第20話 一方通行

『ルイン様ってシャイニングの顔だよね』


そんなコメントが来なくなったのは

いつ頃だろうか。


「君たちはシャイニングの一期生として、

これからのシャイニングを作り、

支えていってください」


オーディションに合格したあの日、

マネージャーから言われた言葉。


「ルイン凄いよ! 歌も上手いし、

声も可愛いし」

「俺たち一期生の中で一番登録者多いしな」


同期のみんなが褒めてくれる。


それが誇らしくて嬉しかった。

そして、いつしか自分がシャイニングの

顔として頑張らなければならないと、

そう思うようになった。


私がシャイニングを世界一の

Vtuber企業にする。

そのために私は世界一の

Vtuberにならないと。




しかし、それは馬鹿な夢だと痛感した。


まだ発展途上だったVtuber業界が急速に

発展し、ライバルも増え、後輩も増えた。


その波に乗ってシャイニングの

知名度も上がっていったが、いつしか

シャイニングの顔と呼ばれるようになったのは私じゃなく、才能のある後輩たちになった。


また、シャイニングの顔と呼ばれたい。


そのために配信者として必要なスキルを

磨いたが、何も変わらなかった。


いつしか登録者は才能のある後輩たちに

抜かれ、実力の無かった一期生の

同期たちはリスナーを他のVtuberに奪われ、やがて引退していった。


残ったのは私だけ。


それでも夢を諦めたくなかった。


もっと自分が頑張れば、魅力的になれば

また人が集まってくれる。

同接も増えて、登録者も一位になれて、

シャイニングの顔に戻れる。


だから、私は5周年記念の3Dライブに

全てをかけた。

オリジナル曲もダンスもムービーも今までの

収益をつぎ込んだ。

告知にも力を入れた。


きっとこのライブを見てくれたら……



しかし、そのときのライブの同接は

一年前を下回って8000だった。



ライブが終わって、絶望の中トイッターの

トレンドを確認する。


ルイン5周年 トレンド15位


そして、


星宮リナ トレンド1位


彼女が私のライブの同時刻に

配信をしていたようだった。

そこにシャイニングのリスナーが

流れていった。


絶望した。


シャイニングには誰かが記念枠を

取っていても、

配信を被せてはならないという規則はない。


だから、彼女に非はない。


それでも全てをかけた配信が最悪の

結果になってしまった。


けど、彼女のことは恨んではいけない。

大切な仲間だから。


そう思って、前を向こうとしたのに。


たまたま、収録が同じになって星宮と会う

機会があった。


そのとき、彼女はこう言ったのだ。


「あたし! ルイン先輩のこと

本当に尊敬してます!

5周年ライブのアーカイブ全部見ました!

凄かったです!」


その言葉が許せなかった。


尊敬?

尊敬していて、私の記念枠に被せたの?

私が記念枠にどれだけ準備したのか

知らないくせに。


きっとこの子は知らないのだろう。


毎日、私がオワコンと呼ばれているのを。


『最近ルインのこと見なくなったな』

『まだ、引退してなかったのか』

『同期みんないなくなってかわいそ』

『ぶっちゃけ、シャイニングの黎明期を

支えた人物だから、シャイニング側も

首にできないんだろうな』

『別に今更切っても誰も騒がないだろ。

今のシャイニングリスナーとか

ルインのこと知らないだろうし』


こんなことを言われて、

私は毎日眠れなかった。


彼女はそんなこと知りもしない。


いつも天真爛漫で、私にもぐいぐいと

歩み寄ってきて、笑顔で接してくる。

闇のない透き通った性格。

そんな彼女に皆が魅了される。


だがら、私みたいな闇を彼女は知らない。



だから、こんな言葉を笑顔で言えるのだ。


うんざり。


もう何もかもうんざり。


無神経に接して来る彼女にも。


「私……貴方のこと大嫌いなの」






瞬間、横からの光に視界が眩み、

車のクラクション音が聴覚を襲った。


「ネオさん! 危ない!」


その直後、右腕をもの凄い力で

引っ張られる。


目の前を車が急ブレーキをかけて停止した。

中から、ドライバーが怒り狂って


「何やってんだ! あぶねえだろ!!」


と怒鳴り散らしてくる。


「す、すみません!」


唖然としていた私に代わって、

私の腕を引っ張った彼が頭を下げて謝った。


「……狼」


ドライバーが気を付けろと吐き捨てて

走り去ると、私は恐る恐る振り返った。


「な、何してるんですか!

まじで心臓止まりそうになりましたよ」


その荒い息づかいから察するに、

かなりの速さで走ってきたのだろう。


いや、私も大概だ。


逃げるように走っていた。


「……聞いてますか?」


「え、あ……聞いてる」


「なら、いいんですよ。

とりあえず、戻りましょう」


「……あんな酷いこと言って

戻れるわけないでしょ」


「そんな子供みたいなこと言ってないで。

それにネオさん俺の家に

荷物置いたままでしょ。

どうやって帰るんですか」


「……」


「戻りますよ」


こうして、私たちは仕方なく

戻ることにした。


「幻滅したでしょ」


私はその間の沈黙に耐えきれずに、

胸の内を声に出してしまった。


「え?」


「貴方の友人にあんなこと言ったのよ」


「ああ……まあ、ぶっちゃけ

驚きましたけど。

いつもの大人っぽいネオさんからは

想像できなくて」


「……でしょ」


「でも、ネオさんが怒った理由を

知らないから幻滅なんてしませんよ」


「なら、その理由を話してあげましょうか?

きっと私に幻滅するから」



────────────────────

ここまで読んでくださり、

ありがとうございます!


作者のモチベーションに繋がりますので、

面白いと思ってくれた方は、

是非とも【レビュー】【スター】【いいね】

の方をよろしくお願いします。













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