第41話 コミュ障の仲間

朝起きてクエストに向かったときは、

まだ俺以外の誰もオンラインに

なってなかったが、ミルミルさんが

新しくパーティーに入って

拠点に戻った頃には二人とも

オンラインになっていた。


「ただいまー」


「あ、おかえり! 

というか、おはよー」


拠点に戻ると建物を増築している

ニノが迎え入れてくれた。


「オオカミン見てよ。

プレっちが新しくメンバーになったから

部屋一つ増やしたの!」


「おお! なんか豪邸みたいに

なってきたね」


「うん。いやー建築が楽しすぎて

僕止められないよ」


鼻歌を歌いながら、ニノは

更に新しい部屋を作っている。


「そういえば、

プレデターさんいないの?」


「プレッちならお仕事

行ってくるって言ってたよ」


「お仕事?」


「うん。これが俺の生き様だって。

まあ、マップの場所的に

ギャンブルしてると思うけど。

全く……許せないよね。

ギャンブルで金儲けしようなんて」


あ、これ俺に言ってますね。

昨日俺がこっそりギャンブル場

行ったの絶対バレてる。


「……あ!ニノ!

サプライズがあるんだけどさ」


こうなったら怒られる前に

ニノを喜ばせるしかない。


「え!? なになに!?」


昨日はプレデターさんのせいで

サプライズにならなかったけど、

ミルミルさんなら打ち合わせ

通りにしてくれるはず!


「新しい仲間だよ!

ミルミルさん! お願いします!」


俺がこう言うと外で待機している

ミルミルさんが入って来るという手筈だ。


「え!? 新しい仲間!?」


ニノの期待が爆上がりした。


それから十秒経ち、二十秒経ち。


「あ、あれ? ミルミルさん?」


入って来ないな。

マップには拠点の近くにいるの

表示されているから、

聞こえてるはずなんだけど。


「ちょ、ちょっと待ってて」


外に出るとミルミルさんが

固まっていた。


「ミルミルさん?」


「……や、やっぱり私無理です」


「え?」


「中に入れません」


「な、何でですか?」


「わ、私みたいな陰キャが入ったら……

きっと貴方誰ですかって

空気にしてしまいます」


「ま、まあ最初なんですし、

そりゃそうなると思いますけど」


「それで皆さん優しく

迎え入れてくれると思うんですけど、

きっと私はそれに上手く

対応できなくて、絶対変な

空気にしちゃいます」


「いやならないですよ」


「なります。そして、陰であの人

入ってから部活の空気

悪くなったよねって陰口言われるんです」


「いや、言われないですよ。

ていうか、部活じゃないんで。

もしかしてそれって実体験ですか?」


「……うう……頭が……」


この人とんでもないレベルで

コミュ障だな……

辛い過去を背負ってやがる……


「俺のパーティーの人達は

そういう方々じゃないんで

大丈夫ですよ。ほら、入りましょ」


「……私が入ったことで皆さんに

迷惑がかかるんじゃ」


「何してんの? お二人さん」


そのときだった。


どうやってミルミルさんを

ニノさんに会わせようかと

苦悩していたタイミングで、

プレデターさんが帰宅した。


「あ、プレデターさん。

ちょうどよかった。

こちら、新しい仲間のミルミルさんです」


「おお! 

さっきパーティーメンバーが

増えてたからもしかしてって

思ってたけど。

まさか、あの有名な歌手を

仲間に引き入れるなんて。

やるな。オオカミン。

よろしくね。ミルミルさん」


入口でぶつぶつ不安がっていた

ミルミルさんにプレデターさんは

声をかける。


ミルミルさんが再び固まった。


「ミ、ミルミルさん?」


声をかけても返事がない。


これは後で知ったのだが、このとき

ミルミルさんは、俺の仲間が

プレデターさんだと知って、

恐怖で言葉が出なかったそうだ。


彼女がようやく声が出せるように

なったのはそれから十分後。


「プ、プレデターさんは私のこと

ご存じなんですか?」


「おう。おじさんあんま

歌手とか分かんないけど

ミルミルさんは知ってるよ。

アニソンも歌ってるでしょ。

聞いたけどよかったよ」


こんな感じでプレデターさんが

褒めれば褒めるほど、ミルミルさんは

声を出せるようになっていった。


「えへ、えへへ……

そ、そんなこと……えへへ」


たった数分でこのミルミルさんの

扱いを心得てしまうなんて、

流石はベテラン配信者。


「ほらね?

きっともう一人の仲間も

プレデターさんみたいに

受け入れてくれますよ。

ミルミルさんも有名な

歌手なんですから、

誰この人って空気にはならないです」


俺もすかさず続いた。


「えへへへ、

有名だなんてそんなことないですよ。

へへへ」


と言いつつも、

今度はミルミルさん自身から

拠点の扉を開けた。


「こんにちは! 初めまして!

僕柊ニノっていいます!」


このゲームはオープンボイチャだから

近くにいるニノに今までの会話は

筒抜けのはず。


やっと来た~と待ちくたびれた様子で

ニノはミルミルさんを迎え入れた。


「こ、こ、こんにちは!

わ、わた、私! ミルミルです!

こ、これからよろしくお願いします!」


おお、よかった。

今度はしっかりと挨拶できた。

相手が女性ってのもあるのだろうか。


「こちらこそよろしくね~!

やったぁ! 女の人だ~

ミルミルさん声可愛くて癒される~」


そのニノの言葉に、

ミルミルさんが悶絶してる声が微かに

聞こえた。


「ごめんね。昨日はおじさんが

仲間入りして」


隣にいたプレデターさんがぼそっと言った。


「おじさん。ギャンブルばっかしちゃ

ダメだよ。次は僕本気で怒るからね」


「嫌だああ! おじさんはギャンブルが

生きがいなんだあああ!」


と、プレデターさんが泣き真似した。

この二人昨日知り合ったばっかなのに

随分仲良くなったな。

やっぱ超人気配信者同士、

波長みたいなのが合うのだろうか。


「オオカミンもだからね?」


「あ、はい。二度と行きません」


やっぱりバレてました。


「全く......うちの男二人は......

そういえば、ミルミルさんって

この三日間は何してたの?」


「あ、えっと主に討伐系のクエスト

やってました」


「え!? てことは強いの!?」


「めっちゃ強いよ。

さっきは何度も俺のこと助けてくれたし」


「えへ、えへへへ。

強いだなんてそんなことないですよ」


「なら、これで戦闘系のスキルを

上げてた仲間も入ってくれたから、

討伐クエストとかも行けるね!」


ニノは嬉しそうに今日は何をしようかと

今後の予定を考えるのに夢中だった。


「可愛らしい人ですね。ニノさんって」


「ですね。

ほら、いい人だったでしょ?」


「はい。ニノさんもプレデターさんも

本当にいい人で......ここなら上手くやって

いけそうです」


ミルミルさんがそう言ってくれて

安心した。


いやー、ぶっちゃけミルミルさんが

コミュ障すぎるから彼女が溶け込めるか

不安だった。


けど、これなら


「それに私柊ニノって名前をどこかで

聞いたことがある気がします」


あ、まずい。


「え、え?そうなんですか?

気のせいだと思いますけど。

ね? プレデターさん」


すかさずベテラン配信者のプレデターさんに

助け船を求める。


「いやいや。だから、

柊ニノの名前を知らない方がおかしいよ。

世界一のVtuberだよ? 彼女」


俺はそのとき何となく理解した。

この人はいい人ではあるのだが、

どこか楽しさを求めている。

その場をもっと面白くさせようと。


昨日、無名配信者の俺をリーダーに

したのも然り。


柊ニノがとんでもないレベルで有名なことを

ミルミルさんが知ってしまうと萎縮するから知らせない方がいいと絶対理解しているのに、こうやってぽろっと言ってしまうのも。


全ては配信を面白くさせるため。


「......」


これも後で知ったのだが、

ミルミルさんは即座に柊ニノとネットで

検索したそうだ。


そして、彼女がニノと再び話せるように

なるまで三時間という時間を

要したのだった。


────────────────────


「何やってんですかプレデターさん!」


「ごめんごめん!

まさかこんなにミルミルさんが

話せなくなるなんて思わないだろ?」


まぁまだ知り合って数分しか

経ってなかったし、無理もないか。


「キャハハ! でも、こうして

ミルっちと仲良くなれたし、

僕はよかったよ?」


それは俺とプレデターさんが三時間

フォローしまくったからである。


おかげで、ニノがミルっちとあだ名で

呼んでも問題ない関係にまで

なることができた。


「ねぇ? ミルっち」


「はい! 私もニノさんとお友だちに

なれて嬉しいです」


こうしてミルミルさんが幸せそうに

このパーティーに溶け込んでいるのを

見ると本当によかったと思える。


俺は食卓を共に囲んでいる仲間たちを

見ながら、ニノの作った食事を食べていた。


普通にならゲーム上だし、こうして

リアルのように食卓を囲む必要もないのだが、ニノが家族みたいになりたいからと

言ったのでこうしている。


けど、こういうのも悪くない。


「あ、そういえばオオカミン。

大事なこと言うの忘れてた。

14時になったら闘技場に

行ってきなよ」


「闘技場?」


「プレっち。まさかオオカミンに

怪しい仕事させようとしてるんじゃ」


「違う違う!

明日、ビッグイベントがあるんだよ」


「ビッグイベント?」


「そう。なんでもパーティーで出場する

大会だって。競技内容は今日の14時に

説明があるらしい。

パーティーのリーダーはその説明会に

出席してエントリーするらしいよ」


「大会ですか......」


「まぁリアルクラフトの中でできる

競技だから限られてるけどね。

とりあえず、行ってきな。

この配信者祭で優勝したいならその大会で

勝つのは必須条件だよ。

その大会の優勝賞金は5万コインだからね」


『5万コイン!?』


俺含む三人が驚いた。


今の一位のパーティーのコイン数が

20000コインくらいだから、5万コインが

あれば最下位に近い俺たちでも

逆転できる。


よかった......人望が無さすぎるのと、

炎上したことで随分パーティー仲間を

集めるのが遅れてしまったから

焦っていたけど、まだチャンスは

あるようだ。


「オオカミン! これ勝つしかないよ!」


ニノが力強い言葉で言ってくる。


「うん。この大会出よう」


そんな俺たちの様子を見ていた

プレデターさんがポツリと言った。


「そういえば、俺とミルミルさんのことは

たま◯っちみたいに言うけど、どうして

オオカミンのことはそのままなの?」


「それはね。

ここではオオカミンが僕の夫だから」


「お、夫!?」


ミルミルさん史上最大の声が響いた。


「ハハハ! なるほど。

ここまで突き抜けてると、

もう炎上もしないよな。

なんとなく二人がこの前の炎上を

鎮火できた理由が分かったわ」


そう言って、プレデターさんは

愉快そうに笑う。


「いや......俺別に夫とかじゃ」


「え、昨日あなたって言ったら

喜んでたじゃん......」


「あーあ、泣かせちゃった。

おじさんオオカミン燃やしちゃうぞ」


「いや、プレデターさんならまじで

それができそうなんで冗談でも

やめてください」


「お、お、夫......オオカミンさんが夫......」


なにやらミルミルさんがぶつぶつ

言っていたが、よく聞き取れなかった。



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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