第24話 リアルの青春

感想を述べると、男子たちの動画撮影が

地獄だった。


放課後帰ろうとしたら、

急にクラスの野球部に呼び出されて

野球アニメのOPのパロディを撮らされた。


まさかたった2分ほどのパロディを

撮るのに色々試行錯誤を繰り返して、

2時間もかかるなんて。


そして、翌日は再び男子たちに

呼び出されて消しゴムをいろんな角度から

十回連続で入れるというスゴ技動画を撮らされた。


これがなかなか成功しなくて

めちゃくちゃ時間がかかった。


おかげで、ネオさんとのコラボに遅刻して

怒られた。


次の日、今度は女子生徒達に呼び出された。


撮影内容はチックトックで流行っている

韓国アイドルのダンスらしい。


「で、こうして、こうなるから、

ここをこんな風に撮ってほしいわけ」


「あ、ああなるほど……」


その実際の映像を見せてもらった。

めっちゃキラキラしてる。


眩しすぎてこちらが消滅してしまいそうだ。


「おっけ?

健児君大丈夫そ?」


「お、おけ」


大丈夫じゃない。


この陽キャ女子グループの中に

男は俺しかいないのだ。


早く撮影終わらせたい。

というか、今すぐ帰りたい。


この空間に星野さんが

いてくれたのは幸いだった。

陽キャ女子と俺の間を

仲介してくれている。


「はい、じゃあ撮ります」


今の時代はスマホ一つで

高画質の動画を撮れてしまう。


俺は彼女たちにスマホを向けて、

音楽が鳴り出したと

同時にカメラを回す。


普段ならこのキラキラしてる

集団にスマホを向けるなんてありえない。

これも貴重と言えば貴重な

経験になるのだろう。


「ちょっと千尋! 今少し早かったよ!」


「アハハ! ごめんごめん!」


「ちょ、もう一回もう一回」


星野さん達がキャッハウフフしているのを

スマホ越しに眺める。


なるほど。これが青春か。

勉強になった。


なんか合法的に悪いことしてる

気分になるのはなぜだろう。


星野さんがテキパキと

仕切ってくれたおかげで、

撮影は一時間ほどで終わった。


「けんちゃん、後でその動画送ってくんね」


……けんちゃん?

いつの間にか陽キャグループに

そう呼ばれるようになっていた。


「あ~なんか曲聞いてたら

カラオケ行きたくなってきた」


「うちも~」


「じゃあ行くか」


「けんちゃんも来る~?」


「いや、俺はいいよ」


「だよね~来るって言ってたら

ウケてたわ」


と、軽く陰キャの俺をいじった

彼女たちは談笑しながら鞄を手に持った。


「じゃあね。健児君」


最後に手を振った星野さんに手を振り返した。


「やっぱ凛ってけんちゃんと

付き合ってんの?」


「思った! 最近二人いっつも一緒に」


遠ざかる女子たちの声が聞こえてきたが、

星野さんが何と答えたかは

聞こえてこなかった。


星野さんも大変だな。

これからはもっと二人でいるのは

見られないようにしないと、

更に余計な噂が広がりそうだ。


そう思いながら、撮った動画を

動画編集係に送信する。


『シオリさん。撮り終わりました。

これが今日の動画です。

前日に送信した動画の編集は

どんな感じですか?』


クラスに文化祭委員はいるが、

監督なんていないし、

こうして動画編集係と直接コンタクトを

取る人は撮影係の俺しかいない。

加えて、明後日撮影予定の

CM動画に必要な衣装や道具の

進行状況も俺が確認している。

その状況を文化祭委員に伝えて、

文化祭委員が演者に指示を出して

撮影日程を決めている感じだ。


つまり、いつの間にか俺は余計な仕事を

押し付けられているのだ。

おかげで昨日は配信ができなかった。


『動画ダウンロードしました。

今、野球アニメのOPができた段階です』


そう言って、完成された

動画が送られてきた。


普通に編集もされていて

見やすい動画ができている。


にしても、このシオリさんも大変だな。


うちのクラスは陽キャがほとんどだから、

俺やシオリさんみたいな数人の

陰キャに衣装や編集、

撮影などのぱっとしない仕事を

押し付けられている。


まあ、彼らは仕事を押し付けている

感覚はないのだろうが。

彼らはぱっとした明るい青春映像に

残りたいのだ。

だから、演者側に回り、他の状況など全く

把握できていない。


『南君。野球OPの動画できたから

確認してくれ』


南君とは文化祭委員である。


『おー助かる。

うん、見させてもらったけど普通に

クオリティ高いわ。流石シオリさん』


確かに、クオリティは高いが、

2分ほどの動画が二日後に完成していては

間に合わないのではと思ってしまう。


シオリさんは映画研究部に

所属しているという理由で、

無理矢理動画編集を押し付けられていた。


動画編集はそれなりの知識と技術が

必要だから、誰も率先して

やりたがらなかったのだ。


有能な陰キャってこういうとき辛いよね……


無能でよかった。


────────────────────


翌日、教室に到着すると、机に突っ伏して

寝ているシオリさんがいた。


真面目で優等生な彼女がこんなだらしなく

教室で寝ているのを初めてみた。

昨晩も夜通し動画編集をしていたのだろうか。


「シオリさん」


コンコンと軽く机を叩いて彼女に声をかける。


普段なら教室で女子に声を

かけることなどない。

だが、彼女とはここ最近、ずっと撮影前に

打ち合わせをしていた。

このように編集したいから、

ここは絶対撮ってきて欲しい。

などなどのたくさんの打ち合わせを

重ねたおかげで、彼女とはそれなりに

声をかけやすい仲になっていた。

元々陰キャ同士、波長が合うのかもしれない。


「……? あ、その声健児さんですか?」


机に置いた眼鏡を手探りながら言う。


「はい、どうぞ」


「ど、どうも……うわ……もしかして、

私寝てました?」


「まあ、どれくらい寝てたか

分からないですけど、

昨晩も遅くまで動画編集してたんですね。

目の下にくまできてますよ」


「う、うそ……最悪……

実はそうじゃないんです。

昨日はずっと映画研究部の成果物に

時間を取られてて、全然クラス用の

動画できてなくて」


「ま、マジですか」


「はい、これまずいですよね。

あと五本もあるのに、

残り二週間切ってるし、

絶対……間に合わないです……

そ、そうなったら私……クラスで

いじめられるんじゃ……」


この人マイナス思考だよな……


まあ、でも確かに絶対間に合わないな。


「それはないと思いますけど、

でも、そうですね……流石にシオリさん

一人で動画編集するのは流石に無理か……」


かといって、このクラスに

動画編集できる人とかいないだろうし、

今からシオリさんがやり方を教えるにも

時間がかかりすぎる。


そもそもシオリさんの性格から、あの

陽キャ集団に動画編集を

手伝ってほしいなんて面と向かって

言えなさそうだ。言えないから、

こんなに困ってるのだろう。


これは……

今週も来週も配信できなさそうだな。


「俺でよければ手伝いますよ」


「え? 健児さん動画編集できるんですか?」


「まあやったことあるんで。

シオリさんの技術には負けますけど」


「けど、そちらには撮影の

仕事があるんじゃ」


「いいですよ。俺部活とか

入ってないんで暇ですし。

こういう学校の行事で忙しいのってなんか

青春してるみたいで楽しいじゃないですか」


すると、シオリさんはクスっと笑った。


「あ、ごめんなさい……ちょっと、

健児さんの口から青春って言葉が出るのが

意外だったので」


「相応しくないって思ったんでしょ」


「正直言うとそうです。

でも、それは私も同じです。

本当にお願いしてもいいんですか?」


「大丈夫ですよ。残り五本の三本か

二本程度は俺がやります」



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。


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