第29話 だから星野はオオカミンが好き

あれから毎日のように

星野はオオカミンの配信を訪れた。

最初は寂しさを紛らわすためだった。

けど、それは次第に、

彼の声を聞きたいという

欲求に変化して、

彼の配信を見れば元気に

なれた。


「……あ~あ、もう

文化祭終わってる……

オオカミンとせっかく

約束したのに……」


力なくベッドに倒れ込みながら、

スマホの画面を見る。


祖父のことがあって、ここ数日は

スマホを見る気力がなかった。

親戚が代わりに担任の教師に

連絡を入れていてくれたらしいが、

スマホの画面には友人からの

チャットの通知が表示されている。


「……みんな……

心配させちゃった……

連絡返さらないと。

あ、オオカミンにも約束

破っちゃったから謝らなきゃ」


そう思って、星野はデスコの

画面を開く。


『星野さん、大丈夫?』


三日前にそうチャットが来ている。


彼のチャットを見て少し

元気が出てしまった。


「……やっぱ……

オオカミン凄いよ……

こんなに元気出ちゃうんだから」


【返信遅れてごめん! 

色々あって今気が付いた!

大丈夫だよ!】


そう自分に嘘をついて、チャットを

送ろうとした瞬間だった。


ブーブーと通知音が入る。


ちょうどオオカミンから何かが

送られてきた。


それは三分ほどの動画だった。


【これクラスの皆が

星野さんに送りたいって】


そう言葉を添えて。


星野は何の躊躇いもなく

再生ボタンを押した。


────────────────────


『凜!』


いきなり画面に映し出されたのは

星野が親しくしている友人たちだった。


『凜大丈夫?』


『辛かったよね。

うちら全然側にいて

あげられなくてごめん』


『凜! また学校に

来たらさ、どっか遊び行こ!』


『うちら待ってるから』


『絶対一人にならないで!』


『何かあったら全然相談してよ!

私たち親友でしょ!』


初めてだった。

友人にこんな思いを

ぶつけられたのは。


場面が変わる。


『ほら! 見ろよ星野!

俺たちの出し物、一位だったぞ!』


今度はクラスの男子たちが

誇らしげに賞状を見せてきた。


『星野のシーン、

めっちゃ反響良かったぜ!

これ取れたのもお前のおかげだ!

だから、元気になったら

みんなでお祝いしような!』


一緒に恋愛映画のシーンを

撮った武田と吉田が言う。


再び画面が変わった。


『もう片付けの途中なんだけど、

これが今年の文化祭の景色だよ』


それはオオカミンの声だった。


他のクラスの人達が

出し物を撤去している夕暮れの中を、

一人カメラを手に持ちながら

歩いているのだろう。


少しでも文化祭の雰囲気を

味わってほしいという思いが

伝わって来る。


『本当は一緒に回りたかったんだけど、

今回ばかりはこれで……』


そう言って、急にオオカミンは

自分の顔を写した。


「フフ……まさか一緒に回ってる風に

撮ってるってこと?」


慣れない手付きで顔を赤らめながら

恥ずかしそうにしているオオカミンを

星野は笑った。


『……これで元気になってとは

言わないけどさ、あまり一人で

抱え込まないで。

また、いつでも配信見に来なよ』


いつの間にか、さっきまでの孤独感は

どこかに行ってしまっていた。


(やっぱ……あたしってオオカミンが

大好きなんだな……)


星野は動画が切れる残りの数十秒を、

彼と一緒に文化祭を回っているのを

想像しながら見つめていた。


────────────────────


「凜!」


「星野!」


翌日、快活に教室に入ってきた

星野を友人たちが迎えた。


「元気になった?」


「大丈夫かよ!?」


「うんうん! 全然平気!

昨日の皆の動画のおかげで

めっちゃ元気でたもん!

皆ありがとう!」


星野のその表情に皆が安堵する。


「てか、あの動画誰が

撮ろうって言ったの?

千尋?

マジでお礼言いたいんだけど!」


その問に皆がきょとんと

不思議そうな顔を浮かべる。


「え? 聞いてないの?」


「何を?」


「あの動画撮ろうって

言い出したのけんちゃんだよ?」


千尋にそう言われて、

星野は健児のいる席の方を見た。


彼はまだ登校していない。


「てか、あれまじでびっくりしたよね」


「うんうん、けんちゃんにも

あんな一面あるんだって」


「そりゃ彼女の凛のためならね~」


「ね~」


────────────────────


昨日の夕暮れ。


「皆! お願いがある!」


急に立ち上がった健児にクラスの

視線が集まった。


「どしたん? けんちゃん」


「ずっと休んでる星野さんを

元気づけられる動画を撮りたいんだ」


「へえ~」


「いいじゃんそれ」


「やばっ! なんかキュンキュンする」


勇気を出した健児の元に、

星野の女子友達が集まっていく。


「どんな動画撮る?」


「えっとまずは」


「……必要ねえんじゃねえの?」


そのときだった。

不服そうに武田が言った。


「なによ武田」


「どうしたの?」


「星野を元気づけるって言うけど、

あの星野だろ?

そんなの必要ねえと思うけどな」


腕を組みながら健児を睨みつける。


「いや! 俺は必要だと思う!」


しかし、健児はそれに怖気づくことなく、

武田に言い放った。


「もしこれが杞憂であっても、

それならそれでいい。

家族を失って一人で悲しんでる

かもしれないのに、そんな星野さんを

放っておくのは嫌だ」


その真剣な眼差しに、

星野の女子友達は感心した様子だった。


「……俺は断る。

やりたきゃ彼氏のお前がやればいいだろ」


しかし、その様子が更に武田の

機嫌を損ねたようで、武田は

そっぽを向いた。


「あ、あの……」


そのとき、いつも控えめな

シオリが手を上げた。


「今回の文化祭は私も……皆さんも……

健児さんに助けられたと思います。

ですので……私は彼の撮りたい動画を

手伝ってあげたいです」


「は? ただ動画撮ってただけだろ」


「うわ……武田最低……」


「それは言いすぎ」


不機嫌そうにする武田の様子に

クラスのヘイトが高まっていく。


「それは違います!

健児さんは動画の撮影の他に

私の編集の手伝いもしてくれました!」


ばんと机を叩いてシオリが立ち上がる。


その様子にクラスが驚いていた。


「ちなみに、それは本当だぞ」


南が付け加える。


「さらには他の役割のスケジュールの

管理もしてもらった。

今回、俺は健児に凄く助けてもらったよ。

だから、俺は協力する」


「確かに、健児が毎回管理してたな」


「文化祭委員の俺から言わせてもらうが、

少なくとも君よりかは健児の方が

頑張っていた」


南の発言によって、

武田に止めが刺された。


「武田。一緒に撮ってくれないか?

きっと星野さんも喜ぶ」


健児はそう言った。


「……くそ……わかったよ」


クラス全員が敵となってしまった

雰囲気を察して、彼はようやく

同意したのだった。


「ってのがあったわけ!」


「あのときのけんちゃん

かっこよかったよね~」


「凜がけんちゃん好きな理由が

ちょっと分かったかも」


「ね~」


「あ、噂をすれば! 凜! 

ほら、けんちゃん来たよ」


星野の友達が教室に到着した健児を

指差した。


その次の瞬間だった。


「健児君!!!!!」


朝のショートホームルームが始まる

15分前。それなりに人はいた。


そんなクラスの連中の目の前で、

星野は何の恥ずかしげもなく、


「どぅわあ!!??

ちょ!? な、なに!?」


健児に抱きついたのだった。





────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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の方をよろしくお願いします。


















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