


他の奴等なんてどうでもいい。

これからの自分のこともどうでもいい。


例え、全ての配信者から嫌われようが、

ネットで炎上しようが。

そのせいでこれから先、配信者として

収益を得られなくなってもいい。


『奈々子。

お前もう俺と話すな。

俺の妹だって知られたら友だちに

いじめられるぞ』


(ずっと俺は辛い人生でもいい)


『嫌だよ。

だって、私はお兄ちゃんのこと

好きだもん。

他の人が何て言っても、

私はお兄ちゃんが本当は優しい人だって

分かってるから』


(奈々子が笑ってくれるなら)


フィールド内にいるのは6チーム。

そんな中でも特に注目を浴びていたのは、

ZIGENとプレデターがいるボッチーズ。


彼らを真っ先に倒さないと

優勝できないのは他の5チームは

理解していた。

だから、ボッチーズvsその他の

形になってしまうのは仕方がなかった。


「くそっ! オオカミン!

そっちに敵が言ったぞ!」


全線にいたプレデターが叫んだ。


流石の彼も全員を一度に相手に

できなかったようだ。


プレデターの隙を突いて抜け出した

プロゲーマー達がリーダーのオオカミンに

迫る。


その直後だった。


フィールド内に銃声が響き渡った。


「おい、オオカミン」


皆の注目が一点に集まった。


「お前、絶対死ぬなよ」


世界が認めた天才プロゲーマーが

オオカミンの前に立つ。


迫ってきた敵を全て蹂躙して。


「俺は何としても優勝しなきゃ

ならねぇんだよ。

死んだら許さねぇぞ」



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。




























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