第35話 決断

それから俺はネオさんに

役割分担をされて、

庭で畑を拡張していた。


「オオカミン! ここは何の種を撒く?」


「えっとそこは」


不思議なものだ。

前は石城先輩に指示されていたのに、

今は俺が彼女に色々と指示している。


「まさかオオカミンと

同じチームになるとはな」


そう嬉しそうにクロネが

畑仕事をしている。


同じチームか……


ずきんと胸が痛くなった。

こんなことをしている自分が情けなくて、

ニノに申し訳ない。


彼女は今何をしているだろうか。


今の時刻が夜の10時。

中にはそろそろ寝る人もいる時間帯だ。


今日はニノも別のパーティーに入って

何かしてたのだろうか。

それとも昨日の炎上でお休みか。


トイッタ―で彼女が何て呟いたか

確認してくればよかった。

トイートを見れば、今のニノの

状況が少しでも分かるのに。


ずっとニノのことが頭に残ったままだ。


「オオカミン? 聞いているのか?」


「え、ごめん。何?」


「ネオからパーティーチャットが

来ているぞ」


「パーティーチャット?」


そんな機能あるのか。

あ、そうだった。


「やべ、俺まだネオさんにパーティー

入れてもらってない……」


「なるほど。だから、オオカミンの

居場所がマップ上になかったのか。

私からネオにパーティー申請を

するように言っておく」


「ありがとう」


今日の俺はずっとぼけっとしてるな。

気を使ってネオさんは俺を

入れてくれたのに。

しっかりしないと。


そう思ったときだった。



え……


俺はふと左下に表示されている

パーティーメンバーを確認した。


そこには俺の名前と『柊ニノ』が

表示されている。


しかも、お互いに赤色で表示されていた。

つまり、お互いに今オンラインということだ。


「まさか……」


俺は直ぐにマップを開いて

柊ニノの位置を探す。


「ニノ……」


ニノは昨日俺たちが作った

拠点の位置にいた。


まさか……今日もずっとそこにいたのか?


それなのに……俺は彼女から逃げて、

別のパーティーに入ろうとした。


なんで?


ニノも確認しているはずだ!

俺がオンラインになっていることも、

別の場所にいることも。


逃げたって思わなかったのか?


……いや……違う。


それが分かっているはずだ。

分かっていて、ニノは未だに俺の

パーティーにいるのだ。


俺にはネオさんという自分を

迎えてくれた場所があった。

けど、ニノにはあるのか?


言ってたじゃないか。

俺のことを変わってるって。


きっといない。

いないから俺のことを喜んでくれた。

あんなに無邪気に楽しそうに

笑ってくれたのだ。


それなのに俺は……


「……何やってんだ」


「オオカミン?」


俺はもう迷わずにスマホを持って、

ニノの昨日のトイ―トを確認した。


本当は見るのが怖かったのだ。

俺のせいでニノが謝罪とか、

休止の連絡をしていないかって。


けど、俺はもっと早く見れば

よかったと深く後悔した。


【おつにの!

色々たくさんあって皆もすごく

困惑したかもしれないけど、

僕は今日一日すっごく楽しかったよ!

明日もこんな感じでゲームが

できたらいいな!】


手に力が入らずにスマホを

落としてしまった。


ほんと俺は何やってるんだ……


「オオカミン、お前もしかして」


「……クロネ。やっぱり俺……俺は……」


「……大丈夫。言わなくても。

ずっと気になっていたのだろう?」


「え? 分かってたの?」


「今日一日中、上の空だったからな。

言われなくても分かる。

だから、行ってこい! オオカミン!」


そのクロネの言葉が強く響いた。


「正直、私はがっかりしていた。

仲間を捨ててここに来たお前を見て」


「……」


「やっぱりお前はその方がいい。

それでこそお前な感じがする」


「クロネ……」


「ネオには私から言っておくよ。

だから、仲間の元に戻れ」


「……ありがとう……ございます」


「お礼を言うのは私の方だよ。

君のおかげで、私はここにいるのだから。

また、気が向いたら私ともコラボしてくれ」


「勿論!」


そう返事をして俺は背を向けた。

マップを開いてニノの位置を確認する。


待っててくれ。ニノ。


────────────────────


拠点に到着したのはそれから

十分ほど前だった。


「あれ……ニノ?」


拠点にニノの姿がない。

もう落ちたのか?

いや、オンライン表示になってる。

いるはずなのに。


「ニノ?」


俺は昨日自分で設置した扉を開いて

中に入った。


直後、


「どりゃああああああああ!!」


天井から降ってきたニノが大声を上げて、

殴りかかってきた。


ベシッ!!


残り少ないHPが極限まで減少する。


「ニノ!?」


「キャハハハ!! 驚いた?」


ニノは昨日と変わらずに無邪気に笑った。


「俺が来ること分かってたの?」


「うん。マップ上でオオカミンの位置が

ここに近づくのが見えたもん」


つまり、ずっと俺のことを

確認してたのか……


「それで何しに来たの?

忘れ物でもした?」


彼女の声音はどこか悲しげだ。

今日は一日ずっと一人きりだったのだろう。


このまま配信者祭が終わるまでずっと。

そんな恐怖と戦っていたのかもしれない。


「……忘れ物……まあ、そうだね」


「……そうなんだ。

昨日クラフトした斧?

鍬? ピッケルもあったね」


「柊ニノって仲間」


「……ん?」


「だから、仲間のニノを忘れてた。

今日も遊ぶって約束したじゃん」


「……したね」


「けど、ごめん。逃げてた。

忘れてたというより、ニノと

関わらないようにしてた。

謝って済むことじゃないけど、

本当にごめんなさい」


「それは仕方ないよ。

寧ろ、当たり前だと思う。

僕と絡むとオオカミンにも

迷惑かかるから」


「そ、それは」


「違う?」


「……」


否定できなかった。


「だから、もうここでさよならしよ」


それは酷く冷たい声だった。


「一人ぼっちの僕に気を

使って来てくれたんでしょ。

それだけで嬉しいよ。

オオカミンは戻ってゲームを楽しんで。

僕もそれなりに楽しむからさ」


「……分かった」


「うん。じゃあ」


「じゃあ、とりあえず、

何か料理くれない?」


「んん!? 話聞いてた?」


「聞いてたよ。

戻ってゲームを楽しんでって。

ここ、俺の家。そして、ニノの家。

戻ってきたよ。だから、

あとはゲームを楽しむだけ」


「オオカミン……もうやめた方がいいよ。

きっともっと悪化するかもよ」


……悪化ね。


悪化って何だ?

もっとたくさんのドリガルのリスナーに

叩かれることか?

ネットで俺の名前が取り上げられること?

俺の配信にアンチコメントが流れること?



正直......そんなに怖いことか?


別に死ぬわけじゃない。


学校に通えなくなるとか、

美味しいご飯を食べられなくなるとか。

そんなことは起きないだろ。



ただ、ネットの世界で

アンチコメントという名の

ただの文字が流れるだけだ。


俺が一番怖いって思うのに比べたら。


「別にいいよ」


そんなの何の恐怖でもないじゃないか。


言ってやる。

うんざりだ。

多くの人に見られてるからって、

発言に気をつけるのは。


そんなこと知ったことか。


「俺......このまま炎上したままでもいい」


「......え?」


「ぶっちゃけそんなの怖くない」


「オオカミン......配信中だから

そういうの言わない方が」


「怖くない!!!

ニノの一部の変わったファンに

叩かれ続けても、俺はそんなこと

どうでもいい!

そんなことよりも!

俺はニノって名前の友達とさよならする

方がよっぽど怖い。

俺は明日も明後日もニノと

ゲームがしたいし、これからも

友達でいたい!

触れちゃいけないみたいな空気に負けて、

さよならなんかするもんか!」


俺は小さい頃に両親を失った。

そんなのに比べたら、

こんなの屁でもない。


「見えないとこから攻撃してくる

モテない男共の機嫌を取り続けるよりも、

俺はニノと友達で居続けることを選ぶ!」


俺ははっきりと宣言した。

俺の配信を面白半分と嫉妬心で

叩き続けている奴等に向けて。


まぁブイライブには

迷惑かかるかもしれないし、

そのときはまた個人勢に戻ろう。


それでいいじゃないか。


「......ダメかな? ニノ」


「......」


ニノからの返答がない。


あ、あれ。

もしかして呆れられたか?

さすがにヤバいこと言ったかな。


そんな心配をしたときだった。


「......ぷ......キャハ! キャハハ!!

キャハハハハハ!!

あーやっぱ......オオカミンって

変わった人だよね......

そんなこと......クク......配信中に

言う人いないよ......」


何かが吹っ切れたように

ニノは笑っていた。


「そ、そんなヤバいこと言ったかな」


「うん!

たぶん凄くアンチできたかも!」


「ま、まじ?」


「まじ。だけど、きっと

その一億倍の人がさっきのオオカミンを

見てファンになったかも」


「ファン!? な、なんで?」


「堂々としてたからかな?

なんかヒーローみたいだったよ!」


「そ、そう?」


「うん! 現に僕もオオカミンの

ファンになっちゃったかも」


「......え?」


「僕今まで好きなVtuberとか

いなかったんだ。今までリスナーさんが

僕のことを推してくれて嬉しかったけど、

その感情がよく分からなかった。

けど、今は何となく分かる。

この人を応援したいって気持ち。

そんな感情がさっきのオオカミン見てて

芽生えちゃった!」


ニノは本当に嬉しそうに

そう言ってくれたのだ。


「なんかオオカミンの話聞いてたら、

確かにそんなの怖くないなって

思った。だから、僕からも

お願いしていい?」


「え?」


「これからも僕の友達でいてください」


そんなの答えは決まってる。


「勿論だよ」


「キャハハ!

やった! こういう気持ちなんだね!

推しと話せるのって。

凄く嬉しい!」




────────────────────

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ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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