第21話 後輩

私のくだらない過去の話を彼は

親身になって聞いてくれた。


なぜ話せたのだろうか。

彼が特別だから?

いや、違う。

どうでもいいからだ。

ただの気晴らし。


愚痴を壁に言っているようなもの。




彼はこう思っただろう。


逆恨みだと。


私だってそう思う。


あのときも分かっていた。


私は星宮の人気、才能に嫉妬したのだ。

負けたことが悔しくて、

その気持ちをぶつけただけ。


ああ、嫌だ。


こんな惨めな自分が。


いつも大人の振りして。

結局、自分が一番子供。


彼女の魅力に嫉妬している

自分が一番嫌いだ。


そんな自分から逃げたくて、

レインボーを抜けたのに、

何も変われていない。


「なるほど」


「幻滅したでしょ。

いいのよ。私だって自分に幻滅してるから。

他人の才に嫉妬して、逆恨みして、

挙句の果てにはそれを相手に

言っちゃうんだから。笑えてくるわ」


本当に笑えてくる。

彼から冷たい言葉が来るのが怖くて、

自分から逃げ道をつくっているのだから。


「正直言いますけど」


「なに」


「相変わらず、ネオさんってプロだなって」


「……は?」


予想外の回答に思考が停止した。


「配信者なら誰でも同業者に嫉妬しますよ。

俺だって毎日してます」


「でも、貴方はそれを直接相手に

言わないでしょ?」


「言いませんね。言う覚悟がないんです。

プライドもないですし、

そこまで闘争心もありません。

だから、そこまで自分の配信活動に

一生懸命で、

星野さんに直接嫌いって言えるネオさんは

凄いなって。

向上心とかプロ意識がなければ

そういうことできませんよ」


「……あのね……私は自分が子供っぽくて

情けないでしょって話をしてるのよ。

今の話のどこにプロ意識を感じたの」


「え? めちゃくちゃ感じましたよ?

ストイックな人だなぁって」


「貴方ポジティブ思考過ぎない?」


「そうですか? まあ、でも確かに

星野さんに面と向かって大嫌いは

やりすぎかなって思いましたね」


「い、意外とストレートに言うのね」


「はい。だから、俺が今の話を聞いて、

ネオさんをプロだなって思ったのも

本当です」


「……」


狼ってこんな人だったの……?


「俺はネオさんのその闘争心と向上心は

長所だと思いますけどね。

きっとその気持ちが強すぎて、

いろんなものを見落として、

星野さんとすれ違ったみたいな

感じがします」


「随分と大人びたこと言うじゃない」


「え? そうですか?

てか、そんなことより、

星野さんに謝りましょ。

星野さんにあんなこと言ったの、

重みになってるんじゃないんですか?

絶対このまま放置してたら駄目です」


「分かったような口を利くわね」


「顔見れば分かります」


驚いた。

今まで彼を高校生の子供としか

見ていなかったが、

一瞬彼が年上のように見えてしまった。


「あ、謝るって……分からないわよ。

何て言ったいいのか」


「普通にごめんなさいって

言えばいいですよ。

あと、何で怒ったのかも

伝えてください。

きっと星野さんなら理解してくれます」


「……」


「さあ、戻りましょう」








道中、何度か逃げようと試みたが、

その度に狼に何回も説得されて、

ようやく戻った。


「あ! おかえりなさい! よかった~」


恐る恐る狼の自宅に戻ると、

玄関で不安そうにマリアが待ち構えていた。


「……もう事故にでもあったら

どうしようかってずっと不安だった」


「ご、ごめんなさいマリア」


知り合って間もないが、

どうも彼女には強くいけない。


「マリアさん、星野さんは?」


「それがね、引き留めようとしたんだけど、

もう夜も遅いし、帰りますって。

つい今さっき、タクシーで帰っちゃった」


「え!?」


相変わらず、私は最低だ。

狼は驚いているのに、

私は星宮がいないことに

安堵してしまっている。


でも、よかった。

このまま会ったとしてもきっと何も言えない。

上辺だけで謝れても、内心は

何も変わっていないのだから。


私は未だに彼女のことが……


これでいいのだ。

もう関わらない方が……お互いに


「それでね、ネオンちゃん。これ」


「え? 何これ」


マリアが差しだしてきたのは手紙だった。


「星野さんがどうしても

伝えたいことがあるって。

帰る前に書いてくれたの」


正直、怖かった。

どんな言葉が綴られているのか。


あんな一方的に暴言を吐いた。

その返答がここに詰められている。


情けない。

一方的に言い放って、

自分は受けるのが嫌だなんて。


私にはこれを読む責任がある。


私は震える手でその手紙に目を通した。



『お久しぶりです! ルイン先輩。

対面じゃ上手く伝えられないと思って

手紙に書きます。

まずは配信の邪魔をしちゃったことを

謝ります。あと不快にさせちゃったことも。

ごめんなさい』


予想外の彼女の謝罪に困惑してしまった。

そうだ。彼女はこんな人だった。


『正直、あたしはどうしてルイン先輩に

嫌われちゃったのかまだ分からないです。

でも、きっとこういうところが

嫌いになられた部分なのかなって、

そう思います』


……違う……ただ、私が……私が

一方的に貴方の才能を恨んだだけ。

嫉妬してしまっただけ。


『けど、これだけは言わせてください。

ありがとうございます』


……え?


『ずっと言いたかったです。

ルイン先輩はあたしのこと

嫌いなのかもしれないけど、

あたしはルイン先輩のこと尊敬してるし、

本当にあのことを感謝しています』


感謝?

私は彼女に何かしたことがあっただろうか?


『あたし、他のシャイニングの人達と

違って同期がいないんです』


それは知っている。

彼女はオーディションではなく、

スカウトで入ってきた。

シャイニングの大手事務所にスカウトで

入ってきた逸材として、

当時は話題になっていた。


『入った最初は誰もあたしに

関わってくれませんでした。

DMを送っても、挨拶ぐらいしか

してくれなかったです。

それに、あのときはあたしも新人だったから、

自分から声を掛けれずに困ってました。

ぶちゃけ、困ってるどころか孤独過ぎて

辞めようかと思ってたレベルです』


シャイニングは大手特有の格差社会。

人気が全てな世界だ。

だから、新人の彼女に関わっても

何もメリットがなかったのだろう。

それに、厳しいオーディションを

勝ち上がってきたシャイニングの人達にとって、

スカウトという異例の形でシャイニングに

入った彼女を毛嫌いする風潮があった。


『そんなあたしを一番最初に

コラボに誘ってくれたこと

本当に感謝しています』


……


『今でもたまにそのチャットの

履歴を読み直すんです(笑)

キモいですよね(笑)

もう飛び上がるくらい嬉しくて!

コラボのときもすごく優しくて、

今のあたしがVtuberをしていれるのは

ルイン先輩がいたからなんです!

あれから全然話せなかったですけど、

あたしの憧れの先輩はルイン先輩です。

それは今でも変わってません。

また、いつかコラボとかしたいですけど、

多分無理っぽいので帰ります。

ルイン先輩の新しいVtuber人生を

応援してます!

星宮より』


私は震える手で手紙を折り畳んだ。


ああ、私はまた自分を嫌いになった。


こんなに私を尊敬してくれていた後輩に

あんなことを言ってしまった。


しかも、あのときの私は「尊敬」という

言葉を疑っていた。


情けない……


私は本当に自分が大嫌いだ。



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

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