第33話 異変

「オオカミンって前に

トレンド乗ってたよね?」


「な、何で知ってんの?」


「トレンドとか流行を

気にするのは配信者として

必要なことだからね~」


「な、なるほど。

つまり、俺のことは知ってたんだ」


「うんうん。配信とかは

見に行ったことなかったけど」


「いや、恥ずかしいから

見に来なくていいよ」


「キャハハ! そんなこと言われたら

見に行きたくなる~」


そんな談笑を交えながら、

俺たちは木の実や山菜などを

集め終わった。


「オオカミンは僕のこと知ってるの?」


「ごめん。存じてないです」


「あ~なるほどそれで。

なら、遊ぶのも今日だけかもね」


「え? 何て?」


「何でもない!」


何かぼそぼそっと言ったと思ったが

よく聞き取れなかった。


「ニノ、これからどうする?」


「ん~僕家欲しい!」


「家か。いいね。

やっぱ拠点がないと始まらないし」


「うんうん!」


それから俺はニノと島を

旅しながら拠点を建てるのに良さそうな

場所を探した。


と言っても、このゲームの知識が

ゼロな俺がどこが適してるなんて分かるはずもない。

だが、ニノが以前にドリガル内で

このゲームをやったことがあると

言っていた。


おかげで、ある程度の基礎的な

知識を得ることができた。


まず、このゲームの目的である

コインを集めるためには主に

二つの方法がある。


一つ目が、攻撃系や魔法のスキルを強化し、

敵を倒して、報酬としてゲットする。


二つ目は、採掘や農業などで役に立つ

スキルを手に入れて、それで採取した

農作物や鉱石などを売ってコインを集める。


だから、まずはそのどちらの道を

極めるかを選ばなければならないらしい。


「オオカミンどっちやりたい?」


「断然農業とかかな」


「あ、僕も~

男の人はダンジョンとか潜って

敵を倒すのが好きなのかなって

思ってたけど違うの?」


「いやいや、俺はあんまり

そういうのしないよ?

普段やってるゲームって

牧場ストーリーとかだし」


「あーなるほどね~

けど、これじゃあ戦える人がいないね」


「まぁそれは後で考えようよ。

パーティーにはあと三人入れるんだし。

きっと戦闘スキルを鍛えた

人と出会えるって」


「確かにそうだね。

よーし、じゃあ僕お料理とか

裁縫のスキル上げちゃお~」


「じゃあ俺は畜産スキルと

農業スキル上げるか。

おおおお、すげぇー!

土を耕せるようになった!

鍬ってどこで手に入れるんだ!?」


「キャハハ!

すごく嬉しそうだね」


「そりゃこれから農業できると

思ったら楽しみすぎて震えが止まんないよ」


「おー、なんかの病気みたい」


────────────────────


「よっしゃもうジャガイモできた」


リアルクラフトの世界は

俺が想像していたより面白い。


育つ作物もたくさん種類があるし、

作物を採取すればレベルが上がって、

レベルが上がると新しい作物を

育てることができる。


「オオカミーン!」


ベシッと背後から軽く叩かれた。


「い、いて!?」


「キャハハ!

どう? どう? 畑の調子は」


あれから二時間くらい経過した。


最初会ったときは幼さと大人さが入り交じった不思議な雰囲気をしてるなって

思っていたが、今は幼さの方が強い。


ニノは無邪気に笑いながら訊ねてくる。


「ねーねーオオカミン?

聞いてる?」


まぁ......その幼い無邪気さが

癖になるというか、可愛いって

思っちゃうんですけどね!


「ほら、ジャガイモできたよ」


「おおおお!

じゃあこれでポテトサラダ作れるよ!

僕さっそく作ってくるよ」


俺がずっと農業をしている一方で、

ニノは料理スキルの他に建築スキルを

極めているらしい。


畑の隣には小さいが俺とニノがこれから

住むことになっている家が建っている

途中だ。


「オオカミーン!」


ベシッ!


「な、なに!?」


「ほらほら!

ポテサラ! 僕が作ったの!

食べて食べて!」


まるで娘ができた気分だな。


「い。いいの?

俺が最初でも」


「うんうん。

だって、オオカミンは外で

お仕事頑張ってるし。

食べて?」


「あ、ありがと」


な、なんかお嫁さんみたいじゃね!?


牧場ストーリーもこんな感じだ。

のんびり農業をして、お嫁さんができて。

二人で過ごす。


しかも、このお嫁さんは

NPCじゃなくて本物!


「どう? 美味しい?」


こんな幸せなことがあっていいのだろうか。


「う、うん。美味しいよ」


「キャハハ!

ゲームだから味しないけどね」


そう言ってニノは無邪気に笑った。

にしても、この人めっちゃ可愛いな。

性格とか声も含めて。


もしもふらっとこの人の配信を見たら、

また配信を見に行きたくなるだろう。

そんな魅力がある。


「あーあ、もう0時か。

オオカミンはそろそろ落ちる?」


「そーだね。

明日普通に用事あるし」


学校があります。


「あーそうなんだ。

そっか~なんか残念。

もう少し遊びたかったよ」


「いや何言ってんの。

明日も明後日も会えるでしょ。

ニノは明日からログインしないの?」


「んー、そういう訳じゃないけどね」


「なら、また遊べるよ」


「......だといいな」


最後のその言葉がどこか弱々しかった。


「じゃあ俺は落ちるよ」


「うん。じゃあバイバイ。

楽しかったよ」


「こちらこそ。また明日」


また明日。

そう言ったが、彼女からそれに

対する返答はなかった。



ふぅー疲れた。

だいたい5時間くらいやってたな。


でも、めっちゃ楽しかった~

明日は帰ったら即ログインしよ。


あ、そういえば、

コメント欄見れなかったし、見てみるか。

最初の方ずっと一人だったから、

「誰かと絡め」って辛辣なコメント

ばっかかもなぁ。


そう思って、コメントのアーカイブを開く。


俺は自分の目を疑った。


それは俺がニノと接触した瞬間である。


『誰お前?』

『ニノに関わんなや無名が』

『声キモい』

『自重しろ』

『消えろ』


一瞬にして俺のコメント欄が

地獄と化した。


「な、なんだよこれ」


そのとき、デスコに通知が入る。


【狼返事して!】


それはネオさんからだった。


【柊ニノと関わっちゃダメ!】


【今すぐ彼女から離れて!】


そんなチャットが三十件ほど

送られてきていた。

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