第39話 背中を押してくれた言葉

昔から一人でいることが多かった。


勇気を出して声をかけても

毎回変な顔をされるし、

一人きりでいる方が楽だったから。


友達と呼べるような人もいなくて、

家族だけが唯一話せる相手。


そんなミルミルには特技があった。

それに気が付いたのは、高校生のとき。

家族と初めてカラオケに

行ったときだった。

それまで一度もそういうキラキラした

場所に行ったことなんてなかったし、

行きたいとも思えなかった。

ただ、ひきこもり気味だった

自分を家族が外に連れ出そうとして、

仕方なく付いて行っただけ。


それがミルミルの人生を大きく変えた。


歌を歌い終わった後、

家族の方に顔を向けると

皆が目を点にして驚いていた。


「凄いぞ! 美瑠(みる)!」


「お母さん美瑠がこんなに歌が

上手だなんて知らなかったわ!」


両親がここまで自分を

褒めてくれるなんて初めてだった。


それからだ。

ミルミルが歌手になりたいと思ったのは。


【歌手になりたいってどう思いますか?】


そんな疑問を口に出せる友達はいなかった。

だから、昔やっていたオンライン

ゲームのネッ友にチャットで聞いてみた。


その頃にはまっていたオンラインゲームは

のんびりと皆で牧場を営めるゲーム。

だから、気の強い人もいなくて、

皆優しい人ばかりだったから

居心地が良かった。


『歌上手いの? ミルクさん』


その頃はミルクと名乗っていた。


【……分からないです。

けど、家族が褒めてくれたから。

私今まで家族に褒められたことなくて。

この先就職できないんじゃないかって

心配されてばっかりだったんです。

だから、家族が心配しなくてもいいように

家族が褒めてくれたこの歌を、

お仕事にしたいって思って......】


この人と知り合ったのは一年ほど前。

同じときにこのゲームを始めて、

たまたま同じ場所でリスポーンしたのだ。

そのときから声をかけてくれて、

それからずっと一緒だった。


【や、やっぱり今の忘れてください。

家族に褒められただけで歌手になれる

わけないですもんね。あはは......】


『ミルクさんって今16歳なんだよね』


「は、はい」


相手は確か三つ下の中学生だった。


『それならこれからじゃん。

そんな素敵な夢今から諦めちゃダメだよ』


【す、素敵な夢ですか?】


『うん。恥ずかしがることないよ』


【そ、そうでしょうか......

で、でも私家族の前で歌えても、

人の前で歌うのなんて無理です。

意味わからないですよね。

自分からなりたいって言ってるのに】


『それなら顔とか出さないで動画で

投稿すればいいと思うよ。

歌ってみたって動画』


【歌ってみた?】


『そう。動画なら人の前で

歌うわけじゃないし、コメントで

反響も貰えるから、

始めるならやりやすいと思う』


【なるほど......】


でも、やっぱり怖かった。

せっかく少しだけ手に入れた自信を、

ネットでヘタクソと叩かれて

ズタズタにされるんじゃないかって。


けど、今の自分が歌手として

デビューできたのは。


『きっとミルクさんの歌

聴いてみたい人たくさんいると思う。

俺もそうだもん。

いつか聴いてみたい』


この言葉が背中を押してくれたから。


『いつか聴かせてよ』


けど、その後のゲームの

サービス終了と共に、

その約束は果たせないままに終わった。


あの人は今どうしているだろうか。


ついにCDも出すことができた。


(たとえ、それが私だと分からなくても、

私の歌が届いていてほしい)


____________________


(どどどどどどどうしよう!?)


そして、今に至る。


(私のバカ! 緊張し過ぎてマイクが

遠くにあるの気がつかないなんて!

これじゃさっきまで無視してた

みたいになるじゃん!)


ミルミルは目の前にいる

配信者にマイクが遠くにあって

話してるつもりが声を拾っていなかったと

謝罪をしたが、噛み過ぎて何も

伝わっていなかった。


「いやいや俺の方こそすみません。

もっと早めに言っとけばよかったです」


そう笑って慰めてくれるが、

気を使わせてしまったことが逆に辛い。


「でも、さっきはありがとうございました。モンスターから守ってくれて」


「ひぇっ!? あ、い、いえ!

と、当然のことをしたまででしゅ」


(また噛んだ......でしゅって......

いたいキャラだと思われてる......)


「それにしてもミルミルさん

強いんですね」


「あ、は、はい。

ぜ、全部スキルポイントを

戦闘系のスキルにふったので」


(やった! 今のは上手く話せた!)


「戦うのが好きなんですか?」


「へっ!? い、いえ......そういうわけでは」


(い、言えないよ......コミュ障すぎて

仲間ができないから、一人で

生きていくために戦闘スキルを

上げたなんて......

あああ、どうしよう......

私が曖昧な返答したから沈黙が......)


「そうなんですね。俺は全くの逆で。

農業とかが好きなんで全部そっちに

ふったんですよ。おかげで、

今みたいに戦えなくて」


そう彼は笑って沈黙をかき消した。


(その笑いに気持ち悪い愛想笑いしか

返せない私......)


しかし、それすらも彼は気にも

止めていない様子だった。


「じゃあ改めてよろしくです。

ミルミルさん」


(不思議な人だな......

こんな私に優しく接してくれるなんて)


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


「緊張しなくても大丈夫ですよ。

俺もあんまり人付き合いが

得意な方じゃないんで。

リラックスしていきましょ」


(そういえば......あの人との出会いもこんな

感じだったな......

私は緊張してチャットも遅くて、

意味不明なことしか言っていなかったのに、

緊張しなくても大丈夫だよって

言ってくれた)


「あ、あの......!」


「なんですか?」


「貴方の名前を聞いてないので......

教えてください」


今思えば、あのときと

全く同じことをしていた。


名前なんてプレイヤーの上に

書いてあるのに、

緊張のし過ぎでそれすらも見落として、

彼の名前を訊ねた。


あのときの彼はこう名乗った。


『オオカミンだよ』


「あ、言ってませんでしたね。

俺オオカミンっていいます」




────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。



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