第40話 幸せ

「あった! これダイヤモンドですよ!

やりましたね! ミルミルさん!」


そう大喜びするオオオカミンだが、

ミルミルはそれどころではなかった。


(え......う、嘘......

この人って私が四年くらい前に遊んでた

あのオオカミンさん?

通話したことなかったから

確証はないけど、オオカミンって

名前の人そんなにいないし)


「どうしたんですか?」


「ふぇっ!? あ、い、いえ......

ダイヤモンド見つけられて

よかった......です」


「ミルミルさんがここまで

守ってくれたおかげですよ。

ありがとうございました。

早くギルドに行って報酬貰いましょう」


(ああ......どうしよう。

ギルドで報酬貰ったら私が

オオカミンさんと関わること

なくなっちゃう。もしかしたら、

この人があのオオカミンさんかも

しれないのに)


「あ、あの! オオカミンさん!」


「うお!? び、びっくりした。

どうしました?」


(聞かなきゃ! ここで聞かないと

一生後悔する!)


「オオカミンさんって四年くらい前に

のんびりファームっていう

オンラインゲームしてました?」


「してましたよ。

たしか......ネットの人と牧場とかやれる

ゲームでしたよね」


(やっぱり!

この人だ!

この人があのオオカミンさんだ!)


「何でそのこと知ってるんですか?」


「あ、あの! わ、私も」


その直後だった。


疾風の如く何かがオオカミンを

攻撃した。


「え!?な、なに!?」


「オオカミンさん! 大丈夫ですか!?」


「大丈夫ですけど.....やべ!!

HPがあと3しか残ってない!」


「えええ!?」


(ここでオオカミンさんが死んだら

たぶん彼の拠点にリスポーンするから、

もう私は彼と会えないんじゃ......)


ミルミルは直ぐに鞄から

回復アイテムを取り出す。


「ぜ、絶対に死なないでください!」


(そ、そういえばオオカミンさんさっき

誰に攻撃されたの?

モンスターはもう全滅させたはずなのに。

他のプレイヤー?

暗闇で何も見えない......)


オオカミンが回復アイテムを飲んでいる間、

ミルミルはライトを取り出して辺りを

照らした。


「お、お前は!」


正体を現したプレイヤーに

オオカミンが驚く。


ZIGEN


そのプレイヤーの上には

そう表示されていた。


(この人ってたしか昨日凄く炎上してた

配信者じゃなかった?

他の配信者の拠点を荒らしに

荒らしまくって。それで運営側に

ペナルティを食らったって聞いたけど)


「ちっ......殺せなかったか」


ZIGENは舌打ち交りにそう言った。


「お前昨日はよくも俺の拠点を

潰してくれたな」


「誰だよ。

俺はお前みたいなやつ知らねぇぞ」


「昨日、ニノが頑張って建てた

拠点を破壊しただろ!」


「たかが拠点壊されたくらいで怒んなよ」


「たかが拠点だと!?」


「んなことより、

俺にダイヤモンドよこせよ。

俺はそいつが欲しいんだ」


「......そ、そんなことしたら......

また炎上すると思いますよ」


ミルミルは恐る恐る言った。


「炎上? ミルミルさん。

この人炎上したんですか?」


「はい。人の拠点を

荒らしまくったかららしいです。

それで運営側からペナルティも受けたとか」


「ああそうさ。

拠点を襲って奪ったコインを

全部没収だとよ」


「お前......それは炎上するだろ。

没収されるのも当たり前じゃん」


「は? 拠点を襲うのは

ルール違反じゃねぇよ」


「ルール違反じゃなくても、

マナーってのがあるだろ」


「マナー? はっ!

あまっちょろいこと言いやがって。

これだから絵畜生は」


その言葉にミルミルはヒヤッとした。

この人はヤバイ。

モラルとか配信者としての自覚がない。

多くの人に常に監視されているということが

理解できていないのだ。


「いいか? お前らが皆と仲良しこよし

してコインを稼ぐのは勝手だ。

だが、俺はそんなことしねぇ!

ルールの範囲内であれば、何だってする。

賞金も名声も知名度も、勝者にしか

与えられないんだよ。勝てなきゃゴミ!

たとえ、ルールに従って、

正々堂々やっても、負けたやつは

いなかった者として扱われる!

存在していたことすら認知されない!

それがプロゲーマーの世界だ!

お前らみたいなあまっちょろい界隈を

見てると虫酸が走る!」


ミルミルには少しだけ、

彼の言っていることが分かった。


ミルミルも歌い手を始めたばかりの頃は、

なかなか動画を視聴してもらえなかった。

知名度を上げようとして、

多くの歌い手が出演するライブに出ても、

人気の歌い手を輝かせる影のような

扱いを受けた。


何度も挫けそうになりながら、

何度も何度もライブに出演して、

動画を出して、ようやく認知してもらえた。


競争の世界とはそういうもの。


プロゲーマーの世界なら

もっと厳しいのだろう。


けど、


「でも、それでVtuberを

馬鹿にしていいわけじゃないと思います!」


こんなに声を張り上げたのは

久しぶりだった。


そんなことができてしまうくらい、

今のミルミルは憤っていた。


「オオカミンさんを馬鹿に

しないでください」


「ミ、ミルミルさん?」


オオカミンは何でこの人がこんなに

自分を庇ってくれるのか分かって

いなかった。


「あ、謝ってください。

オオカミンさんに謝ってください!」


「うるせぇ! 俺はコインがほしいんだ!

さっさとそのダイヤモンドを

渡しやがれ!」


ZIGENは聞く耳も持たずに突進してきた。


それは今の配信者達の中でも抜きん出て

素早い動作だった。

勿論、プロゲーマーとしてのセンスもある。

だが、一番の理由は彼が今までずっと

一匹狼でモンスターたちと戦ってきたから。

だから、こんなにも戦闘スキルが高いのだ。


しかし、それ以上に戦闘スキルを

上げていた人がいた。

彼女は彼のように故意で一日狼を

していたわけじゃない。

コミュ障だからぼっちだったというだけ。


だから、彼女は知らなかった。

自分がいつの間にか最強に

なっていたということを。


素早いZIGENでも逃げ切れない斬撃が

ミルミルから放たれる。


「なっ!?」


それは一撃だった。


目の前からZIGENが消し飛んでしまった。


(た、倒せた......)


ほっと安堵してミルミルは

後ろを振り返る。


「大丈夫ですか? オオカミンさん」


そこにはオオカミンの死体があった。


「ええええええええええええええ!?」


ミルミルはオオカミンと

パーティー仲間じゃなかったことを

ようやく思い出した。


つまり、オオカミンも攻撃を受けるのだ。


「ど、ど、ど、どうしよう!?

な、なんで!? も、も、も、もしかして......私剣を大降りし過ぎた!?」


ZIGENが回避できないように

広範囲で攻撃したから、隣にいた

オオカミンも巻き込んでしまったようだ。


キルログにはしっかりと

ミルミル kill オオカミン

と表示されている。


「私の馬鹿......せっかく......会えたのに......」


泣く泣くミルミルは地面に落ちた

オオカミンのバックから

ダイヤモンドを取り、

ダンジョンから脱出した。


「ああああ......これ......オオカミンさん

怒ってるよね......守ってあげなくちゃ

いけないのに......殺しちゃうなんて......

終わった......私の人生終わった......」


正直、それよりも、もうオオカミンと

会えないかもしれないという方が

不安だった。


(で、でもここにいたら会えるよね。

ダイヤモンドとか荷物取りに来るかもだし)


「ビーーー!

時間になりましたので

『ダイヤモンドを見つけ出せ』の

ミッションは終了します。

残念ながらダイヤモンドを

見つけ出した人はいませんでした」


思い出した。

これは時間制限ありのミッションで、

この間しか出現しないダンジョンだと。


ということは、オオカミンの

荷物は消滅した。

ミッションも終わったのでダイヤモンドを

手に入れても報酬は受け取れない。


チャットにも運営がミッション終了の

お知らせをしている。


(これってオオカミンさんが

ここに来る理由がなくなったんじゃ......)


ミルミルは彼の拠点の位置を

聞いておけばよかったと死ぬほど後悔した。


いや、聞いていても何しに

彼の拠点に行くのだ。


彼と一緒にいたのはあくまで

傭兵制度があったから。


ミッションが終わってしまったのだから、

もう彼と関わる理由がない。


理由がなければ声をかけることすら

できないのがぼっちというもの。


(帰ろう......

ここで来ない人を待ってても

惨めになる)


きっと今声を出したら涙声に

なっているだろうから、ゆっくりと

深呼吸をした。


(大丈夫......今日も含めてあと三日も

あるんだし、きっとまたどこかで会える。

もし、また会えたら殺しちゃって

すみませんでしたって謝ろう。

きっと、オオカミンさんなら

わざとじゃないって理解してくれる。

あと......できたら、私があのときの

ミルクだって言いたいな)


「ミルミルさん!」


そのとき、背後から声がした。


「あーよかった! まだいた!」


「オ、オオカミンさん!?」


振り向くと、装備も何も着けないで

パンツ一丁のオオカミンが立っていた。


「あ、すみません! 急いで来たので」


「い、いえ! それはいいんですけど......

さっきはごめんなさい!

オオカミンさんを殺しちゃって」


「え? ああいいですよ。

わざとじゃないの分かってますし。

てか、あれは隣にいた俺が悪いんです」


「オオカミンさん......」


「それよりもまだいてくれてよかった。

もう帰っちゃったのかと」


ミルミルははっとした。

もしかして、ここに来たのは

ダイヤモンドを取りに来たのではと。


そうなると、自分を殺した相手が

ダイヤモンドを持ってきてくれていると

思うのは必然。


「一応......オオカミンさんのバックから

ダイヤモンドだけ持って帰ってきました。

ごめんなさい。荷物が一杯でこれしか

持てなくて。あ、あともうミッションが

終わっちゃったのでたぶん報酬も

貰えないと思います」


「あ、そうなんですね」


「ごめんなさい。わざわざまた

来てもらったのに」


「いや、別にいいですよ。

ダイヤモンドのために

来たわけじゃないんで」


「え? じゃあ何のために」


「ミルミルさんって今どこかの

パーティーにいますか?」


その言葉に胸がかっと熱くなった。


(え......これって......もしかして)


「い、いえ! 入ってないです!

ぼっちです!」


「ほんとですか!

なら、俺のパーティーに入りません?」


昔から夢を見ることも、

高望みをすることもしてこなかった。


楽しみにしていると、結果的に傷つくことの方が多かったから。


だから、彼がオオカミンだと知ったときも、

同じパーティーになりたいという考えを

真っ先に打ち消した。


きっとそうならないって思った。


自分のコミュ障の部分をみたら

皆がいなくなってしまう。


この数日で何度もそれを経験してきた。


「わ、私なんかでいいんですか?

私たくさん噛みますし、何言ってるのか

分からないですし、挙動不審だし、

気持ち悪いですし」


「めっちゃ自己肯定感低いですね」


「す、すみません!」


「俺はミルミルさんと知り合ってそんなに

時間経ってないですけど、

そんなこと思いませんでしたよ?

むしろ、俺のこと庇ってくれて、

優しくて強い人だなって思いました。

だから、仲間になってほしいんです」


「仲間に......」


「はい。

あ、ミルミルさんがよければですよ。

どうですか?」


「なりたいです!!!」


それはミルミルが今まで発した声で

一番力がこもっていた。


「よっしゃ!!!

ありがとうございます!

ミルミルさん!」


「い、いえ!」


(ああ......どうしよう......)


「これからよろしくお願いします!」


「こ、こ、こちらこそです!」


(今......凄く幸せ)


こうして、オオカミンは四人目の

仲間をゲットした。



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。


















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