第36話 標的

一日前。


オオカミンがニノと初めて接触したその夜、

二人はトレンド上位に躍り出るほど

炎上した。


しかし、勘違いしてはならないのは、

全ての人間が二人を叩いたという

わけではないことだ。


実際のところ、オオカミンを叩いていたのは

ニノのファンの一部だけ。

彼らがトイッターで「オオカミン消えろ」と

お気持ちを表明した。

その騒動を見た外部の人達は

主に三つに分かれた。


彼らと同様に、ドリガルはこれからも

男と関わらないで欲しいという過激ファン。


ただその炎上が面白くて一緒に

オオカミンやニノを叩いた歪んだ奴等。


そして、男性と絡んでもいいじゃないか

という援護派。


比率は過激ファンが5%

歪んだ奴等が10%

残りが援護派だった。


故に、過激ファンや歪んだ奴等が

騒いでいただけで、実際のところ、

二人はそんなに燃えてなかった。

炎上しているように見えただけだった。


そして、今日。

オオカミンがニノと永遠の友達発言を

した配信には約2万人の人が来ていた。


コメントは荒れていたが、

荒らしていたのはごく少数のみで、

ほとんどが騒ぎを聞き付けて

オオカミン達を援護しようと

来た者ばかりだった。


そんな中ではっきりとオオカミンは、

過激ファンに宣戦布告をし、

ニノとの交友を選んだ。


その男気を見て、援護派がオオカミンの

ファンにならないはずもなく。

むしろ、援護派に火がついてしまった。


トレンドには再びオオカミンという名前が

出現し、彼に対する好印象なトイートが

目立った。

過激ファンや歪んだ者達のトイートが

消えてしまったと錯覚してしまうほどに。


【オオカミン。ユニコーンに対して

宣戦布告をするwww】


【柊ニノ。オオカミンの男気に完全に

メス堕ちする】


【オオカミンに恋したニノが可愛すぎる】


一瞬にして、切り抜きも作られた。


その再生回数は、少し前にバズった星宮に

恥ずかしい自己紹介をさせられたオオカミンの切り抜きと同等。

もしくはそれ以上のバズりようだった。


『よく言った!!』

『やっぱオオカミンしかかたん!』

『それでこそオオカミンだわ』

『こういう頭のネジが外れたオオカミン

好きなんだよな~』


何よりも喜んだのはオオカミンの

リスナー達であっただろう。


『オオカミン推しててよかった』


後程、そんなトイートを見た

オオカミンは嬉しくて号泣したらしい。


話を戻すが、結論を述べると

オオカミンとニノの炎上は一瞬にして

鎮火した。


それはオオカミンのムーブに惚れた者達が

急増して、過激ファンの

声が小さくなったことにある。

そして、実はもう一つ要因があった。


「は?? やばすぎだろ!」


「うちらの拠点やられた......」


「ええ!? 一生懸命作ったのに!」


「誰だよ! 俺らの拠点破壊したやつ!」


「ZIGENだよ!!!

他のパーティーの拠点もやられたってよ」


それはその裏で別の者が

炎上していたからだ。


そのおかげで、オオカミンに

執着していた歪んだ奴等が彼の方に

流れた。


────────────────────


「ねぇ見てよ!

この家二階できたんだ!」


「うぉお! 凄いね!

建築のレベル上げたの?」


「うん!

今日はずっと一人でレベ上げしてた」


「......一人にしてごめん」


「キャハハ!

許しません!

キャハハハハハ!!!」


すっげぇ笑ってる。


ほんと子供みたいな人だな。

そんな彼女の無邪気さに癒されてしまう。


二階作ってたってことは、やっぱり

俺が帰ってきてくれるの待ってたのかな。

一人だったらこの一階だけで

スペース足りるし。


なんか......俺の帰りを待ちながらずっと

増築してたニノの姿を想像したら心が......

心が痛いよ......


「俺頑張るよ!

絶対ニノを一位にさせてみせる」


「ほんと!?

やった! じゃあ賞金何に使おうかなー

オオカミンは賞金ゲットしたら

何欲しい?」


「お、俺? ん、ん~だい」


あっぶね!

普通に大学に通うための学費って

言うとこだった。

配信中だった!


「美味しいものでも食べたいかな」


「それなら僕が作ってあげるのに~

キャハハ!

なんかお嫁さんみたい!」


可愛すぎるぞ!?

この人天使みたいじゃないか!?


流石は世界一のVtuber


気を抜いたらコロッと

惚れちまいそうになるぜ。


「オオカミンが外で畑仕事して、

僕が家で家事とかしてるのって

夫婦みたいだよね」


落ち着け。

心を乱すな。


「ねぇ? あなた。

なんちゃって!

キャハハ!」


こ、この人......

もうお互いに吹っ切れたからって

攻めてくるな......

よくないよ。いろんな人が見てるんだから。


ごめん。やっぱ嘘。


凄く可愛い。最高。至福。

一生この可愛い生き物と話してたい。


「ま、まぁとりあえずこれからも二人で

頑張っていこうということで」


「あ、逃げた~」


「逃げてません。

それよりも、もう二日目の夜11時だし、

ニノは寝なくて大丈夫なの?」


「うん。明日は土日だし、

月曜は祝日だからね。三連休だよ!

だから、まだ起きてる。

オオカミンは?」


「俺も今日は夜更かしする!

俺たちのパーティーの順位最下位だし、

こっから巻き返さないと」


「そうなの?

ほんとだ~今の僕らの

パーティー所持数が535枚で、

36位中36位なんだね」


535枚。

今日はほとんどコインを集めていないから、

昨日二人で作物を収穫したときに

得たコイン数だ。


だが、現時点でのランキング表を見れば、


一位 9680枚


圧倒的に少ないのが見て取れる。


「このZIGENって人、

一人なのにどうやってこんなに

集めたんだ?」


「ダンジョンに行って討伐クエストを

クリアしても、二日でそんなにならないよ。もし、一人でこのコイン数を

集めたのだとしたら......」


「だとしたら?」


その直後だ。


バーーーーーーーン!!!


もの凄い爆発音と共に、画面が揺れ、

一瞬して家が崩壊した。


「な......」


突然のことに状況が追い付かない。


「ぼ、僕たちの......家が」


ニノが絶望の声を漏らすなか、

何者かが接近してくる。


彼はロケットランチャーを所持していた。


「えらくちっせぇ家だな」


彼はそう悪態をついて、

拠点に置いていた貯金箱に手を伸ばす。


「535? すっくね。

こんだけかよ。

お前らちゃんとゲームしてたのか?」


だ、誰だ......この人何してんだ......


もしかして、これが拠点を

攻撃するってことなのか?


だとしたら、これはルール違反じゃない。

コイン目的で敵の拠点を攻撃するのは

許可されている。


だが、こんなことしていいのか?


配信はエンターテイメントだ。

お互いに信頼関係があることが

前提で、煽り合い、罵り、プロセスが

成立する。


けど、俺たちは彼と初対面だぞ?


こんなことしたら、

彼は炎上するんじゃないか?


「じゃあな」


彼はごそっとコインを奪って

外に置いていたバイクに乗る。


「オオカミン。あの人の名前見て」


隣にいたニノがこそっと囁いた。


ZIGEN


それは現在一位配信者だった。




















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