第5話 服を?

「セムトさんお呼びでしょうか」


 男の子が丁寧に答えた。

 やっぱり初めて見る子たちだ。どうしたんだろう?


「ああ、すまんね。この子は私の姪のソル。この村のおさ、タリュフの娘だ」


おさの……初めましてソルさん。俺はユーリルです」


「私はコペル」


 男の子がユーリルで女の子がコペルだね。よし、覚えたぞ。


「よろしく!」


 私は二人と握手をする。

 それにしても、ユーリルってなんだか懐かしい気がするな……どこかで会ったことがあったっけ?


「ソル、この子たちはコルカにいた孤児なんだ。今度工房ができるだろう。そこの働き手にちょうどいいと思って連れて来たんだよ」


 そうなんだ。コルカには行ったことが無いから、二人とは初対面のはずだけど……うーん、不思議だ。なぜだか知らないけど、ユーリルのことは知っているような気がする。なんで?

 ちなみに工房というのは、さっき私が回していた糸車を作るための工房で、家の隣にできる予定。これから建設を始めるんだ。


「おじさんありがとう。二人なら大歓迎だよ!」


 この村は盆地の端っこにあるのでそんなに大きくない。みんな自分の仕事があるから、なかなか工房の仕事を手伝ってくれる人がいなかったんだよね。それで、セムトおじさんに働いてくれる人を探してって頼んでいたんだけど、さっそく見つけてきてくれたんだ。さすがおじさん、仕事が早いよ。


「ただ、二人ともまだ子供だから住む場所が無くてな。それでタリュフにお願いしたいと思っているんだが……」


 父さんにお願いってことは……


「もしかして、うちに住むの?」


「ああ」


 やったー!

 見た感じ二人は私とそう変わらない年齢だと思う。村に同い年くらいの子供がいなくて、ほんのちょっと寂しかったんだ。


「後から連れて行くから、タリュフに伝えといてくれるかい」


「わかりました。テムス行くよ!」


 こちらの様子を見ていたテムスを連れ、広場を後にする。


「ソル姉、あの二人が家に来るの?」


 そうか、テムスにも聞かなくちゃ。


「父さんが許してくれたら一緒に住むことになるんだけど、テムスはどう思う?」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんが増えるんでしょう。わくわくするね」


 よかった。他人が来るのは嫌と言われたらどうしようかと思っていた。


「それで部屋はどうなるの? 僕、せっかくならあのお兄ちゃんと一緒がいいよ。優しそうだし」


 私は優しくないのかな……


「そ、ソル姉そんな顔しないでよ。一緒に寝るのが恥ずかしいんだって」


 なーんだ。テムスも10歳、そんな年頃か……いや、それにしても早くない? 結構おませさんなのかな。


 まあいずれにしろ、二人を別々に住まわせるほど部屋が余っているわけじゃないんだから、誰かと一緒にならないといけないんだけどね。仮にユーリルとコペルの二人が想い合っていたとしてもまだ結婚できる年じゃないはずだから、この村の決まりで一つの部屋にはできない。なら、男同士、女同士で部屋を分けるのが妥当なところ。


「父さんに言ってみよう」


 この世界では、家のことは家長である父親が決めることになっていて私たちはそれに従うだけ。でも、せっかくならみんなと仲良くしたいな。








 日が落ちかけた頃、おじさんがユーリルとコペルを連れてやってきた。詳しく話を聞いてみると、昨日の隊商の隊長さんが言った通り、西の方で水が枯れた影響で住めなくなった町や村がいくつかあったらしく、二人はそこの住民だったみたい。


「義兄さん、ソルから聞きました。その子たちを家で預かればいいんですね」


 居間には家族全員が集まっている。父さん、母さん、長男のジュト兄とお嫁さんのユティ姉、長女の私と次男のテムス、そして、セムトおじさんとユーリルにコペルだ。


「ああ、この子たちは孤児でね、住む場所が無いんだ。年頃も良さそうだし、ここで預かってもらえないだろうか」


 おじさんはそう言いながら私とテムスの方を見た。

 もしかして、ユーリルは私とコペルはテムスと一緒にさせようとしているんじゃ……


「ふむ、それで二人はいくつですか?」


「さあ、年を言ってごらん」


 おじさんは私の隣に座っているユーリルとコペルの方を見る。


「俺は15歳です」


「私は14」


 ユーリルは同い年でコペルは一つ下ね……10歳のテムスとはちょっと離れているけど、これぐらいは普通だ。


「預かるのは構いませんが部屋が……」


「あ、それなら私がコペルと」


「僕がユーリル兄と一緒でいいよ」


 部屋のことは、父さんが引き取ると言ってから伝えようってテムスと話していたんだ。


「ということだが、二人ともそれでいいかい」


 ユーリルとコペルはうんと頷いてくれた。


「それでは、ジュトはユーリルを、ソルはコペルを見てきてくれ」


 私がコペルを? …………ああ、そうか女の子だもんね。


「コペル、付いて来て!」


 コペルを連れ居間を出た私は、中庭を通り抜け空き部屋へと向かう。


「何をされるのか不安……」


 コペルは部屋の前で立ち止まってしまった。


「ごめんね、決まりなんだ。私を信用して中に入ってもらえないかな」


 うんと頷いたコペルと一緒に部屋に入った私は、火種から油灯ゆとう(油の先から出た芯に火を灯したもの。ソルの世界の照明)に火を移し、コペルとの間に置く。外は暗くなってきているけど、これがあればコペルを調べることができる。


「コペルは女の子だよね」


「そう」


「それじゃ、服を脱いで」


「服を?」


「うん、全部」


「なぜ?」


 まあ、そうなるよね。


「まずは、コペルがほんとに女の子か調べさせてもらって、あとは怪我とか病気とかしてないか見せてもらいたいんだ。うちは薬師もしてて治療もできるから」


「わかった……ソルを信用する」


 服を脱いでいくたびに徐々にあらわになるコペルの素肌。

 油灯の明かりに照らされた白く美しい肌に見とれてしまう。

 すべてを脱ぎ捨てたコペルの体は間違いなく女の子のそれで、パッと見たところ傷は見当たらないようだ。


「ソル。恥ずかしい……」


「ご、ごめんね。今度は触らせてもらってもいいかな」


「うん」


 コペルの体を確かめる。あざや隠れた傷がないか丹念に見ていく。

 うん、目立った痣は無かったけど、あとは……


「コペル、ここに座って足を開いてくれるかな」


「そこも?」


「う、うん……」


 コペルは私の指示に従い腰を下ろし、足を開く。

 その間に油灯を置くと、淡い光がコペルの足の付け根を照らし出していた。

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