第37話 最強の仲間

「たぶんあのZIGENって人......

こういう感じで人の拠点襲って

コインを稼いでたんだね」


ZIGENが去ったあと、

呆気に取られていた

俺にニノが言った。


「ニ、ニノ......ごめん」


「ん?」


「せっかくニノが建てた拠点壊されて、

俺何も反撃できなかった......」


「キャハハ!

ずっと黙ってるから何かと思ったら。

そんなこと気にしなくていいよ。

壊されたなら、また建て直せば

いいじゃん」


そう無邪気に言ってくれるが、

やっぱり悔しかった。


頑張って建ててくれたのに。


絶対あいつには負けない......


俺はめらめらと沸き上がってくる

闘志を必死に抑えるように

深呼吸を挟んだ。


けど、コインを集めるために、あいつの

真似はしたくない。


だとしたら、今日と残りの四日間で

巻き返せるコインの集め方を探さなくてわ。


そうなると、


「やっぱそろそろ仲間集めないとだよな」


「僕もそう思ってた。

やっぱり仲間は五人いないと

上位に入れなさそうかも。

他のとこはどんどん五人パーティーに

なってるし、僕らも急がないとね」


「そうだよな。

なら、外に出て仲間に

なってくれそうな人探してくるか。

行こうぜ。ニノ」


「んー、そうしたいけど......

僕が一緒にいるとたぶん人が

逃げちゃうからやめとく。

僕はここで家を建て直しておくよ」


「......わかった。

俺がとびっきりの仲間を連れてくるよ」


「うん。楽しみにしてるよ。あなた」


「......もしかして、

俺を炎上させようとしてない?」


「キャハハ!

行ってらっしゃい!」


────────────────────


「ねぇお願いしますよ!

俺らのパーティー入ってください!」


「いや、僕らのパーティーに!

あと一人足りないんで」


「私たちのパーティーはどうですか?

今一人あいてますよ! 

プレデターさん!」


彼はこの界隈で最も人気者だった。


プレデター。

配信者では知らない人はいないほどの

知名度を誇り、皆の憧れの存在だった。


そんな彼が二日目を終えようと

しているにも関わらず、

未だに一人だった。


配信者祭があるたびに彼は招待され、

こういう仲間を組むタイプのゲームでは、

その人望の厚さから真っ先に

仲間を集める。


しかし、彼は一つ自分に

ルールを決めていた。


「君らとは前に

パーティーなっただろ!

だから、だめえええええ!」


それは過去に仲間になった人と

組まないということ。


配信を初めて10年以上。

今は仕事というより、娯楽として

配信業を楽しんでいる。

だから、相性の良い人とばかり

絡むんじゃなくて、新しい

出会いがしたい。

その方が撮れ高にも繋がることを

彼は知っている。


だが、10年も配信をやっていると

ほとんどの人達が顔なじみになる。


かといって、知り合いじゃない配信者は

配信者の最高峰である彼にパーティーに

なってくださいと頼めるはずもない。


故に、プレデターは孤立していた。


この二日間、出会いもなく、

ひたすらにギャンブルに打ち込むだけ。


(このままだとリスナーが怒りそうだし、

今回は知り合いのパーティーに入るか……)


そう諦めながら、コインを投入する。

この機械にコインを投入し、

1~20の番号を選択する。

その後、ルーレットが回り、

選択した番号とルーレットの針が

止まった番号が一致すれば、

投入したコイン×数字のコインが

貰えるというギャンブルだ。


「ああああ! また外れた!」


隣に座っている奴が発狂していた。


(ギャンブル初心者か?

さっきから20ばっか選択してるし。

こういうのは高い数字は中々

当たらないんだよ)


「ああああああああああああ!

終わった……ニノに殺される……

内緒でギャンブル行ったのばれたら……

絶対殺される」


(あほだな~この人。

見てて面白すぎるだろ。

名前は……オオカミンって人か。

最近炎上してた人じゃね?)


「持ち金なくなったん?」


暇つぶしに声をかけてみた。


「はい……これ仲間にバレたら

絶対殺されます」


「ハハハ。何でしたの。

ギャンブルしてみたかったん?」


「ま、まあ……ほんとは

別の用事あったんですけど、

ちょっと立ち寄ったらしてみたくなって」


「で、全財産消し飛んだと。

いくら消えたん?」


「ここに来る道中で物を拾ってそれを

売って手に入れたコインだったんで、

そんなにないですけど290枚です」


「それくらいなら大丈夫でしょ。

てか、道中で集めたなら内緒にしとけば。

バレないでしょ」


「……確かに!」


「ま、仲間が君の配信見たらバレるけど」


「……終わった……どうしよ……」


「ハハハ! 君面白いね」


「人の不幸笑わないでくださいよ」


「ごめんごめん。

それで本当は何するつもりで

ここに来たの?」


「あ! そうだ! それこそ

忘れて帰ったら

殺されるところだった!

俺! 今仲間集めてるんですよ!」


「へ~」


(いい出会いじゃないか。

この人面白いし、パーティーに

誘ってみるか)


「なら俺の」


「えっとプレデターさんって

言うんですね!

今パーティーに入ってますか?」


「……え?」


驚いた。まさか、初対面の人から

誘ってくれるなんて。

こんなの何年ぶりだろう。


「……入ってないよ」


「マジですか! 

あの今俺もう一人の人と

パーティーを組んでて、

仲間になってくれる人探してるんです。

もしよかったらなってくれませんか?」


このギャンブル場には多くの配信者がいる。


だから、自分達の会話は筒抜けだ。


「誰? あの人」


「プレデターさんを

パーティーに誘ったぞ!?」


そんなオオカミンの言動は

多くの配信者を驚かせていた。


普通は声をかけるのも恐れ多い

プレデターに、無名Vtuberが

パーティーに勧誘していると。


一方で、プレデターは。


「ハハハ。やっぱいい出会いじゃねえか」


「え?」


「いいよ。パーティーに入るよ。

その代わり」


「その代わり?」


「リーダーは君でお願いね。

後で俺に交代してって言っても

しないからね」


オオカミンはその意味が分からず、

はいと不審そうに返事をした。


____________________


パーティーの仲間できたし、

これニノ喜ぶぞ。


俺はウキウキ気分で直しかけの

拠点のドアを開けた。


「ニノ! 戻ったよ!」


「あ! おかえり! どう?

けっこう直ったでしょ?」


俺が仲間探しに出かけて2時間弱。

たったこの短時間で元通りと

言ってもいいほどに、

拠点は再生していた。


「まじで凄いよ。こんな短時間で」


「まあ、僕にかかればこんなの朝飯前よ。

それよりオオカミン?」


「え? 何?」


「君、ギャンブル場に

ずっといたけど……何してたのかな?」


ニノの声がこんなに恐ろしく

低くなったのを初めて聞いた。


「まさか、ギャンブルしてたんじゃ」


「してないしてない! 

ギャンブル場で仲間を集めるのに

苦労してさ。

いや~説得するのに苦労したよ!」


「この人ずっとギャンブルしてましたよ~」


背後からプレデターさんが

ひょいっと入って来る。


「ちょ! サプライズにしたいから、

俺がいいって言うまで外で

待っててって言ったじゃないですか!

て、てかニノ! 違うんだ。今のは」


「ギャアアアアアアアアア!

プレデターさんだあああああ!」


あ、あれ?

俺の想像の10倍ぐらい驚いてる。


ニノがこんなに驚くなんてこの人

もしかして、めっちゃ有名人なのか?

そう不安になって振り返った瞬間だった。


「だあああああああああああ!

ニノって柊ニノおおおおおおお!?」


プレデターさんも引くぐらい驚いている。


二人同時に、お互いに驚いている。


「ちょっと! オオカミン! 

ど、どういう経緯で

プレデターさん誘ったの!?」


「ちょいちょい! もう一人の

仲間が世界一のVtuberなんて

聞いてないんだが!?」


そして、二人同時に質問攻めにされた。


それからほどなくして、


「えええええええええ?

この人って配信者で一番有名な人!?」


今度は俺が驚いていた。


「そうだよ! 僕のこと知らないのは

別にいいけど、この人は知っとか

ないとだめだよ! 生きる伝説だよ!」


「いやいやいや! 俺よりも同じVtuberの

柊ニノは知ってるべきだろ!」


お互いにこの人知らないのはやばいと

驚かれる始末。


も、もしかして。

俺はとんでもない二人を

仲間にしてたのか?


ニノのことも世界一の

Vtuberだって今知った。

炎上したのはドリガルの

vtuberだったからだと思ってたし。


ん? 待てよ。

じゃあこの人たちって


「あ、あの……今更だけど、

二人の登録者数を教えてもらえますか?」


「俺は100万」


「僕は350万。ちなみに、

プレデターさんは別の配信サイトで

配信してて、そこの登録者数は

500万超えてるよ」


「…………」


わお。


これは色々とやばいことを

していたらしい。


「とりあえず、誰がこの

パーティーのリーダーになるか

決めましょうか」


「何言ってるの。このパーティーを

作ってからリーダーはずっと

オオカミンでしょ。

僕はオオカミンじゃなきゃ嫌だよ」


「俺言ったよね? 後でリーダーは

変わらないって。

だから、オオカミン。

君が俺たちを率いるリーダーだ。

新入りのおじさんをよろしくね」


プレデターさんは面白そうに

笑いを堪えた声でそう言った。



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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